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とある本紹介式読書会の記録~2022年11月編~

◆はじめに

 11月13日(日)の朝、学生時代からの知り合いと毎月やっているオンライン読書会に参加した。この読書会は元々、東京都内のカフェの貸会議室などを使って数ヶ月に1回対面式で開催されていたものであるが、2年前の秋からオンライン開催に変わり、以来毎月行われるようになった。就職を機に地元関西に帰っていた僕は、オンライン化を機にこの会に復帰し、それからは毎月顔を出している。

 この読書会は、メンバーがそれぞれ本を持ち寄り紹介し合う形式でやることもあれば、決められた課題本を読んできて感想や考察を話し合う形式でやることもある。今回は前者、すなわち本紹介式の読書会であった。

 他の読書会では、「本の紹介は1人○冊まで」と決められていることが少なくないが、この読書会では、1人当たりの持ち時間(だいたい15分くらい)に収まれば、本は何冊紹介しても良いことになっている。これは、何回か読書会をやってみて、1冊の本をじっくり紹介する人もいれば、色んな本をサクサクと紹介する人もいることがわかったので、冊数よりも時間を揃えた方が良いということになったからである。また、オンライン開催だと本の実物を持ち運ぶ必要がないため、沢山の本を紹介しやすいということも関係していよう。

 この日の読書会の参加者は、僕を含めて6人。すなわち、メンバー全員揃っての読書会であった。このところ欠席者のいる回が続いていたので、全員集合したということがちょっぴり嬉しかった。紹介された本は全部で9冊。小説・マンガ・時事問題系・雑学系と、相変わらず多彩なラインナップであった。

 それでは、前置きはこのくらいにして、本の紹介に入ろう。

◆1.『もやしもん』(石川雅之)

 経済小説などを紹介することの多いメンバーから紹介された本です。最近メンバーの1人が良いマンガ本を探していたことを受け、今回はマンガを用意したとのことでした。

 主人公は、東京都内のとある農大(東京農業大学がモデルらしい)に入学した1人の男子学生。彼には菌を見ることができるという特別な能力がありましたが、見えた菌がどういうものか知っているわけではなく、能力の使いどころもわからず、受け身の姿勢で学生生活を送ろうとしていたました。しかし様々な経験を経る中で、徐々に積極的な行動を取るようになり、生活を充実させていきます。『もやしもん』は、そんな彼の、入学してから1年間の軌跡を描いた作品です。

 紹介者は大学に入る前か、入って間もない頃にこの作品と出会い、積極的に行動することが学生生活を楽しむコツなんだと学んだそうです。その学びは、実際の学生生活の送り方にも影響を与えたと話していました。また、この作品には青春物語であると同時に、農業を扱っている作品でもあるので、読むと色んな農業知識が身に付いて面白いという話もありました。

 ちなみに、読書会メンバーの中に東農大の関係者がいたため、紹介後のアフタートークでは農大事情を幾らか窺い知ることができました。この読書会に参加していると、色んな農大知識が身に付いて面白いです。

◆2.『ウクライナ「情報」戦争』(佐藤優)

『もやしもん』を紹介したのと同じメンバーから紹介された本です。こちらは打って変わって時事問題系。この方は以前の読書会で、佐藤優さんの書くものが好きだと話していたことがありました。実際、同じ著者の本は過去の読書会でも度々登場しています。

 この本は、今年の6~7月頃までを対象に、ロシアがウクライナ戦争に関して、西側諸国にどのような情報発信を行っていたかをまとめたものです。本が出た後に戦況が変わったため、未来予測に関する内容などは既に古くなっていると言いますが、一般的な報道とは違う視点からウクライナ戦争を考えられる本であることは確かなようです。紹介者からは、この本の内容は落ち着いて整理し直して、また話したいという発言もありました。話が聞けるのを楽しみに待ちたいと思います。

◆3.『黄金の60代』(郷ひろみ)

 読書会の代表から紹介された本です。代表が紹介する本は新書や社会評論系のものが多いのですが、今回は珍しく芸能人が書いた自伝の紹介でした。なんでもご友人から薦められた本だったようです。

 本の内容は、郷ひろみさんが自身の芸能活動を振り返り、「郷ひろみ」はいかに誕生したかを解き明かす、というものです。代表は本を読んで、「成功は60代からというイメージでやってきた。人生の後半で大きな器を完成させられるように、1つ1つのことをコツコツと努力し、積み上げてきた」という話が印象に残ったと言います。成功することを焦らず、地道な努力の積み重ねを大切にする生き方に、共感を覚えたそうです。

 しかしこの後、代表の話は「長く生きることを前提に人生を考えていくことは大事だ」という内容になっていき、その後の話し合いでは「健康を保つために気を付けていることは何ですか」という問いがテーマになりました。芸能人の自伝の紹介から我々の健康習慣へ話が飛んでいく展開に、僕は正直ぽかんとしてしまいました。が、代表には代表なりに話したいことがあったのでしょう。

◆4.『桜前線開架宣言』(山田航編著)

◆5.『はつなつみずうみ分光器』(瀬戸夏子)

 4冊目と5冊目は一気に見ていきたいと思います。紹介者は、僕が勝手に「師匠」と呼んでいるメンバー。2冊はどちらも現代短歌を集めたアンソロジーで、『桜前線開架宣言』は1973年以降に生まれた歌人の歌を、『はつなつみずうみ分光器』は2000年代以降に詠まれた歌を、それぞれ収録したものです。

 2年ほど前、「小説・評論・マンガだけじゃなくて、詩歌もわかるようになりたい」と思い立った師匠。それから理解する対象を短歌に絞り、まずこれらの本を手に取ったそうです。アンソロジーを選んだ理由は、「何かを理解したいなら、できるだけ沢山のものに当たるのが一番」と考えたから。同時に師匠自身、毎日1首ずつ短歌を作るようになります。やり方がとにかくストイックです。

 師匠の話はここから、本の紹介ではなく、短歌というものの紹介へと移っていきます。師匠によれば、短歌というのはとにかく感じるものなのだそうです。小説や評論を読む場合は、長い文章の中でストーリーや心情を追ったり、主題や主張を掴んだりするために頭を働かせますが、短歌の場合は、31音という短い言葉に込められたものを、とにかく感じ取ることになるそうです。もちろん、感じ取ったものを咀嚼して言葉にすることもできるはずですが、師匠は、短歌を言葉で説明するとどんどん陳腐になっていく感じがすると話していました。

 まさに「考えるな、感じろ」の芸術といった印象を受けますが、それは逆に言えば、感じられなかったら掴みどころがないということでもあります。実際、師匠も未だに、わかる短歌よりわからない短歌の方が多いそうです。それでも、数多くの短歌に触れていると強く印象に残るものが出てくる。そういうものに出会うことが大切なのだと、師匠は胸を張って言っていました。

 師匠の短歌論は、15分という尺に収めるには膨大すぎるもので、僕などは話に付いていくだけでもヤットでしたが、とりあえず、短歌は文章とは別種の芸術なのだという印象は強く受けました。もっとも、本当に大切なのはこうやって話をまとめることではなく、実際に短歌に触れることなのでしょう。というわけで、以前師匠が書いていた短歌に関するnoteを載せておきます。僕も読んでいて、とても面白い記事でした。

◆6.『おちくぼ姫』(田辺聖子)

 ワタクシ・ひじきが紹介した本です。平安古典文学の1つで、日本版シンデレラとも言われている『落窪物語』を現代語に訳し、さらに若干のアレンジを加えた小説です。

 主人公は「おちくぼの君」と呼ばれている姫君。彼女は源中納言の娘で、とある高貴な血を引く人を母親に持っていましたが、早くにその母親を亡くし、継母である北の方からは召使同然の酷い仕打ちを受けていました。この姫君に幼少の頃から仕え、今は源中納言家の女中を務めている阿漕は、姫の置かれた境遇を気の毒に思い、新婚の夫・惟成に、いい人はいないかと尋ねます。

 この惟成、当時の貴族社会で1、2の人気を誇るエリート貴公子・右近の少将と親しい仲にありました。少将は惟成からおちくぼの君の話を聞き、最初は女遊びの感覚で興味を持っただけでしたが、お忍びで対面したのをきっかけに、真剣に結婚を考えるようになります。こうして、不遇のお姫様とエリート少将が結婚するわけですが、物語はこれだけでは終わらず、ここから更にドタバタと展開していきます。

 姫と少将の美しい恋模様と、その周囲で展開する怒涛のドラマのコンビネーションに、僕はページをめくる手が止まらなくなってしまい、一晩で一気に読んでしまいました。平安時代の貴族社会に関する解説がところどころにちりばめられているうえ、言葉遣いや文体が児童文学全集かと思うほどやさしいので、古典に馴染みがない人でも読みやすいと思います。「どうせめでたしめでたしなんでしょ」と冷めたことを考えず、ぜひ身を浸して欲しい1冊です。

◆7.『ヘンな科学“イグノーベル賞”研究40講』(五十嵐杏南)

 読書会の紅一点から紹介された本です。タイトルの通り、イグ・ノーベル賞を題材にした科学系の読み物です。

 本の内容はイグ・ノーベル賞の紹介から始まり、歴代受賞内容の中でも特にヘンテコなものについて解説するという形で進んでいきます。イグ・ノーベル賞と言えば、「何で研究しようと思った⁉」「何でそれを作った⁉」と言いたくなるような研究・発明に対して贈られる賞というイメージがあります。しかし、それらの研究の内容は、案外生活と深い関係にあるようです。例えば、「ハンマー投げと円盤投げでは、どちらの方が目が回るか?」という研究は、人間の持つ平衡感覚の探究と結び付いています。この研究から明らかになった知見は、乗り物酔いしにくくなる方法を紐解く鍵になったようです。

 このように、ヘンテコな研究も意外と実用的なのだという視点も面白いものですが、紹介者が強調していたポイントはまた別でした。「何でそれを調べているのか」と、誰もが疑問に思うようなことを、長い年月をかけて研究する。そこに科学の神髄を見る思いがする。紹介者はそう言っていました。確かに、実用性の有無に囚われず自分の興味をとことん追求している人は、なんだかカッコイイなと思います。

 ちなみに、イグ・ノーベル賞の受賞者には、日本人とイギリス人が多いそうです。アホなことをマジメに、誇りをもって研究する人が日本人に多いのだとしたら、それは嬉しいことだとも、紹介者は話していました。

 ところで、この本の紹介に関連して、読書会の当日まで大阪・心斎橋で開催されていた「イグ・ノーベル賞の世界展」のことが話題になりました。実はワタクシ、読書会終了後にこの展覧会に足を運んでいます。よければ、こちらのレポートもご覧ください。

◆8.『ゴールデンカムイ』(野田サトル)

 毎回テンポ良く様々な本を繰り出してくるvan_kさんから紹介された本です。タイトルを御存知の方も多いでしょう。日露戦争後の北海道を舞台に、アイヌの人々が隠した黄金を求めてやって来た人々と、アイヌの人々との間で展開するドラマを描いたマンガです。

 van_kさんがこの本を手に取ったのは、少し前に北海道を旅行したことがきっかけで、アイヌの文化について知りたいと思ったからだったそうです。実際、この作品はアイヌの文化について相当調べて描かれているようで、読んでいるとアイヌの人たちの暮らしぶりだけでなく、その精神性まで分かるようになると言います。彼らは動物を狩る民ですが、殺した動物を神として奉り、自然の恵みに感謝する文化もまた有していました。そうした生き方のうちには、自然との交わりから遠く離れて暮らす現代人の在り方を考え直すヒントがあるように感じたと、van_kさんは話していました。

◆9.『呉清源棋話』(呉清源)

 もう1つ、van_kさんから紹介された本です。無冠の天才囲碁棋士・呉清源にまつわるエッセイを2本収録した稀少本です。呉清源——どこかで聞いたことのある名前だと思ったら、1年ほど前の読書会でも呉清源に関する本が紹介されていました。van_kさん、よほどこの棋士に思うところがあるのでしょうか。

 この本を手に取った理由は、川端康成が書いた「呉清源棋談」というエッセイが収録されていたからだそうです。川端は、1938年に行われた、最後の終身名人・本因坊秀哉の引退碁を取材し、『名人』という小説を書いていますが、この取材の時、川端に同行し囲碁の解説をしていたのが呉清源だったのです。「呉清源棋談」は、川端の取材秘話とも言うべきエッセイで、その意味でも面白い読み物になっているようです(ちなみに、van_kさんは川端の『名人』も読んでいるようです。折角なのでnoteのリンクを載せておきます)。

 もう1つ収録されているエッセイは、「莫愁」というタイトルのエッセイです。著者は呉清源となっていますが、実際にはある随筆家による代筆だと言われています。それはともかく、エッセイでは呉清源の囲碁観が語られています。囲碁というと、黒と白の勝負というイメージがありますが、呉清源は、囲碁は勝負ではなく調和であると考えていたそうです。調和すれば先手である黒が必ず勝つ。そうとは限らないのは、対局の途中で調和が乱れるからだと、呉清源は考えていました。場の全体に調和をみるこの考え方は、今の社会や人間関係を考えるうえでも大切ではないかと、van_kさんは話していました。

     ◇

 以上、11月13日のオンライン読書会で紹介された9冊の本について書いてきました。いかがでしょう、気になる本はあったでしょうか。1冊でも「これ面白そうだな」という本が見つかっていましたら、レポーターとして嬉しい限りです。

 それでは、あとがきはこれくらいにして筆を置くことにいたしましょう。最後までご覧いただき、ありがとうございました!

(第99回 11月17日)

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