北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【47】16日目 長節湖〜厚内往復① 2016年11月6日
11月6日(2016年)。
雲はまだ多いものの、陽光の眩しい朝を迎えました。
二重窓を開けると太平洋が広がり、昇ったばかりの朝日が濡れた駐車場に眩しく反射しています。
雪と氷雨が降り続いた昨日とは打って変わり、十勝晴れの一日になりそう。
◆ 晩成温泉の爽やかな朝
iPhoneの充電ケーブルを忘れてきてしまい、バッテリーが残りわずか。昨日の日中に気づけば白糠で調達できたのですが。
眩い朝日の中を、最寄のコンビニへ車を走らせました。最寄、といっても、ここでは内陸にある大樹町の市街地まで行かねばならず、片道30分近くかかります。
昨日はもう真っ暗になってからの到着だったので気づかなかったけれど、陽の光の下で見ると、晩成温泉は目の前に太平洋、後背地に大規模な農場と、素晴らしい環境の中にありました。こんな風景の中でで暮らせたなら、目覚めも良くなりそうな気がします。夜遊びする場所もないから早寝にもなりそう。
牧場と沼沢地の中を走り、大樹町の中心部に近付くと、路面には積雪が多くなりました。日陰は凍結しています。僅か10キロばかり内陸に入っただけで、随分違うものです。
充電ケーブルと共に、朝食用のヨーグルトと、今日はランチポイントも補給ポイントも皆無と思われるのでカロリーメイトを二箱調達し、晩成温泉に戻りました。
8時からは朝風呂を浴びることができます。朝日が燦々と差し込む浴場で、一番風呂の恩恵に浴しまた。
◆ 十勝晴れの空の下
十勝川河口に近い長節湖の畔りに車を停めたのは、もう10時過ぎでした。ここは、砂洲によって閉じ込められた潟湖です。キャンプ場がありますが、もはや雪が降る季節です。だだっ広い駐車場は空っぽ。
今日はここから、昨日の中断地点である昆布刈石展望台への登り口まで往復します。レンタカーを使っての輪行なので、このような形を取らざるを得ません。
ただ、同じ道を往復しても面白くないので、行きは国道336号線を辿り、帰りは海岸線に近いダートや砂地の轍などを拾いながら戻ってくるつもり。折角MTBできたのだから、それなりの楽しみ方ができる道を走りたいのです。
昨日、ディスクブレーキのブレーキシューが開かなかった失敗に懲りて、昨日の午後、厚内駅で再び輪行バッグに収納する際には、スペーサー代わりに飛行機の荷物タグを折り畳んで挟んでおきました。お陰で今日はスムーズに組み立てを終え、走り出しました。
長節湖から2キロほど内陸へ走り、ここまで走って来た国道336号線、通称ナウマン国道に戻り。「ナウマン国道」の名は、沿線の忠類でナウマン象の化石が発見されたことに因んでいるとのこと。
▼ ナウマン国道
https://hokkaido-travel.com/spot/visiting/ho0441/
北海道の短い秋は終わりを告げようとしており、既に冬の始まりと言っても良い時期となりましたが、木の枝にはまだ赤く染まった葉が残り、彩りを添えていました。昨日の雪は既に溶けているものの、路肩はまだ湿っています。
無人の丘陵を一つ越えると、十勝川河口橋。橋上は工事中で、車歩道を走るよう誘導されました。
地図で見ると、この河口は砂州や湿地帯が入り組んで、複雑な様相を呈していますが、橋上から見ると潅木と枯草に覆われたのっぺりした平地が広がっています。復路はこのエリアに入りこんで見るつもりです。
今日の出立ちは、昨日着ていた厳冬期用のサーモジャージーではなく、STEM DESIGNのニットジャージー。アンダーも半袖で、シューズカバーも外しています。それでも寒さは全く感じず、陽光が心地よく感じられます。
周囲は牧草地が広がるばかりの、北海道ではありふれた風景。しかし、そこで陽を浴びる牛たち、牧舎、木々、そのほか間もなく雪に埋もれるであろう風景たちに愛おしさを覚えます。
この感覚は、MTBの速度感のためかもしれません。以前は、ツーリングもシングルトラックも、どんな道でも専らMTBで走っていたものです。40歳を過ぎてからロードバイクを再開し、長距離をより速く走る快感に目覚めましたが、一つ一つの風景をじっくり噛みしめるように走るには、ロードバイクは速すぎるのです。
昨日に続いて今日も、距離はさほど稼げません。しかし、そのことを残念に思う気持ちは、とうに消え去っていました。
目の前に、長い坂道が現れました。左には、丘陵に拓かれた浦幌模範牧場、右には太平洋の広がり。
坂道を急ぐことなく上っていく時間が、心地良くてたまらなかったのです。
◆ 昆布刈石展望台
よく整備された走りやすい上り坂、続いて緩やかな下り坂。
T字路に行き当たって右折すると間もなく、昨日の中断地点である昆布刈石展望台への登り口に到着しました。
ここまで22キロの距離を、一時間半近くかけて、のんびり走ってきました。体の芯もいい感じで温まっています。
ここからの道は「荒れたダート」とツーリングマップに記載されていますが、見上げる限りでは、路面が深く抉れたり、大きな石が転がっていたりしている気配はありません。斜度もさほどではなさそう。もっとも、道はすぐにカーブして尾根の陰に隠れてしまい、その先のことはわからないのですが。
小休止をとって水分補給し、フロントギヤをインナーに落として、登り始めました。
昨日来たときは、少し路面がぬかるんで緩くなっていましたが、今日はタイヤがのめり込むこともなく走ることができます。
登り口から見えていたカーブを曲がったあたりから、傾斜がきつくなってきました。斜度は目見当で15%弱でしょうか。しっかり後輪に荷重しないと、タイヤがスリップします。路面は水流で削られ、荒れています。
たちまち息が上がりますが、ここ数年間で一番きつかったヒルクライム ー ネパールのポカラからサランコットまで、標高差700メートルの荒れたダート ー を思い出し、足をつかないで登り切ろう、と自分に言い聞かせました。
幸いここの標高差は700メートルどころか70メートルばかりしかなく、やがてカーブの先に空と海が広がり、「昆布刈石展望台」の看板が視界に飛び込んできました。
展望台、と言っても、足場が組まれているわけでも駐車場があるわけでもなく、路傍に看板が立っているだけ。
海に向かって左手には、今登ってきたダートと枯れ草に覆われた砂丘、その向こうには昨日通った厚内トンネルの入口が、切り立った断崖に口を開けています。
厚内トンネルがある小さな岬からこちら側は、人気のない砂浜が続き、この展望台に向かって階段状にせり上がっています。一つ下の段は、水流で削られたのでしょうか、ほぼ等間隔で歯のような形で並んでいるのが面白い。
太平洋の荒波を遮る島影も半島もなく、水平線まで視界を遮るものは何もありません。悪天候が続いて海底の砂が巻き上がったためか、海は茶色味を帯び、沖に行くに従って徐々に深緑色に変化していきます。
南の海上には、テーブル状の雨雲があり、そこだけは灰色に霞んでいましたが、私と愛車の上には、見渡す限り北国の蒼空が広がっていました。
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ここまでお読み頂き、ありがとうございました。引き続き、十勝晴れの空の下、十勝川河口を彷徨います。宜しければ続きもご笑覧ください。
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