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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【53】17日目 新吉野駅〜えりも③ 2017年6月10日

十勝川河口に近い新吉野駅から100Kmあまりを駆け、襟裳岬まではあと10Km強。しかし風雨は次第に激しくなり、身体は冷え、気力も低下するばかり。通りすがりに目に止まったプレハブのバス待合所に一時避難しますが…

◆ 襟裳岬への最後の10キロ

このままでは、気力が萎えるばかりと思われました。
それだけでなく、動かないと体温も低下してゆくばかりです。
斯くなる上は、一刻も早くえりも市街まで走り切り、あったかい風呂に入って、呑みに行くしかない…と、再び雨中を走り出しました。

ここまでの走行距離はまだ100キロあまり。峠越えがあったわけでもなく、前夜の寝不足を差し引いても脚はまだ残っているはず。だが、どうにもペースが上がらず、靄に煙る海岸線を、坦々と進むのみ。
後になって思えば、朝も昼もまともな食事をしていなかったので、ガス欠になりかけていたのです。
そんなわけで、正直、このあたりの風景は、殆ど記憶に残っておりません。

ようやく、岬の集落に入りました。小学校があって、今日は運動会でもあったのか、小さな白いテントが校庭に見えます。みんな雨を避けてテントの下か軒先に逃げ込んでいるようで、姿の見えない子供達の賑やかな声だけが集落に響いています。

14時過ぎ、霧に包まれた襟裳岬に到着。

▲ 激しい雨と濃霧の襟裳岬

灰色の靄と激しい雨の煙幕に視界を閉ざされ、灯台も何も見えません。
岬の駐車場に到着するのと相前後して、さらに風雨が一段と強くなりました。もはや、殆ど台風並みの荒れ模様です。
岬の突端の展望台まで歩いて行けるような状況ではありません。

取るものもとりあえず、駐車場脇の、食堂と土産物屋を兼ねた店舗に逃げ込みます。
「こんな天気の中、自転車で来たの?」
店頭でツブ貝を焼いていたおばちゃんに、呆れ顔で尋ねられました。

風雨が収まらないことには先へ進むことも覚束ないので、まずは一旦食堂に腰を下ろし、北寄貝丼を食べます。初めて、自分はこんなに空腹だったのか、と気付かされました。
熱い味噌汁が肺腑に沁みて、ホッとしました。

▲ 救いの神。

腹一杯になると、気力も回復して、元気が出ました。その頃には前線が通り過ぎたようで、風は止み、雨も小降りになっていました。同時に霧も上がり始め、さっきは見えなかった灯台も姿を現しました。

店を出て、岬の突端へと足を運びます。北海道の脊梁部を成す日高山脈が、岩礁となって、波濤に没していきます。
30年ぶりに再会する風景。

若い3人連れの家族に声をかけられ、写真を撮ってあげたり撮ってもらったりしているうちに、雨は上がり、西の水平線が明るくなってきました。

◆ えりも町の市街地へ

襟裳岬からえりも市街地への15キロほどの道は、海岸の丘陵地を上り下りする起伏に富んだ道でした。

手を伸ばせば掴めそうなところに垂れ込める雲。
しかし、西の空には青空が覗き、雲は怪しくも美しい茜色に染まり始めました。
海へ向かって下る道にも、水溜りに微かな光が煌き始めました。

▲ 妖しくも美しい雨上がりの道

間もなく日没を迎えそうな光景ですが、時刻はまだ4時前、しかも今は、2週間後に夏至を控え、一年で最も日が長い時期。
雨上がりの漁村の佇まいも好ましく思われます。

えりも町の市街地に到着する頃には、前線は東に通り過ぎ、上空に青空が広がっていました。
何だか、ようやく朝を迎えたような気分。

予約してあった旅館を見つけ、自転車を止める場所を探してキョロキョロしていると、中から70がらみの男性が出てきました。
今夜お泊まりの方ですか?自転車、玄関に入れてください。
多分おひとりだけですから…といいます。

古い旅館ではありますが、西日の差し込む部屋は明るく、窓の外には漁港を見下ろすことができました。まずは、湿った衣類を出窓にありったけ干して、熱いシャワーを使わせて頂きました。

◆ えりも町の夕べ

乾いた服に着替えて、町を散策。
やっと青空が広がり、海辺の小さな町は伸びやかな雰囲気です。

港を見下ろす高台を国道が走り、国道に沿って寂れた商店街が連なるだけの市街地ですが、コンビニは3店もあります。まずはそのうちの一軒に立ち寄り、ホットコーヒーとサラダチキンにありつきました。

旅館に戻って熱い風呂を浴び、もう全身がとろけて腰砕けになりそうでしたが、もう一度薄暮の町に出て、旅館の近くにあった寿司屋の暖簾をくぐります。

客は最初は私だけ。やがて鹿児島から来たという70がらみの男性が隣り合わせに座りました。

最近は襟裳にも、海外からのサイクリストが増えて来たそう。それは喜ばしいことですね、と言うと、大将は、とんでもないと被りを振りました。彼らの中には、グループでやって来て、バイクを店内に入れさせろ、といった要求をする者がいるそう。

「最初は言うこと聞いてやってたけどさ。他のお客さんの迷惑になるからね。最近じゃ外国人はお断りしてんだ、うちじゃ」と大将が言います。

自転車乗りとしては、彼らの気持ちはよくわかります。でも、たかだか小一時間の食事中、しかも高級バイクの窃盗団が巣食っているとはとても思われない小さな町でもあり、そこは大らかに郷に従ってほしいなあ、とも思います。

一方、通りにはシャッターを閉じた商店も多くみられます。これらを活用して、1時間程度なら50円くらいで一時的に預かってあげるとか、サイクルツーリズムを推進しようとするならば、地域としての取組を検討されても良いのではないかとも思います。

店を出て、静かな港町をもう一回り歩きました。空は再び厚い雲に覆われ始めたようです。

【走行記録】

走行距離  131.8Km
走行時間   5時間35分
平均時速  23.6Km/h (最初100Kmは26Km/h、最後30Kmは20Km/h未満…)
消費カロリー 3082kCal

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第18日目は以上です。最後までお読み頂き、ありがとうございました。19日目は、日高路を静内まで北上します。
この記録は、2015年から2020年にかけて、週末などを利用してロードバイクで北海道一周した時のことを綴っています。その間には、転勤、怪我…他にも年相応のことが色々とありました。よろしければ続きもご笑覧ください。

また、もう一つの趣味であるスキューバ・ダイビングのことも、折に触れ投稿しております。


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