EAの功罪#2 地獄への道は善意で舗装されている【誰も失敗を望まない】
昨今、デジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉が賑わっていますが、実は過去にも似たようなデジタル化を推進する潮流がありました。いま思い出すのも恐ろしい、そして、もう二度と関わり合いたくないエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)です。
前回、EAというIT開発方法論の概要を述べ、砂上楼閣で対艦巨砲なプロジェクトが何故か実施にまで進んでしまうお話をしました。
EAの功罪#1 理想のIT開発論とその現実【普通の考えではうまくいかない】
今回はそのつづきの「EA 開始後の顛末」をお話したいと思います。
① EA 開始後、仁義なき戦いが始まる
さて、絵に描いた餅のEA計画にGOサインが出るとどうなるでしょうか。
大企業で物事を変えるには体制からです。まず最初に、経営層からの指示にもとづいて業務部門・IT部門間で「EA推進会議(仮称)」なる定例会議が設けられます。
そして、第1回EA推進会議の冒頭、IT部門より次のことが伝えられます。
* いまのITを全面刷新する
* いまのあなたの仕事は全然ダメなので全て見直すこと
* いままであなたが作ったエクセルを全面廃棄すること
* いままであなたが作った業務マニュアルを全面刷新すること
* ローンチ後、あなたの部署の人員を半分にすること
* 以上は社長がコミットした事項である
花形の自部署が、コストセンターのIT部門から因縁をつけられたのです。こいつらを食わせているのは自分たちなのに、一体全体、何をトチ狂っているのか。場の空気は怒り・呆れ・哀れみ・悲しみが支配していき、ひとときの沈黙のあと「ひとまず持ち帰る」で会議は終わります。
そして第2回EA推進会議。業務部門から次の要件が出されます。
* 既存の業務フローを一切変えないITとすること
* 新規ITの画面構成は既存ITから一切変えないこと
* エクセルを破棄するときは、その全てをITで実現すること
* 業務マニュアルの刷新はIT部門が全て行うこと
* 業務部門の人員削減は一切認めない
* 別途取りまとめる既存ITへの改修要求一式を漏れなく実施すること
さあ、楽しいデスマーチの始まりです。
② 222の法則が発動する
経営層からGOサインが出たことを契機にホントのキーマンがアサインされます。すると、いままで理想として描いていたピカピカの業務フローの欠陥が次々と明らかになっていきます。
業界の商慣習・法令遵守、部門間の政治的力関係、業務部門のアウトソース戦略・中期数値目標との整合性、機器調達先との契約条件、ユーザのIT操作ロケーション。そして何より、数千人に及ぶ関係者の納得感を醸成することや企業カルチャー変革を促すことが困難を極めるなど。どれだけ仕様変更を抑制しようにも不可避な課題がでてきます。
しかし、終わらない夜はありません。
数多の屍を乗り越え、なんとか完成寸前にまでたどり着きます。
しかしわずかばかりに光明が見えたその時でさえも、既存ITを担当するメンバのモチベーション低下、データ品質の低さから生じるデータ移行の度重なる失敗、移行時の長期ダウンタイムの是非などを通じて、さらに何人もの仲間が志半ばで倒れていきました。
その結果、当初予算の2倍以上、2年遅れのローンチ。IT開発では、計画の2倍の費用と2倍の期間がかかり、計画した2分の1の機能しか実現できないという「222の法則」がありますが、その法則どおりの結果となりました。
そして、このデスマーチから生まれたモノが良いモノであればまだ報われもしますが、複雑化し、肥大化し、使い勝手が落ち、日々不具合や不足機能が見つかり、そしてそれらの改修にすら莫大な工数がかかる悪夢のようなITができあがりました。
③ 地獄への道は善意で舗装されている
果たしてコレは何がダメだったのでしょうか？
EAが語るIT開発論は理想的かつ常識的で、しかもDXとは異なり、教科書的なガイドライン文献も豊富に準備されていました。海外では多数の採用実績があり成功事例も数知れません。
コンサルは実に優秀で、吸収できるナレッジも多く、本気でユーザ企業を儲けさせようと考えていました。経営層はただただ「儲ける」というミッションに忠実なだけでした。業務部門は荒唐無稽な話に乗らず実利を取りました。IT部門は経営層判断に従って死ぬ気で努力しました。そして実際にITを開発するSIerは不眠不休で仕様変更に対処しました。
誰も失敗を望んでいません。
すべてが善意です。
そう、地獄への道は善意で舗装されています。
多少思想じみていて申し訳ないですが、理想の姿を追いかけて現実がダメになるのは、あたかも社会主義のオマージュです。部署間や役職間で利害関係の不一致がある以上、現実は理想の通りにはいきません。さらに自社以外のステークホルダが絡むとなおさら不可解なことになります。あなたの周りのDXはこんな感じになってないでしょうか。
そんなわけでEAには二度と関わり合いたくないですが、実のところ、良い部分も色々ありました。というかデジタル化とかDXとかの根幹に関わるような示唆もたくさんありました。さんざん貶めているような気もするので少しフォローしたいと思います。長くなったので別エントリで。
つづく。
EAの功罪#1 理想のIT開発論とその現実【普通の考えではうまくいかない】
EAの功罪#2 地獄への道は善意で舗装されている【誰も失敗を望まない】
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