見出し画像

北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【56】19日目 静内〜苫小牧① 2017年7月29日

大荒れの天候の中、襟裳岬を周回した6月のライド。次は真夏の静内へ戻り、19日目をスタートします。それにしても2ヶ月間で3回目の北海道。ヘルニアや骨折で走れなかった前年の反動もあるとは言え、今思えば遊びすぎ…

▲ 本日のルート

◆ 静内への長い道

7月28日(2017年)、金曜のお昼前。
朝一番で人間ドッグを速攻で終わらせて、川越から埼京線経由りんかい線直通の電車に飛び乗り、天王洲アイル駅の長いエスカレーターを昇って地表に出ると、じりじりした日差しと耐え難いほどの蒸し暑さに包まれました。
前を歩く、露出の多いワンピース姿の妙齢の華奢な女性も、頻りに汗を拭っています。
こういう夏のお嬢さんにムラムラしなくなってしまったのは、歳のせいもあろうが、スリムなだけの女性というのに何だか魅力を感じなくなったこともあります。女性は単に細いだけじゃなくて、お尻やハムストリングにしっかり引き締まった筋肉がつき、ハイヒールを履かずともヒラメ筋がぷっくりと持ち上がっていなければならぬ。そんな女性はきっと、 ウェストも肋骨が不健康に浮き上がってはおらず、柔らかな背筋に覆われているはず…
そんな妄想に囚われているうち、バリウム検査の後で飲んだ下剤が効いてきました。便意を堪えつつ羽田空港へと急ぎます。

空港に到着し、レストランで昼食をとっている時間はなさそうなのでラウンジで空弁を広げると、ポケットの中でiPhoneが立て続けに振動します。まさか、こんな時に仕事のトラブルか、と思いながら画面を見ると、稲田防衛大臣辞任の速報でした。
この当時は、沖縄便も北海道便も、インバウンドによる観光客集中の影響か、遅延に悩まされることが多々ありましたが、この日はスケジュール通りに新千歳空港に着きました。

川越を9時50分に出て、埼京線→東京モノレール→飛行機→列車3本(新千歳空港~南千歳~苫小牧~鵡川)→ 最後に日高線の代行バスと、7つの交通機関を乗り継ぎ、静内駅前に到着したのは、夏の日もとっぷりと暮れた午後7時半過ぎのことでした。
10時間近い移動だったわけです。バンコクやジャカルタにも到着してしまうくらいの時間がかかりました。

▲ 苫小牧駅のホームには、鵡川以遠が運休しているのに「様似行き」の表示が。

とっぷりと日が暮れた、といっても、そもそもその日の北海道は本来の爽やかさとは程遠く、灰色の雲が低く垂れ込め、断続的な驟雨に襲われ、日中から薄暗い一日でした。この年の北海道は、とにかく週末のお天気が芳しくありませんでした。前回の「週末北海道一周ライド」も激しい風雨の中だったし、7月上旬に友人と恒例の美瑛ライドのため都道した時も、降水確率ゼロ%だったにも関わらず午後から猛烈な雨に遭い、予定ルートの半分ほどで切り上げざるを得ませんでした。
幸い、悪天候は今日までで、今週末の天気はまずまず期待できそう。

灯火疎らな静内の駅前通りを、輪行袋を肩に10分ほど歩き、今宵の宿にチェックイン。
ホテルの車寄せにビヤガーデンが設けられ、人気のない町の中でそこだけが賑やか。ただ、一人でビヤガーデンじゃあまりに侘しいので、ホテルのフロントで、気軽に飲める店を訊ねました。
「少し先の通りが、静内の繁華街でして、ここにある『赤ひげ』というお店が…」と教えて貰い、出掛けた先はネオンが2、3瞬くばかり、人通りもなく「繁華街」にしては余りに寂しい一角でしたが、紹介された店は開拓農家をそのまま改装した体の雰囲気があるお店。

▲ 外観からして期待が高まる。

サラリーマンのグループもいれば、カウンターで一人グラスを傾ける老人もいれば、その傍ではサーファー風の女の子がトンカツ定食をがっつり食べつつジョッキを空け、やがて夏休みの女子大生旅行者風3人組が食事に来店し、まあそんな感じに老若男女で賑わう居心地の良いお店でした。
置いてある日本酒が何故か埼玉の酒で、なんでやねん、と忙しそうな年配の大将に突っ込みつつ、お薦めの串焼きをお腹一杯戴いて、お値段は十分にValue for money、満足して店を出ました。

▲ 通りを眺めていたお行儀の良い猫
▲ 街路の店名表示にも馬達が。

◆ 濃霧の朝

明くる朝、ホテル最上階のレストランから見下ろす静内の町は、霧に包まれていました。ヘッドライトを点灯した車の縦列が、静内川を渡って市街地へ入ってくるのが見えます。もっとも、朝霧が出る、即ちその日は晴れる、ということであり、悪い兆候ではありません。

▲ 濃霧の静内

このホテルの朝食はなかなか充実しており、時間をかけてたっぷり食べました。昼食用におにぎりのサービスまで。
朝食に少々時間をかけすぎ、出発は8時半になってしまいました。

「週末北海道一周ライド」では、これまで、なるべく海岸線を忠実に辿ってきました。「北海道一周」というからには、まあ当たり前です。
しかし今日は若干趣向を変えてみます。静内から苫小牧まで一直線に走ったら80キロ程度、せっかくの夏の1日なのに物足りないし、何せこの道は前回の帰り道と昨日、最近2度もバスで走っておるわけです。ここをそのまま折り返しても、機械的にルートを繋いだに過ぎず、虚しさの残るライドになりかねません。レースでもブルペでもなく個人の楽しみなんだから、「北海道一周」という最低限のコンセプトは崩さない範囲で、柔軟に対応したい。

そこで今日は、まず内陸に向かって走り出しました。北海道随一の桜の名所として知られる二十間道路を走ろうというわけです。
もとより真夏に桜を観に行く訳ではありません。二十間道路のさらに山奥には、私の母校の実験農場があり、在学中ここへ夏合宿にやって来て、早朝マラソンで二十間道路を走らされたものです。元陸上部という意地もあって、いつもトップを争っていたものだから、結構きつかった記憶があります。
早朝マラソンの後は農場に戻って馬と牛の飼付、そしてようやくヒトの朝ご飯、午前中は練習、午後は炎天下の農作業、というなかなか濃密な楽しい合宿ではありましたが。まあ、そんな思い出の地を訪ねようという訳です。

◆ 二十間道路

内陸に向かう道を走ります。町を抜けるまでは、素寒貧とした感じの住宅地が続きます。陽射しは濃霧に遮られています。しかし庭先を咲い夏の花々が彩っているためか、多少の華やぎは感じられます。
町を抜けると、中小の牧場が沿道に続いています。やがて「桜並木」の標識が現れました。ここで左折し、牧場の間を抜けて、丘を登って行きます。

丘陵上には、武牧場、オカダスタリオンなどの大規模な牧場があり、その間を二十間道路が一直線に、緩やかに登っていきます。並木の後ろ側に広大な牧草地が広がっています。しかし、朝露に濡れた牧草を食む馬の姿は一頭だけでした。

「サラブレッドは神経質な動物です。無闇に牧場に立ち入ったりしないように」という趣旨の立て看板があります。無神経に馬に近づいて写真を撮ろうとするような輩も少なくないのでしょう。
牧場にとっては、仮に騒音で馬が暴れ、骨折でもしようものなら大損害です。受胎するかどうか分からないのに高額の種付け料を払い、飼育だって手間とコストが掛かります。一方、地方競馬の衰退もあって、競走馬の需要そのものは減少し、売却額は下落しているのです。
美瑛あたりでも、外国人観光客の農地立ち入りが問題になっています。日高でも同様の問題があるのでしょうか。インスタ映えする写真を撮影しようとするあまり、傍若無人に振る舞う輩が増えていることも関係しているのでしょう。

さて、それはともかく、桜のない桜並木ではあるけれど、一直線に緩やかに登る並木道の両側にはすでにコスモスが咲き乱れ、夏らしい陽射しはないとはいえ爽やかな走りが楽しめました。通り過ぎる車も少なく、時間帯もまだ早いので観光客の姿もなく、朝露に濡れた木々と牧草の静かな環境が好ましい。
既に木の葉は部分的に色づいていました。上空は風が強いようで、霧が流され、時折おぼろげに太陽が姿を現します。

▲ 霧の二十間道路

道はやがてT字路に突き当たりました。母校の実験農場は、ここで左に折れて更に山中へ入って行くのだけれど、記憶と違ってこの先の道はダートでした。
まだ先は長いので、ここから引き返します。突然、強めの向かい風がぶつかってきました。海風の強い1日になりそうです。

◆ サラブレッド銀座

二十間道路をゆるゆると下り、途中で右折して、丘陵を越えて新冠側の谷を目指します。別名「サラブレッド銀座」と呼ばれるエリアです。

朝飯の食べ過ぎか、軽い腹痛に襲われ、坂のてっぺんで小休止。草叢の向こうに広い牧草地があり、雨に濡れた緑が瑞々しい。笹の葉の上にはてんとう虫が停まっています。ロードバイクで快走していると、こういうマクロ的な風景を味わいながら走る喜びは減殺されがちです。またMTBでの山旅などもしてみたいなと思いました。

下りは凍結防止の溝が切られ、タイヤが嵌ってしまわないかと神経を使います。

下りきったところには、たくさんの仔馬がいる牧草地。仔馬たちが母馬と一緒に過ごせるのは6ヶ月程度で、その後は強制的に引き離されるのだそう。6ヶ月というと人間で言えば小学生くらいであり、可哀想な気もします。

▲ 谷間の牧草地

海に向かって、向かい風を受けながら、新冠の牧場地帯を走ります。

優駿メモリアルパーク、という施設があります。引退後のオグリキャップが暮らしていた優駿スタリオンステーションに隣接し、オグリキャップ、シービークロスなどの墓碑があるそう。私は馬が身近にいる環境で育ち、また1990年の有馬記念、ラストランを一着で飾ったオグリキャップの姿に身を震わせた世代でもあり、立ち寄ってみたい気持ちもありましたが、今日はまだ先も長いので通過。昨夜泊まったホテルで、ここのソフトクリーム割引券も頂いたのだけど、まだスイーツという気分でもないし。

国道235号線に合流する手前に展望駐車場があり、小休止。まだ霧は晴れず、地平線は煙っています。晴れていたらさぞや伸びやかな眺めであることでしょう。

▲ 展望駐車場にて

ここまで約30Km走りました。しかし、静内から国道をまっすぐ走ってきたなら、ここまでは5Kmほど。まだまだ先は長い。

▪️ ▪️ ▪️

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。引き続き、学生時代に世論調査に来た漁村に立ち寄ったり、高波の被害を受けた日高線の様子を見たり…そして、アイヌ文化の中心地、二風谷へ。
私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかにも旅の記録などを綴っています。宜しければこちらもご笑覧下さい。




この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

アウトドアをたのしむ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?