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地方都市の新たな魅力に出会う ブロンプトンとローカル線の旅#8 倉敷のジャズクラブと片上ロマン街道②

大雨の中、ブロンプトンを連れて倉敷へ。2023年6月3日(土)、雨は通り過ぎ、倉敷の街並みの上に爽やかな初夏の青空が広がりました。
今日は、ブロンプトンはホテルに残して、徒歩で美観地区を回ります。

▼ ここまでの記録はこちらです。


🔲 美観地区の一日(続き)

◆ 快晴の朝(続き)

朝8時、まだ人気の少ない美観地区。
この道30年という観光ガイドの方に声を掛けられ、30分1千円で案内を依頼。「この美観地区の景観は、大規模な整形手術の『使用後』」と面白おかしく話してくれました。

▲ まだ静かな朝の美観地区

倉敷美観地区の歴史を顧みると、「倉敷市伝統美観保存条例」が制定され、街並み保存事業が本格的にスタートしたのは1967年。しかしそれより遥か以前、1930年には日本最初の私設西洋美術館と言われる大原美術館がこの地域に開館。大原孫三郎・總一郎親子のような財界人の影響は大きかったことでしょう。喫茶店エル・グレコ、倉敷アイビースクエア、旅館くらしきなど、各時代の文化人に愛され続けているスポットも多く、全国の数ある町並み保存地区の中でも一きわ文化の香りが高く、洗練された印象を受けます。失われたものへの郷愁でもなく、また映画のセットやテーマパークのようなハリボテ感覚でもなく、伝統的な街並みの中に、未来へ向かう躍動感が感じられます。

空いているうちに、と、開館時刻の9時ちょうどに大原美術館へ入り、エル・グレコ「受胎告知」に代表される西洋絵画、また熊谷守一など20世紀初頭に活躍した日本の洋画家の作品を鑑賞。

館内には、親子連れも数組見られました。殆どは両親が子供にきちんとマナーを守らせ、静かに行儀良く鑑賞させていましたが、一組だけ、子供3人がまるで公園にでも来たかのように走り回っていました。若い両親の会話も周囲への配慮と品性に欠けるものでした。
次第に我慢ならなくなって、ガキどもの首根っこを掴んで階段から放り投げたく…この性格は何とかせねばと、自覚はしております。
私が暴挙に及ぶ前に、さすがに係員が見かねたのか、両親の目の前で子供達に、優しく注意する姿が見られました。

▲ 大原美術館の中庭

◆ 足袋シューズ/旅シューズ

「履いて下さってるんですね。ありがとうございます」
若い女性店員にそう話しかけられたのは、倉敷民藝館の隣にある商業施設「SORA倉敷」に入っている丸五のショップでのことでした。
同社は、倉敷にある地下足袋のメーカー。近年ではウォーキング、ランニングなど様々な用途のスポーティかつファッショナブルな製品を色々と発売しています。

先般、私もジムトレーニング用に、通販で一足買い求めました。そうしたところ、ソールの硬さが、フラットペダルの自転車に乗るにはちょうど良い感じなのです。靴底が厚すぎないので、母指球をペダルの軸にしっかり乗せやすい。ちょうど7~8年ほども愛用していたシューズを履き潰した直後でもあったので、予定していたジム用からブロンプトン用に用途変更。この旅にも履いてきました。

▲ 私が愛用しているモデル "hitoe"

地下足袋は元々、登山靴としても優れており、今は分かりませんが私が子供の頃は、中央アルプスや南アルプスの案内人は皆、地下足袋を履いていたものです。
店員としばし立ち話。同じシリーズで、靴紐のついたもっとスポーティな製品も、近日発売されるのだそう。
ただそれよりも、初夏から秋口にかけて心地よくエスパドリーユ感覚で履けそうな、アッパーにユーズドデニムを使用した限定モデルなどに目移りします。お値段も6千円弱と手頃。こういう時、あまり荷物を持てないので散財できないのが、自転車旅行の辛さというべきか、良いところというべきか。

その後も、美観地区を中心に、初夏の倉敷を歩き回りました。

▲ 美観地区の中央部にある中橋。後ろは倉敷館観光案内所
▲ 倉敷アイビースクエア
▲ 阿智神社の石段
▲ 大原家住宅

丸五以外にも、児島のデニム、倉敷帆布、備前焼、マスキングテープ…倉敷は、魅力的な職人の手仕事の宝庫。
文化的な町の空気が、アーティストや料理人を呼び、さらに新たな文化が形成されている。
デザインや芸術は決してお遊びではなく、社会に不可欠なもんだと実感させられます。
次は、ブロンプトンではなく、でっかいスーツケースを連れてこようかな。

◆ 美観地区のJAZZライブ

16時過ぎに一旦ホテルへ戻り、大浴場で汗を流し、その間に洗濯をして、17時にもう一度、美観地区へ出かけます。今夜のライブは18時30分開場。その前に、軽く夕食を済ませておきたいのです。
今朝のガイドさんが勧めてくれた「きびそば」の店へ。蕎麦粉を使わず、きびの粉で打ったそばだとのこと。

店内はほぼ満席でしたが、ちょうどカウンターが一席空くところで、愛想のいい奥さんが手早く片付けてくれ、待つまでもなく入店できました。
きびそばと、ままかり寿司のセットを注文。「お飲み物はよろしいですか」と訊かれますが、この後呑むことになるので、ここでは自重。
…と思ったけれど、無理。
「すみません。やっぱビールを…クラフトビールを何か」
きびそばは、もちもちとした歯ごたえが美味しいそばでした。クラフトビール「独歩」は、癖のないスッキリした飲み口。

▲きびそば、ままかり寿司 & Craft Beer

さて、本日のメインイベント。
美観地区の一角にあるジャズクラブ「ピアノホール アヴェニュウ」で、山中千尋トリオのライブ。

時刻はまだ18時。入場開始の18時30分にはまだちょっと早いかな、と思いつつ、店の前へ行ってみたら、既に行列がすごいことになっておりました。これはあかん、と最後尾に並びます。
私は23人目。早い人はいつから並んでたんだろう。
通りすがりの観光客が皆、何事か、と好奇心に満ちた表情で、店頭のポスターを覗いていきます。ポスターには「当日券少しあります」との表示。先週末、私が予約を入れた後に”Sold Out”の表示が店のHPに出ていたのですが、昨日の大雨の影響で来られなくなったお客さんが、相当数いる様子。

やがて、ベレー帽を被った店の奥さんが出てきて、ライブチャージ6千円也を集金。事前予約の仕組みはあるのですが事前決済の仕組みはなく、事前予約・当日券関係なく、ここでお金を払います。
ようやく入店時刻となりました。店に入ったところでドリンクのチケットを購入。水割り500円也。プラスチックのカップに入ったドリンクを渡されます。

店内は、昔懐かしい昭和の喫茶店のようなインテリア。店の中央にピアノとドラムセット。その周りを取り囲むように、びっちり椅子が並んでいます。
席は先着順。ピアニストの手元がよく見え、かつベースもドラムスも見渡せる席は、行列の先頭の方に並んでいた追っかけと思しき人たちに既に占められており、斜め後ろからピアノを演奏する手元を眺める席へ。この席からは、ドラムスも息遣いも聞こえるほどの臨場感で見ることができますが、ベーシストのプレイがよく見えないのが難点。

店内にトイレは一つのみ。アーティストも店のスタッフも観客も、皆同じトイレを使います。
楽屋、というか控室らしき、暖簾のかかった扉があり、女性ものの靴がつま先を揃えて並んでいます。やがて山中千尋さんの小柄な姿がそこから現れ、上がり框に腰を下ろして、トレードマーク?の厚底靴を履き、一見するとスタッフのように会場内を動き回って、膨大な量のスコアが入ったクリアケースをピアノのところへ持ってきて曲を選び、店頭に最新のCDを自身で並べ、その売上金や釣り銭を入れるらしきポーチをスコアの脇に置き、ドラマーやベーシストとリラックスした風で会話を交わしながら、トイレが空くのを待っています。

ワオ、この距離感!
山中千尋さんは、ブルーノート東京も満席にできる人気アーティスト。私も関東にいた頃に、ブルーノートやビルボードへ、何回かライブを聴きに行きました。そんな大箱で、開演時刻になると照明が落ち、スタッフに先導されたアーティストが花道に登場する、なんてのと全然違う。
誤解を恐れずに例えれば、場末の温泉街にあるストリップ小屋の距離感。
仙台に勤務していた頃時々行った一番町のrelaxin’ や、それよりずっと昔にNYCのハーレムのクラブでアイリーン・リードのライブを聞いた時のことなど思い出します。
この距離感、この雰囲気で、シンプルなピアノトリオ。
私はジャズに特別造詣が深いわけではなく、好きなアーティストが何人かいて、たまにライブを聴きに行く程度の素人。その素人なりに、きっと本当は、これがジャズの王道なんだろう、と感じました。

定刻になり、ファーストセッションがスタート。私は少し乱視気味なのですが、メガネがなくても山中さんの手元がバッチリ見える。
ところが、”Living without Friday”の演奏の途中から、じわじわと尿意が込み上げてきました。入店してから、セッションのスタート前にトイレに行ったのに、なんたること。
1軒目の蕎麦屋で、自分に負けてビールを呑んでしまった報いとしか言いようがない。
膀胱が締め付けられぬようベルトを緩め、続いてチノパンのフロントホックも外して、努めて演奏に注意を向けます。
狭い背もたれに寄りかかってリラックスしたらヤバい感じなので、背筋をまっすぐ伸ばして下腹部の緊張感を保ち、疾走感溢れる演奏についついスウィングして膀胱を揺らさないよう細心の注意を払い、ライブに集中。店内はとにかく所狭しと椅子が並び、その隙間をかき分けてゆかぬことにはトイレへ辿り着けません。いよいよの場合は、曲と曲の合間に恐縮しながら隙間を歩いて行って、次の曲が終わったタイミングで戻って来るしかないか。

…でも、乗り切りました。ファーストセッションのラスト、”Today is another day”まで。
ふわぁ。
セカンドセッションとの間の休憩時間、山中さんは自らCDを販売し、一枚ずつ丁寧にサインしていました。

前半よりさらに熱気に満ちたセカンドセッション。すっかり氷が溶けてしまった水割りを口に運びながら楽しみました。

▼ こちらは、YouTubeにアップされているBLUE NOTE TOKYOでのライブです。当日はもっと激しく熱いライブでした。

ラストは"Yagibushi"、さらに"切手のない贈り物""So Long"などアンコール4回。気がつけば22時。
ワンドリンク含めたった6,500円で、濃密な2セッション。
地方都市のJAZZバー巡り、営業品目に加えていいかも。

すっかりいい気分で、月明かりに照らされた美観地区をしばし徘徊。昨晩見つけたバーへ足を運び、Clonakilty というあまり見かけないアイリッシュウィスキーのボルドーカスクフィニッシュとノーマルとを飲み比べながら、素晴らしい1日を静かに振り返りました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。翌日はブロンプトンの旅。備前の廃線跡を走ります。宜しければ、続きもお読みいただければ幸いです。

▼ こちらのマガジンで、ブロンプトンを連れて地方都市とローカル線を旅する記録を綴っています。

私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは主に旅の記録を綴っており、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、また海外旅行のことなども書いていきます。宜しければ↓こちらもご笑覧下さい。



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