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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【23】8日目 女満別〜網走〜ウトロ② 2015年9月26日

『週末北海道一周』8日目。強い横風の中のライドになりました。
浜小清水駅に併設された道の駅でそばを啜って腹を満たし、出発。

◆ 止別駅〜斜里のつぶ貝かき揚げ丼

小清水から先、国道は内陸に入っていきますが、釧網本線に沿って海岸線に伸びる道が地図に出ていたので、そちらを選択。
線路越しにオホーツク海を臨む、快適な道でした。陸側に防風林が幾重にもあるためか、横風も幾分和らいで感じられます。
アキアジ漁の最盛期とあって、路上駐車の車が多く、砂浜には釣竿がずらりと並んでいます。この先、知床や標津では、川を遡上する鮭の姿が見られるといいのですが。

やがて、止別駅に到着。ここも古き良き時代を思わせる、小ぢんまりした木造の駅舎です。語源は「ヤム・ペッ」、冷たい川の意だといいます。
駅の内部は改装され、喫茶店になっていました。ラーメンも食べられるようです。古民家カフェのようで雰囲気もよく、賑わっていました。
道の駅で昼食を取らずにここまで来ればよかった、と悔やまれます。

▲ 止別駅

▼ 止別駅 ラーメンきっさ駅馬車https://www.town.koshimizu.hokkaido.jp/sightseeing/detail/00007027.html

止別の先も、直線的な道が続きます。トウキビ畑や牧草地が美しい。
右手には斜里岳。とても格好の良い山なのだけど、残念ながら今日は、中腹から上は雲に隠れています。

▲ とうきび畑と秋の空
▲ 止別から斜里への道

斜里川の手前で内陸へ向きを転じ、国道へ戻るべく、しばしダートを走りました。ルートマップに、つぶ貝のかき揚げ丼が名物という店が出ていたのです。
昼食のそばはそろそろ消化され、胃袋にも余裕が生まれております。

「しれとこ里味」というその店は、国道沿いにあり、すぐに見つかりました。もう2時なので客は私以外にもう一組だけで、注文したツブ貝かき揚げ丼はすぐに出てきました。
ボリューム感のある分厚いかき揚げが乗って、値段は750円。満足度高。

▲ つぶ貝かき揚げ丼

▼ しれとこ里味
https://shiretokosatomi.com/

◆ 天へ続く道

斜里周辺には直線的な道が多くあります。特に、約18キロの直線道路が続く国道244号線と344号線は、地図上で一際目を引きます。この道が海別岳の山麓に差し掛かるところに「名もない展望台」があるとロードマップに記されています。

「しれとこ里味」からさらに10キロほども続く直線では、再び強い陸風に横っ面を張られ続けているようなライドになりました。

一般に海陸風は、日中は海上より陸地の方が温度が高くなるため、海から陸へ吹くことが多く、陸風は陸上が冷え込む夜に吹くものだといいます。稚内から網走までの行程では、そのセオリー通りに風が吹いていました。だが、明日にかけて天候が下り坂になるためか、様相が異なっています。
この先、ウトロに向けて方向を転じれば、この風は追い風になるはず。
そう自分に言い聞かせながら、我慢のライドを続けました。

▼  海陸風について

45分ほどの実走時間よりは随分長く感じられた走行の末、ようやく、ウトロへ向かう国道344号線を左に分け、展望台への最後の登りに取り付きました。横風に気持ちが折れそうになっているのですが、ここはダンシングでぐいぐい登ります。
木組みの素朴な展望台の前まで登りきり、初めて後ろを振り向きました。
そこに広がっていた風景は、想像を凌駕するものでした。

▲ 天へ続く道

道はどこまでも一直線に伸び、地平線へ消えています。
展望台に登ってみました。海側もまた、農地と唐松の防風林が続き、その向こうにはオホーツク海が広がっています。
本当にここは日本だろうか。

▲ 展望台からオホーツク海を望む
▲ 海別岳

これほどの絶景ポイントにもかかわらず、私以外に誰もいません。
この風景を独り占めしている快感が体内に充ち、立ち去り難い思いで30分ほども展望台の上にいました。その間、瀬戸内から旅行に来た、という初老の夫婦がタクシーで登ってきただけでした。

◆ 地の果てへの道

ダート混じりの道を国道まで駆け下りました。いよいよ、地の果て「シリエトク」の道が始まります。
この先はようやく追い風、と思いきや、風向きが変わってしまい、知床半島の脊梁部から海へ向かって、引き続き強い横風が吹いてきます。
これはつまり、海上より陸上の方が気温が低いということでしょうか。
ようやく知床に足を踏み入れたのに、風に裏切られた気分。こういう時は疲労感も強くなるものです。
ウトロまで、あと30キロ。太陽は次第に水平線に近づいてきました。

遠音別川を渡る橋のたもとに、何台もの車が停まっていました。観光バスも混ざっています。
バスから降りてきたおっさんたちが、橋の欄干から水面を見下ろしていました。そのうちの一人が、「鮭だよ、あそこ」と指さして教えてくれます。
なるほど、澄んだ流れの一部に砂煙が上がり、銀鱗が光っています。学生の頃、函館郊外の茂辺地川で初めて鮭の遡上を見た時は、その健気な姿に声援を送りたくなったものですが、そういう感動を覚えなくなったのは、中年になって感性が鈍ったというべきでしょうか。
見ている間にも、鮭達が次々と遡上してきます。河口で釣られることもなく、またヒグマの餌になることもなく、無事に故郷へ戻ってきた、運の良い鮭達です。

▲ 遠音別川と鮭の遡上

その先にあるオシンコシンの滝にもまた、何台もの観光バスが停まり、滝への階段には行列ができていました。

▲ オシンコシンの滝

旗を持ったバスガイドが「さあ、マイナスイオンをたっぷり浴びて来て下さい」などと言いながら、観光客を誘導しています。ただ、この混雑では、マイナスイオンを浴びられる場所までたどり着くのが容易ではありません。
日没時間が近くなり、急速に冷え込んできました。自販機で買った温かい缶コーヒーを飲んで、ウィンドブレーカーを着込みます。
ウトロまではもうほんの一足となり、この先はクールダウンのようなものです。穏やかな海に巨岩が聳立ち、そこに夕陽が沈んでゆきます。

▲ 夕暮れの海岸線をウトロへ

15年ぶりのウトロには、立派な道の駅ができていました。世界遺産に指定されてから初めての知床訪問、小さな港町は観光客でごった返しているのでは、と思いきや、意外と静かで穏やかな夕べです。

▲ ウトロの夕べ

道の駅で、小さな熊よけの鈴を購入。明日の峠越えで、熊さんに出会ったりしたくはないのであります。
再び走り始めると、後方で軽くクラクションが鳴りました。振り向くと、軽トラックに乗った30代かと思われる美女が、私に手を振り微笑みながら、追い抜いていきました。誰か知り合いと勘違いしたのでしょうか。彼女がやっているお店などあるなら、今夜呑みに行ってみたいところですが。
今日の宿は、ウトロの中心部から渓流に沿って、少し山の方に入ったところ。最後になって少々きつい上り坂が控えていました。
チェックインして、よく温まる温泉に浸かった後、夕食をとるためにもう一度中心部へ向かいました。

◆ ウトロの夜

ウトロは有名観光地なのに、夜営業している飲食店は極めて少ない。
二食付きの宿が多いために飲食業が成立しないのか、漁港故に朝も夜も早いからか、理由は定かでありませんが、ともかくまだ夕方6時過ぎというのにほとんどの商店はシャッターを下ろし、通りは静まり返っています。
今やウトロにもコンビニがある時代故、食いっぱぐれる心配はありませんが、知床まで来てホットシェフだのおでんだのでもあるまい。

事前に情報誌で目星をつけておいた店に行ってみます。どうやら間違って通用口から入ってしまったようで、奥の方に明かりはついているが何やら薄暗く、営業しているのかいないのか、よくわからず不安になりました。

ともかくも入ってみると、飲食店というより魚屋の店先といった感じの土間で、両親と子供二人の家族が夕餉のテーブルを囲み、傍で初老の女性が魚を焼き、その旦那と思しきスキンヘッドのおっちゃんが場を仕切っています。三世代団欒の席に闖入してしもうたか、と心配になったが、見れば片隅のテーブルで一人定食を食べている旅姿の若い女性もいます。
一人だけど、いい?と、スキンヘッドのおっちゃんに声を掛けると、おう、座んな座んな、と、見かけより随分と若い声が返ってきました。

何か呑むかい?そこから好きなの持ってきな、ということで、ビールは冷蔵庫から自分で持ってくるシステム。それをラッパ飲み。
これに、海鮮系のつまみをどっさりつけてくれます。ウニまるごと、刺身、タコの嘴…
おっちゃんの本職は漁師。自分で水揚げしたものを出しているそうです。
普段は19時頃に店仕舞だが、土曜は翌日の漁がないので、閉店時間も特に決めずにやっているのだとのこと。
中間マージンがない分、お値段は大感謝価格。
ウニを追加。恐らくは市場に出せないあまり身の入っていない奴だがウニはウニ、2個100円。

▲ 2個100円のウニ

キンキもまた信じられないような安さであり、大振りな奴を一尾焼いてもらいます。
「兄さん、自転車かい?自転車はいいねえ、酒呑めるから」
いや、それは元々ダメだし、最近は取り締まりも厳しくなってるし…
「でも怒られるだけっしょ、捕まっても」
なかなかファンキーな、楽しいおっちゃんでした。
「お兄さん、いい声してるねえ」と、おばちゃんが褒めてくれます。もうお兄さんって歳じゃないんだが、嬉しくなってしまう。

▼ 大成丸 ※2023.1現在、休業中のようです

表に出ると、中心部の交差点をキタキツネのつがいがお散歩しており、市街地の交通を完全に ーといっても車3台しかいなかったけれどー 遮断していました。

▲ ウトロ市街のキタキツネ

ヒグマまでお散歩に来られてはかなわないので、買ったばかりの熊除けの鈴をチリチリと鳴らしながら、渓流沿いの道を自転車を引いて、宿へと戻っていきました。

【走行記録】

走行距離:115.8Km
走行時間:5時間15分
平均時速:22.1Km/h Max.53.6Km/h
消費カロリー:2523kcal

※ 翌日は知床峠越え。雨と霧の中のライドとなりました。


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