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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【20】7日目 佐呂間〜網走〜女満別② 2015年8月16日

前日から辿ってきたサロマ湖畔の道を後に、能取湖周回道路へ。そして、能取岬へ。幾度でも走りに来たくなるような、素晴らしい道が続きます。

◆能取湖の湖口へ

能取湖と海の間には、小さく突き出した半島があります。北海道の外周を忠実に辿ることに拘るわけではないけれど、ちょっと入り込んでみよう、面白くなかったらさっさとサイクリングロードに戻り、能取湖を周回しようと思いました。
湧網線の廃線跡を利用したサイクリングロードは、なかなか一般道と交差してくれなません。結局、畦道のようなダートが近づいてきたところで、自転車を肩に担いで草地を越えて、一般道へ移動しました。

能取湖口の小さな半島は、殺風景な砂州のようなものかと思いきや、案に相違して、牧草地や小麦畑が広がる丘陵でした。トラクターが一台、空と海と大地の狭間をゆっくりと移動しています。適当なところから引き返そう、などという気持はたちまち消散し、湖口まで行くことにしました。

▲ 能取湖口への道

上空を二羽の小さな鳥が、けたたましく鳴きながら飛び回っています。その下に近づいていくと、路上に猛禽類の死骸がありました。車に激突したのか、首の骨を折った様子。そうすると、上空の小さな鳥たちは雛鳥でしょうか。不憫なことです。

丘陵を下り、最後の1キロはダート。MTBならどうということのない道ですが、ところどころ砂が深かったり、路面が抉れていたりと、ロードバイクでは神経を使う箇所もありました。

湖口には何もありません。わずか30〜40メートルほどの水路をはさんで対岸が見えます。ここに橋がかかっていてくれれば能取岬まではほんの一走りなのですが、あの対岸に行くためには能取湖をぐるりと一周、35キロを走らねばならなりません。こういう場合、タイなら必ず渡し舟があるぞ、と、この場所じゃまず需要がないと判りつつ、文句の一つも言いたくなります。

▲ 能取湖口

ということで、大人しく、能取湖周回ルートを走り出しました。あの猛禽類の雛たちの悲痛な声をまた聞かされるのはやり切れないので、先程とはルートを変え、湖岸にルートをとります。こちらは松林の中を駆け抜ける道で、それはそれで快適でした。


やがて国道238号線に合流。どこかでサイクリングロードに入りたいのだけど、その入り口がなかなか見つかりません。国道もさほど交通量が多いわけではなく、十分快適に走れるのだけれど、元乗り鉄なので、廃線跡には愛着があるのです。
ようやく、サイクリングロードに入れる園地に行当たりました。
サイクリングロードは木立に囲まれ、道の上にも木立が枝を伸ばしていました。木漏れ日の斑点が路上に落ち、穏やかな気分にさせてくれます。

◆ 旧湧網線のサイクリングロード

正午を過ぎ、腹が減ってきました。先程の園地の脇に食堂がありましたが、あまり食指が動く感じではありませんでした。この先も網走市内まで、食事ができそうなポイントがみあたらないのが不安。
それはともかく、タイヤの下で所々落ち葉が鳴る音を道連れに、信号や自動車を気にすることなく走り続ける時間は格別でした。今日は朝から、キムアネップ岬、栄浦への湖岸道路、ワッカ原生花園の生垣のような道、能取湖口への丘の道と、素晴らしい道との巡り会いが続いています。空腹よりも、そのことが幸せに思えてならないのです。

▲ 能取湖を巡るサイクリングロード

サイクリングロードは人影が少なかったが、自転車乗りだけでなく、地元のランニング愛好者にも好まれている道のようで、暑い昼下がりにもかかわらず、数人のランナーとすれ違いました。自転車同士だけではなく、ランナーと自転車がすれ違う際も、多くの場合「こんにちは」と挨拶されます。

能取湖の南岸に至り、木の間越しに先ほど走った湖口の丘陵が対岸に見えるようになりました。やがて、道の脇に蒸気機関車が見えました。立ち止まって見ると、かつての卯原内駅です。駅舎はお色直しを施され、ホームも残っています。昨日の中湧別や計呂地もそうでしたが、廃線跡がこうして新たな生命を吹き込まれ、引き続きコミュニティの中心になっている様子には嬉しくなります。
後になって、この駅舎が喫茶店としても使われており、軽食も取れることを知ったのですが、この時はそんなことはつゆ知らず、先へ進みます。

▲ 卯原内駅跡

卯原内は、珊瑚草の群落で有名です。後日、札幌に戻ってから、ここの珊瑚草の「復活宣言」をニュースで見ました。平成22年に園地の整備を行ったところ、図らずも群生地が縮小する結果になってしまったとのこと。このため、湖水の流出入をスムーズにするための水路整備など地元の努力によって、再生に至ったそうです。次回のライドはタイミングを合わせ、寄り道して見に来ようかと思います。

▼ 卯原内の珊瑚草群落地

能取湖の東岸を走る道に出ました。ここでサイクリングロードと別れ、一般道を北上します。この道は網走市内に続く幹線道路ではないので、自動車は少なく、引き続き快適な走りです。
もちろん、腹が減ったことを除けば、ですが。

▲ 能取湖東岸の道

「レイクサイドパークのとろ」という看板を見かけ、道を逸れてみますが、そばやカレーを売っているプレハブのような建物があるばかりで、食指が動きません。能取岬まで行けば何かあるかも、と期待を込めてパス。ただ、本日の走行距離もそろそろ80キロとなり、少々しんどくなって来てもいます。
手持ちの食料はパワージェルしかないので、取り敢えずそれを口にして、もうひと頑張りすることにしました。
東岸の道もまた、木の間から湖水を眺めながらの、起伏の少ない気持ちの良い道ではありました。

◆ 能取岬へ

能取湖一周35キロを走り切り、再び湖口に戻って来ました。今度は立ち止まらず先を急ぎます。
そして海岸線に出ました。
常呂からは遥か彼方に見えた能取岬が、間近に迫っていました。隆起台地特有の、垂直の絶壁の上に平地が広がる、テーブル状の岬です。その先端に白黒模様の灯台が立っています。

▲ 能取岬を臨む

見事な景観ですが、あの絶壁の高さまで登らなきゃならないのね、というのが、空腹を抱えて走る身には精神的にしんどい。70メートルばかりの標高差に過ぎないのですが。
この道は半島の基部を横断しており、その稜線に向かって登る坂道が既に見えています。
その坂道をじわじわ詰めていくと、トンネルが現れました。意外と長い上りっぱなしのトンネルでした。
トンネルを抜けると、ようやく、能取岬への標識が現れました。

岬への道は、樹林が形作る緑のトンネルを、緩やかに下って行きます。
軽くペダルを回しながら、濃い緑と涼風に、ここまでの疲れが癒されていくように感じられます。
やがて、緑のトンネルの出口が見え、その正面に岬の灯台が見えました。その向こうでは、オホーツク海と空とが接しています。絵のような風景に、心は高鳴りました。

▲ 能取岬への最後の道

そして、道は緑のトンネルを抜けました。

「え、なんだ、これは!」
私は思わず叫んでしまいました。
そこには、想像もしていなかった絶景が広がっていました。
三方は海と空とに囲まれています。
海と空との狭間に、緑の草原が広がっていました。牛たちが群れ、その向こうに白黒ツートンの灯台が建っています。
鱗雲の間からは、陽光が幾筋も降り注いでいました。
一筋の道が、ゆったりと弧を描きながら、岬の先端へと緩やかに下っていきます。

▲ 目の前にひらけた能取岬の風景

札幌から宗谷岬を回って走ってきた幾つもの道たちは全て、私をこの道に導くためにあったのではないか。
そんな風にすら思えました。
ここへ来るのは省略して、能取湖の南岸から網走市内に直行しよう、という考えもなかったわけではありません。そんなことをしなくて、本当に良かった。
どこまでも、この道が続いていってほしいような思いにとらわれながら、ゆっくりと坂を下っていきました。そして駐車場に自転車を停め、草原を歩きました。
草の上に寝転んで空を眺め、何枚もシャッターを押しました。

日が暮れて、やがて星空が岬を包むまで、この空と海と大地の狭間に身を委ねていたい。

北海道一周の長い道程の中でも、忘れられないひと時でした。

※ まだまだ心動かされる風景が続きます。オホーツクは素晴らしい。


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