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とある本紹介式読書会の記録~2022年12月編~

◆はじめに

 12月18日(日)の朝、学生時代からの知り合いと毎月行っているオンライン読書会に参加しました。今回の記事ではその振り返りを書いていこうと思います。

 この読書会は元々、東京のカフェの貸会議室などを使って数ヶ月に1回の頻度で開催されていましたが、2年前からオンラインで行うようになり、同時に頻度が月1回にアップしました。就職と同時に関西に帰った僕は、一時期この会には顔を出していませんでしたが、オンライン化を機に復帰し、以来毎回参加しています。

 今回の読書会は、メンバーがそれぞれ本を持ち寄って紹介する形式で行われました。本紹介式の読書会では「1人○冊」といった形で紹介できる本が限られていることがしばしばありますが、この会では、1人当たりの持ち時間——15分くらいのことが多い——に収まれば、何冊紹介しても良いことになっています。何度か読書会をやっているうちに、1冊の本についてじっくり話すタイプのメンバーもいれば、様々な本をテンポ良く紹介するタイプのメンバーもいることがわかったので、冊数よりも時間を揃えた方が良いだろうということになったのです。もっとも、本を何冊も紹介できるのには、オンライン開催の場合紙の本を持ち歩く必要がないからということも関係しているでしょう。

 この日は特に年内最後の読書会だったので、「2022年のマイベスト本発表」というのがコンセプトになっていました。実際のところ、必ずしもベスト本が発表されたわけではありませんでしたが、各メンバーの今年の読書シーンを彩った本が紹介されていたのは確かだと思います。

 当日の参加メンバーは5人、紹介された本は10冊でした。それでは、紹介された順に見ていきましょう。なお、今回からメンバー紹介の際に、それぞれのnoteのペンネームを付記しております。

◆1.『私だけ年を取っているみたいだ。ヤングケアラーの再生日記』(水谷縁)

 読書会の代表・竜王さんから紹介された本。小さい頃から親や祖父母の身体的・精神的介護に当たっている子どもたち・ヤングケアラーの日常に迫るマンガ形式の本です。

 少し中を覗いてみると、「このマンガは個人が特定できないよう、複数の子どもの体験をもとに描いていますが、ひとつひとつは実際にあったエピソードです」と書かれていました。子どもながらに介護に当たり、学業や進路の面でも影響を受けているヤングケアラーの存在は、ここ数年の間に新聞でもよく取り上げられるようになりましたが、統計的な話が多く、実際にどんな日常に直面しているのかという話はあまり出てきていない印象がありました。この本はまさに、その日常をつぶさに見ていくものになっているようです。

 本の帯には、「“家族のかたち”を守るため、あの日わたしは自分を殺した——」とあります。この文章からも、ヤングケアラーが困難な現実に直面していること、それによって自分自身を生きられなくなっていることが窺えます。ただし、本の副題に「再生日記」とあるように、この本では希望の持てるラストが描かれているようです。

 竜王さんはいま親の介護をしており、それがきっかけでヤングケアラーの問題にも関心を寄せるようになったそうです。読み進めていくうちに、子どもの頃から介護に直面することの大変さを強く感じ、もっとこの本を知ってもらいたいと思うようになったと話していました。

 紹介後の話し合いの中では、介護の問題の多くを家族が抱え込んでいることをどう見るかという点について、幾つかのやり取りがありました。そのうち、どうもこの問題は一度時間を取って考える必要がありそうだという話になりました。来年どこかで、介護をテーマにした課題本読書会などもあるかもしれません。

◆2.『つまんない つまんない』(ヨシタケシンスケ)

◆3.『みえるとか みえないとか』(ヨシタケシンスケ)

◆4.『ころべばいいのに』(ヨシタケシンスケ)

 2冊目から4冊目までは一気に見ていきたいと思います。紹介者はワタクシ・ひじきです。2022年の読書シーンを振り返って印象に残っている出来事の1つに、前から気になっていたヨシタケシンスケさんの本を読んだというものがありました。この読書会で絵本が登場するのは珍しいということもあり、読んだ本をメドレー形式で紹介しました。

 ヨシタケシンスケさんの絵本はどれも、親しみやすい絵柄でありながら、大人も「う~ん」と考えてしまうほど内容が深いのが特徴です。

『つまんない つまんない』は、タイトルの通り、「つまんないって何?」「おもしろいって何?」ということがテーマになっている一冊です。ずっと何かが同じだとつまんないのだろうか? 自分に関係がなかったらつまんないのだろうか? つまんない人がいっぱい集まったらおもしろいのか、つまんないのか? ——あれ、つまんないについて考えるのはおもしろくないだろうか? そんな考えが次々飛び出します。日常に退屈しがちな人にとっては、目からウロコの一冊になるかもしれません。

『みえるとか みえないとか』は、目の見えない人の世界の見え方を探るところから、自分と違うところがある人たちとのかかわり方について考えることのできる一冊です。この本のすごいところは、宇宙飛行士を主人公にしていて、目が3つある人の星に着いた途端その星の人に矢鱈と気を遣われるシーンから始まっていることです。目の見える人にも目の見えない人の立場が想像できるような書き出しになっていて、ソワッとします。話は後半へ進むにつれて、見える/見えない以外の様々な違いにも及ぶようになり、健常者—障がい者の違いを、ひとりひとり別個の私たちの違いという枠組みで捉え直せるようになっています。

『ころべばいいのに』は、「誰かを嫌いになる気持ちとどう向き合うか?」がテーマになっている一冊です。主人公は、誰かを憎むことにエネルギーを使う自分にモヤモヤしている女の子。女の子は学校から家に帰る間に、誰かが嫌いでたまらない時にどうしたらいいだろう、そもそも誰かを嫌いにならずに済むようにするにはどうしたらいいだろうと考えます。その思考を追ううちに、読む人もまた、怒りとの折り合いのつけ方を考えることができるようになっています。人を嫌ってしまうことに罪悪感を覚える人や、人を嫌う時間が勿体ないと思っている人には、一度読んでみてほしい本です。

◆5.『一九八四年』(ジョージ・オーウェル)

 いつもテンポ良く色んな本を出してくるvan_kさんから紹介された本。情報統制・思想統制の進んだ社会を描いたSFの古典です。

 この本の中で登場する統制の方法は、教育・報道規制・監視カメラなどです。van_kさんは読んでいて、これらの方法が現実社会でも実現可能なものであることにゾッとしたと言います。中には既に実現している技術もあるので、もし何者かがその技術を悪用したらどうなるのかと、考えを巡らせたそうです。

◆6.『最長片道切符の旅』(宮脇俊三)

 こちらもvan_kさんからの紹介本。国鉄の営業距離が最長だった時代に、最も移動距離が長くなる片道切符を買って実際に乗り通した、鉄道ライターのノンフィクションです。

 出発地は北海道の広尾(現在は廃止)、目的地は鹿児島の枕崎。最短経路でも2700キロに及ぶ長い旅になりますが、宮脇さんはその区間を、最も移動距離が長くなるように乗り通します。青森から関東へ行くのに、一旦太平洋沿いに南下した後、山間部を通ってUターンし、今度は日本海側を南下するという具合。その旅路は、距離にして13000キロ、所要時間にして34日にも及んだと言います。なんと阿呆なと言いたくなりますが、今もなお現役の路線図をもとに同じことをやろうとする人がいるそうです。

 途轍もなく長い距離を、ただ乗車するだけ。その一部始終に触れながら、旅とは何か改めて考えさせられたと、van_kさんは話していました。

◆7.『人新世の「資本論」』(斎藤幸平)

 続いてもvan_kさんからの紹介本。2021年の新書大賞に輝いた話題書なので、ご存知の方も多いかもしれません。

 本の内容は、現代社会の様々な問題、特に環境問題の原因を資本主義に求め、現在とは違う社会の在り方としてコミュニズムを提唱するというものです。かなり壮大な話をしているという印象を受けますが、van_kさんはこの本で書かれていたことを、自分自身を取り巻く問題を考える際にヒントにしたと言います。お金の問題、人との付き合いの問題、共感の問題。それらをどのように捉え、どんな実践的な解を出すかを考えるに当たり、この本の内容が色んな示唆を与えてくれたそうです。大きな話として捉えることも、身近なものを考えるヒントとして捉えることもできる本のようですね。

◆8.『タコピーの原罪』(タイザン5)

 これまでの読書会レポートでは「師匠」と呼んできたメンバー・しゅろさんから紹介された本。2022年上期にSNSで話題になっていた、「ジャンプ+」発のマンガです。

 主人公の女の子・しずかちゃんのもとに、タコピーという宇宙人がやって来るところから物語は始まります。タコピーは助けてもらったお礼に、しずかちゃんの役に立とうとして様々な道具を出します。それらの道具は、いじめやネグレクトなどに遭っていたしずかちゃんを助けるためのものだったのですが、結果は悉く裏目に出てしまいます。そんな中タコピーはある「罪」を犯してしまうことになるのです——

 しずかちゃんという名前や、秘密の道具を出すキャラクターの存在など、あの有名マンガにちなむ要素がちりばめられている作品ですが、あちらと違って内容はダークなものとなっています。不穏なタイトル、1話からゾワゾワさせてくる構成力、何かが普通ではないと思わせてくる絵、どれを取っても完成度の高い作品だと、しゅろさんは話していました。

 もう1つ、しゅろさんが言っていたことがあります。「これもジャンプなのか!」ということです。友情・努力・勝利というかつての王道作品だけでなく、明らかに毛色の違う作品も扱い、なおかつ話題をさらっていく。「ジャンプすごい」と、驚きと悔しさを味わいながら感じた作品だったということでした。

◆9.『ウマ娘 シンデレラグレイ 8』(久住太陽・杉浦理史)

 ある時は経済関係の本、ある時はマンガを出してくるメンバー・urinokoさんからの紹介本。今回はマンガでした。「ベスト本を考えながら読んでいるわけじゃないんですけど」と断りを入れつつ、「最近のマンガである程度巻数を重ねているものだと、これはかなり面白かった」と話していました。

「ウマ娘」は元々、競走馬を擬人化したキャラクターを育成し、レースでの勝利を目指すゲームから始まったコンテンツで、その後アニメ・マンガ作品が展開しています。紹介された『シンデレラグレイ』は、競馬界一のシンデレラストーリーと言われるオグリキャップの物語を題材にした作品です。

 urinokoさんによると、1~4巻までは、オグリキャップがただ勝ち続ける話なのでそれほどハマらなかったが、5~6巻辺りから世界最高峰の馬を相手に苦戦する様子が描かれ始め面白くなってきたと言います。そして8巻でオグリキャップは勝利を収めるのですが、このシーンが1巻からずっと読んできた人にはとても感動できるものになっているそうです。ずっと作品を追う大変さはあるけれど、ぜひ同じ感動を味わって欲しいとurinokoさんは話していました。「陸上スポ魂ものとして読んでいただければ」とも言っていました。

 ちなみに、urinokoさんが「2022年の本」としてこの本を挙げたのには、ABEMAがサッカーW杯の放映権を獲得し無料配信を行った背景に、「ウマ娘」で動いたビッグマネーがあったから、という理由もあったようです。マンガの話と思わせておいて、ちゃんと経済の話も絡めてくる辺り、らしさ全開のプレゼンだなあと思いました。

◆10.『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』(地主)

 引き続きurinokoさんからの紹介本。こちらもマンガで、タイトルの通り、スーパーの裏でタバコを吸う男女のやり取りを描いた作品です。元々はツイッターに上げられていたものですが、そこで話題となり、連載が決まり、本まで出たという作品のようです。
 urinokoさんは、この作品で描かれている関係のありようを見て、「現代人が必要としている人間関係」「ツイッター民が一番憧れていた人間関係」と感じたと言います。どんな関係が描かれているのか、気になる紹介でした。

     ◇

 読書会で登場した10冊の本を紹介しました。振り返ってみて、小説・新書・エッセイ・ノンフィクション・マンガ・絵本と、いつも以上に多彩なジャンルの本が飛び出していたことを強く感じました。2022年を締めくくるに相応しい、充実した会だったと言えるでしょう。

 さて、本の紹介はここまでなのですが、実はこの日の読書会では、本以外のものも紹介されていました。最後に番外編として、2つほど取り上げましょう。

◆番外編1:辻潤(作家)

 van_kさんから紹介された戦前の作家です。最初の仕事を追われて以降定職に就くことはなく、放浪生活を送りながら文章を書いていたそうです。文章を書くことについても、何かを書きたいと思った時点で自分は「束縛の囚人」であると書き残しており、何かに縛られていると思うと嫌気がさして手に付かなくなるタイプの人であったことが窺えます。

 現代社会を生きる者の目で見れば、辻潤という人はアレコレ言葉を並べた挙句何もしないでいる無精者ということになるでしょう。しかしvan_kさんは、辻潤のそうした在り方のうちに、生産者としてあくせく働くことを是とする資本主義の考え方を捉え直す契機が見えると言います。今の社会の当たり前を様々な角度から問い直しているvan_kさんには、当たり前の対極に位置するものが思考の導き手に見えるのでしょう。

◆番外編2:『ドライブ・マイ・カー』(映画)

 しゅろさんから紹介された映画です。「本の紹介というのを抜きにして、2022年のマイベストコンテンツを挙げるなら、これ!」ということで、『タコピーの原罪』よりも前にこの映画の紹介がありました。

 しゅろさんが推していたポイントは2つ。1つは、台詞や言葉による説明が少なく、あくまで映像を見せる作品であったこと。この作りがしゅろさんの好みに合っていたようです。もう1つは、チェーホフの作品が劇中劇として使われていたこと。しゅろさんは見るのに教養のいる作品に触れていきたいと考えていたようで、その面でも『ドライブ・マイ・カー』は好みだったと話していました。3時間に及ぶ映画ですが、中身が詰まっているので長いとは感じなかったそうです。

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 以上で、番外編も含め、12月18日の本紹介式読書会の振り返りを終わりたいと思います。最後までご覧いただきありがとうございました!

(第113回 12月22日)

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