EAの功罪#3 企業全体のウォーターフォール開発【そんなの無理】
昨今、デジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉が賑わっていますが、実は過去にも似たようなデジタル化を推進する潮流がありました。いま思い出すのも恐ろしい、そして、もう二度と関わり合いたくないエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)です。
先般、EAというIT開発方法論の概要を述べ、こと日本企業においては組織力学が働くことからなかなか理想通りには行かないことをお話しました。
EAの功罪#1 理想のIT開発論とその現実【普通の考えではうまくいかない】
EAの功罪#2 地獄への道は善意で舗装されている【誰も失敗を望まない】
EAの功罪#3 企業全体のウォーターフォール開発【そんなの無理】
今回はEAの功罪として功の部分、すなわちEAの良い部分に触れてみたいと思います。
① EAは企業全体のウォーターフォール開発
EAは理想であって実際に適用するのは難しい。これは間違いないのですが、EAそのものは世界でも有数の天才たちが考え抜いた結晶だけあって有用な部分は多数あります。というより現在においても、IT開発の教科書としてこれ以上のものはないと思います。
とりわけ有用なのはEAフレームワークです。
EAでは、最上流フレームワークとして「業務とIT」を4つのレイヤで表現します。結構シンプルです。各レイヤの詳細や具体的な成果物は参考書籍をみたりググったりすればいいですが、端的には下記の通りです。
ざっくり言えば、業務プロセスを整理し、業務で扱うデータを決め、そのデータを扱う機能要件を決め、その機能を実現する技術を定義します。こう書いてみると「普通の考え方じゃん？」と思うかもしれません。
そう、普通の考え方です。
EAの基本的な立て付けは、個別IT開発における「普通の考え方」を会社全体のレベルにまで拡張して、複数ITが混在する環境においても適用してやろうぜ、ということです。僕の理解では、EAは企業全体のウォーターフォール開発と解釈しています。
② あなたの会社は普通の考え方ができない
この「普通の考え方」というのがとても重要です。実際のところ、あなたの会社は普通でないことになっています。
たとえば、あなたの会社に「唯一の業務一覧ドキュメント」はでしょうか。営業・開発・生産・調達・運用・人事・総務などの業務機能について、すべての業務フローを一元的に管理して、社員が誰でも参照可能にしているでしょうか。他部署の工夫を自部署に取り入れて組織力をあげる仕組みがあるでしょうか。
たとえば、あなたの会社に「唯一のデータ辞書」はあるでしょうか。それは業務の変更にあわせてリアルタイムに更新しているでしょうか。「顧客ID」と「お客様番号」と「得意先コード」が混在してたりはしないでしょうか。
あなたの会社では複数ITの画面構成は一定のルールに基づいているでしょうか。あるITではメニューが横にあるけど、他のITではメニューが縦にあるなどバラバラだったりしないでしょうか。
データ可視化ツール(Tableau, PowerBI, QlikSenseなど)を無秩序に導入していないでしょうか。Java, C#, Pythonなどプログラミング言語に採用基準はあるでしょうか。Oracle, MySQL, MS SQL ServerなどをSIerのいいなりで導入していないでしょうか。Zabbix, JP1, OpenView, System wakerなどが乱立していないでしょうか。
③ EAは企業統治の桃源郷を語る
もしも、です。企業全体で、業務・データ・機能・技術を一元的に統制管理できたとしたらどうでしょうか。
誰でも適切な業務ができるし、ITの画面ポリシーはすべて同じで使い勝手が良い。開発工数も少ないし、集中購買によって調達価格を下げるとこともできる。扱うミドルウェアが少なければ運用面でも効率的だし、ナレッジが溜まりやすいので人材育成も容易になります。その結果、企業全体として品質・費用・納期ともに大きく改善するのではないでしょうか。
EAはこうした桃源郷を語ります。
経営層がコンサルに説得されるのも無理もない話かもしれません。たしかにこの「普通の考え方」が実現できるなら、業務とITのムリ・ムダ・ムラがなくなります。社員はムダな業務をしなくなり、法外なIT開発費を支払わずに済みます。すなわち、莫大な利益を目論むことができます。
これはつまりウォーターフォール開発です。もし、
* 顧客ニーズや市場動向・技術動向が変わらないこと
* 数年後の完全なる未来予知ができること
* ユーザが未来の業務プロセスをキッチリ決められること
そんな仮定が成立するなら、言うまでもなくウォーターフォール開発は理想的な開発手法です。それと同じように、EAもやはり理想的な業務とITの最適化方法です。
実際は、完全なる未来予知はできないのでEAを実現するのは困難です。ですが、実はEAの枠組みはDXにつながる重要な示唆を含んでいます。
ちょっと長くなったので別エントリでお話しようと思います。
つづく。
EAの功罪#1 理想のIT開発論とその現実【普通の考えではうまくいかない】
EAの功罪#2 地獄への道は善意で舗装されている【誰も失敗を望まない】
EAの功罪#3 企業全体のウォーターフォール開発【そんなの無理】
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