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第9回「とある本紹介式読書会の記録~12月編~」

◆はじめに

 12月19日(日)の朝、学生時代からの知り合いとZoomで読書会をやりました。少し日が経ってしまいましたが、今回はその振り返りを書いていこうと思います。

 以前別の記事で「彩ふ読書会」という、関西・関東の各地で行われている読書会話をしたことがありますが、今回お話しする読書会はそれとはまた別の、もっとこぢんまりとした会です。東京の大学に通っていた参加者が知り合いに声を掛ける形で広げていった、緩やかな身内のような集まりなので、外向けの名前も特になく、僕らはただ単に「読書会」と呼んでいます。振り返りをつけるようになってから、名前がないと不便だなあと思うこともしばしばありますが、ないものは仕方がないので、今回もただ「読書会」とだけ書くことにします。

 元々は東京の都心部にあるカフェの貸会議室などで開催していましたが、昨年秋からオンラインで開催されるようになり、同時に開催頻度が月1回になりました。就職を機に関西へ帰っていた僕は、オンライン化を機に復帰し、その後はZoomの予約係として毎回顔を出しています。現在の常連メンバーは6人。19日の読書会には、このうち5人が参加しました。
 読書会のやり方は様々ですが、この読書会では今のところ、参加者がそれぞれ好きな本を紹介するスタイルが続いています。本紹介式の読書会では、「1人1冊」というように紹介できる本の冊数が決められていることがしばしばありますが、僕らの読書会では、1人当たりの持ち時間だけを決めていて(15分程度のことが多い)、その時間内であれば何冊紹介してもOKということにしています。実際に読書会をやってみた結果、1冊の本をじっくり紹介したい人もいれば、色んな本をテンポ良く紹介したい人もいることがわかったので、じゃあそれぞれのやり方で紹介できた方がいいよねという感じで決まりました。本を会場まで持ち運ぶ手間のかからない、オンラインならではの方法かもしれません。19日も、1人だけですが、本を2冊紹介したメンバーがいました。

 それでは、当日5人のメンバーが挙げた6冊の本について、紹介された順にお話ししたいと思います。

◆1.『死なないでいる理由』(鷲田清一)

 ワタクシ・ひじきが紹介した本です。タイトルがずっしり重いので、ずっと紹介するのをためらっていたのですが、自分が良いと思った事実にウソをつきたくないなと思ったので、年末のこの機会に取り出してきました。

 この本は、『じぶん・この不思議な存在』などの本で知られる哲学者の鷲田清一さんが2000年代に書いた、〈いのち〉をテーマにしたエッセイをまとめたものです。高齢化社会の諸問題や生命倫理などのテーマにも触れながら、現代社会にいる私たちの生について幅広く論じた1冊です。
 しかし、なんと言っても一番印象に残るのは、やはりタイトルになっている「死なないでいる理由」という言葉ではないかと思います。このタイトルは、「死ぬとわかっていて、なぜ人間は生きてゆけるのか」という、ある研究者の問いがもとになっています。本書は詰まるところ、鷲田さんがこの果てしない問いに答えようともがく過程を収めたものと言えるのではないかと思います。

 また、個人的にはもう1つ、「消えた幸福論」というエッセイの中に出てくる次の一節がとても印象に残りました。

 幸福への想いというのは、たぶん、不幸の影だ。不幸が幸福の陰りなのではなくて。(p.163)

 人間の定常状態は幸福にあるのではなく、不幸の中でより良い状態を目指してもがくことにある——上の一節に込められたこのような人間観は、その後僕が何かを考える際の出発点になっています。

◆2.『ぼくは会社員に対して絶望していない』(フミコフミオ)

 読書会の最古参メンバーの1人である先輩から紹介された本です。この先輩は6年ほど前からブログをやっており、ここ3年ほどは毎日ブログを更新しているので、僕は勝手に「師匠」と呼んでいます。そんな師匠が紹介したのは、ブログ歴20年以上、月間PV数100万以上を誇るアルファブロガーの本でした。

 もっとも、師匠が話したかったのは本そのものの内容ではなく、著者であるフミコフミオさんの文章についてだったようです。登場人物は、会社の上司や部下、或いは自分の奥さんといった普通の人。書いている内容も、大富豪や有名人にならなくても手が届くような、職場や家庭での何気ない出来事ばかり。言ってしまえば、読んでも読まなくてもいいようなどうでもいい文章。ただとにかく面白い。それがフミコフミオさんの書く文章だと師匠は言います。

 そして、この「どうでもいいけど面白い文章」こそ、師匠が目指す最終的な目標なのだそうです。中身のある文章を書くのは難しくない。けれども取るに足らない話を書くのは難しい。それを面白いと思わせるのは猶更であると、師匠は言います。だからこそ、その境地に挑みたいのだというわけです。自分の文章に中身を持たせたいなあと考えている僕から見ると、真逆の方向を目指している感じですが、なるほどなあと思う話でした。

 紹介が終わった後の時間では、最近ブログを始めたメンバーや、始めようか迷っているメンバーから、書くことについて色々質問が出ていました。日々何やら書いているメンバーがいることで、他のメンバーが刺激を受けているという感じがして、心が弾みました。

◆3.『その悩み、僕らなら数学で解決できます』(はなお&でんがんと仲間たち)

 常連メンバーの紅一点から紹介された本です。所用で途中退出してしまいましたが、その前に最近読んで面白かったという本を紹介してくれました。

 この本は、物理や数学に関するテーマを扱っているYouTuberが仲間と一緒になって、日常の様々な悩みを数学で解決しようとするものです。例えば、「恋人と巡り会うためにはどうすればいいか」という悩みに対しては、万有引力の法則をもとに答えを出そうとします。万有引力の基本となる考えは、距離が近付けば近付くほど引かれ合う、そして、互いの質量が大きければ大きいほど引かれ合うというものです。これを人間にあてはめると、つまり恋人に巡り会うためには、まず体をとことん大きくして……ということになるわけですが、「どう考えても現実的じゃない」ということで、この仮説は棄却され、新たな説が模索されます。

 そんな例を聞いていると、数学でお悩み解決とはいかなさそうな感じがしますが、この本のポイントはそこじゃないと、紹介したメンバーは言います。大事なのは、理系の面白さを伝えられること。僕も経験がありますが、学校の勉強ばかりだと、理系の話は難しくてよくわからないという印象が芽生え、そこから理系嫌いになってしまいます。紹介したメンバーは、自身が理系ということもあり、理系の面白さを伝えることに関心を持っているようで、この本の著者の活動にとても注目していると話していました。確かに、ちょっとギャグめいている方が、理系への興味は増すかもしれませんね。

◆4.『新しい資本主義』(原丈人)

 読書会の代表から紹介された本です。代表は社会の動き、中でも社会問題に強い関心があり、経済的なアプローチで問題の解決策を考えようとしている人です。今回の本のチョイスにも、その傾向がよく表れているように思います。

 首相交代の後、内閣主導で「新しい資本主義実現会議」というものが開催されています。その「新しい資本主義」というワードの元になったのではないかと目されているのがこの本です。市場の信頼すべき点と、市場の限界の双方を踏まえたうえで、バランスの取れた政策提言を行っていることが特徴だといいます。経済至上主義に陥ることなく、人と人のつながりなどに代表される社会的な要素に目配りしているところがポイントのようです。

 本の紹介とは離れますが、読書会を通じて何度も経済に関する話題に触れている割に、僕はかねてからの経済音痴ぶりが改善していません。来年は経済に関する本もちゃんと読もうと、これを書きながら思いました。

◆5.『OL、ラッコを買う』(井上知之)

 いつも色んな本をテンポ良く紹介していくメンバーから紹介された本です。この本についての紹介はたった一言。「イライラしている時に読むといい」確かに、表紙のラッコの絵を見ただけで、癒し系なんだろうなあと察しがつきます。

◆6.『呉清源とその兄弟 呉家の百年』(桐山圭一)

 5.を紹介したメンバーが紹介したもう1冊です。こちらはノンフィクション。ほのぼの系マンガからは、ジャンルもテイストもガラッと変わります。

 呉清源は、大戦期から高度経済成長前にかけて活躍した囲碁の名人です。ただ、タイトルは持っていませんでした。呉清源の名を世に知らしめたのは、十番勝負という、同じ相手と10回対局し多く勝った方を勝者とするスタイルの勝負です。十番勝負において、呉清源は当時第一線で活躍していたプロ棋士を次々に破っています。それゆえ、タイトルはなかったものの、誰よりも強かった天才棋士なのではないかと言われています。

 紹介したメンバーは、NHKBSで呉清源のドキュメンタリー番組が放送されていたのをきっかけに、この本を読んだと言っていました。こういう人の生き方から何か学べるのではないか、そう思いながら読んだそうです。

     ◇

 以上、12月19日の読書会で紹介された6冊の本について振り返ってきました。如何だったでしょうか。

 読書会ではこのように、ジャンルもテーマもバラバラの本が次々に紹介されます。自分からは手に取らないだろうなあと思うものも沢山あり、本の世界は広いなあといつも思います。そんな中、今回の特徴を挙げるとしたら、小説がなかったこと、そして、ブロガーの書いた本とYouTuberの書いた本が同時に紹介されたことではないかと思います。特に後者は、書くことを巡るやり取りが会の途中に挟まったことも含め、今回の読書会の雰囲気を左右する大きなポイントだったような気がします。

 読書会が終わった後、いつも1時間くらいフリートークをするのですが、この日のフリートークの話題は再び書くことになりました。特に、僕が今月noteを始めたことが影響したらしく、noteについての話が色々出ました。するとその中で、読書会メンバーの記事を集めてマガジンを作ろうじゃないかという話が出ました。自分一人で書くばかりでなく、色んな人が集まって書いていく場所が出来るのは面白そうだという話になり、早速その場でマガジンが誕生しました。折角なので、この記事もマガジンに入れてみようと思います。

 マガジンには師匠が既に読書会レポートを挙げています。同じ会の振り返りですが、僕とはまた違った書き方をしているので、よければ見比べてみてください。今後の読書会レポートもここに入れていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 それでは今回はここまでです!

(12月23日)

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