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【読書】『とうがらしの世界』

とうがらしオタクの本!

 いや、松島憲一さんはとうがらし「オタク」ではなく、とうがらし「研究者」なんだけど。
 この本を読めば、あなたもとうがらしのオタクの仲間入り。
 とうがらしの、植物学的観点からだけではない。
 とうがらしに、どういう歴史があるか?
 とうがらしが、食文化に溶け込んだり、変えちゃったり。
 とうがらしと、人間はどう付き合ってきたのか?
 思うに、松島さんは好奇心満点な人なのだろう。
 それが、とうがらしだけではなく、歴史にも、文化にも、料理にも―――――そして、ヒトにも。
 そんな、とうがらしに関する、深くて幅広い知識が手に入ります。

<注>「とうがらし」「トウガラシ」「唐辛子」と使い分けせずに「とうがらし」とひらがなで書いてます(引用を除いて)。
<注>助長になりそうなので、正確な表記や説明は省いてます。

ポイント
①なせ、とうがらしは辛いのか―――――とうがらしの生存戦略
②なせ、辛いししとうがあるのか?
③「所詮パプリカ」ではない

なせ、とうがらしは辛いのか?

とうがらしの生存戦略

 とうがらしが辛いのは、植物の中で唯一持っている、カプサイシンという成分である。
 ちなみに、カプサイシンは、葉や茎、根にはまったく存在しない。
 果実内の空洞を分けている板状の組織「隔壁」の部分で合成され、一部の例外的な品種を除いて、そこにしか存在しない。

 実験の結果、ネズミはカプサイシンを嫌がり、鳥類はそうでもないことが判明。
 ネズミを含む哺乳類は、歯でかじったり、消化器官で消化されたり、で排泄された糞に種が残っていても、傷ついているので、発芽しない。
 一方、鳥類は、歯でかじることもないし、哺乳類に比べれば消化器官が強力でもないから、糞に種が残存しやすい。
 なので、とうがらしの立場でいえば、鳥についばんでもらって、糞としてばら撒いてもらい、あっちこっちで発芽してしまえば、子孫繁栄につながる。
 一方で、哺乳類に食べられないように、辛味成分カプサイシンで追っ払う。
 ちなみに、このカプサイシンは防カビ効果もある。
 防御と攻撃を兼ね備えた生存戦略のために、辛味成分カプサイシンを自ら作り出したのです。

一番辛いとうがらし

 自らカプサイシンを作ったがために、とうがらしはマッドサイエンティストでなくても辛い品種が作りさせる。
 僕が「一番辛いとうがらし」として思いついたのは「ハバネロ」だったんだけど、ギネスブックに載っていたのは1994年から2006年まで。
 その間、激しい首位争いが繰り広げられ、2013年では、「キャロライナ・リーパー」である(参照:ウィキペディア)。
 さらに辛いとうがらしがあるのだが、ここではウィキペディアから「キャロライナ・リーパー」の事故例を引用しよう。

2018年に報告された事故例として、アメリカで開催された大食い大会でキャロライナ・リーパーを食べた男性が脳血管攣縮を起こして倒れ、病院の集中治療室で手当てを受けた事例がある。なお、脳血管の攣縮は可逆性であり、男性はその後回復している。他の品種においても同様であるが、素手で触ると危険な上、成分が揮発して喉や目を痛めるため扱い時はゴム手袋をして防護マスクをするなど完全防備をすることが望ましい。

 もはや、「食べ物」を超えて「凶器」である。
 松島さんの、「ブート・ジョロキア」のエピソード。

というのも、ブート・ジョロキアの果実を用いて実験をしていると、マスクをしていてもくしゃみが止まらなかったり、顔がヒリヒリと痛くなってきたりと、ひどい目に遭うからだ。これほどの凄まじい辛さなので、学生に実験のお手伝いを頼んでも、なかなか引き受け手がいないというのが、目下、悩みのタネである。

 「凶器」とまではいわないけれど「危険物」になるのか。。。。。

なせ、辛いししとうがあるのか?

 辛いものが大好きな僕は、辛いししとうを食べると
「当たり」
と思ってしまうのだが、品質の均一化という現代文明の観点から見たら、当たりはないほうがいいのかもしれない。
「なぜ辛いししとうがあるのか?」
 そんな素朴な疑問を、もっとけばよかったと反省している。

謎に迫った夏休みの自由研究
 それを調べるのに、高価な実験器具や最新の施設はいらない。というのも、当時小学校三年生だった我が家の長女が、夏休みの自由研究でやってのけたからだ。彼女は市販のししとうの果実を何個も何個も舐め続け、辛い果実を探し当てるという実験にチャレンジしたのだった。
 彼女が夏休み中に舐めたししとう果実は合計二二四個に及んだが、そのうち辛かった果実は一七個あり、さらに凄く辛かった果実が一個だけ見つかったそうだ。
 次に、辛かったししとう果実をつぶさに観察したところ、その中の種子数が少なかったことに注目し、それら一七個の辛い果実の種子数と、辛くなかった果実の中からランダムに選んだ二五個の果実の種子数を数えて、その両者を比較した。

「我が愛娘の夏休みの宿題のおかげで、辛いししとうでは種子の数が少ない傾向にあることが解ったのである 。」

 この親にしてこの子ありとか、そんな自由研究したことないぞとか、僕の親が何かの研究家だったらよかったのにとか、何とか思ったのだが。
 きっと松島さんはよきパパで、子どもに慕われているのだろう。
 だから、パパの仕事や研究に興味を持ち、こんな自由研究をやったのだろう。

 辛いししとうは種が少ない傾向にある。
 さっくり説明すると、ししとうの栽培中にストレスを与えると、種が少なくなる傾向にあり、よって辛いししとうができる傾向にある。
 もし、
「この、ししとう、全部辛いんです!」
という商売をやりたいのなら、ストレスを与えてししとうを栽培するがよい。
 失敗したところで、責任は取らないけど。

「所詮パプリカ」ではない

野菜の肉詰めや牛と豚の煮込みも、自慢の郷土料理です。ただ残念なのは、味付けが皆、パプリカだということです。ま、パプリカには甘いものから辛いものまでたくさんありますが、所詮パプリカはパプリカです。

引用:『ハプスブルクの宝剣』
 これは、主人公エドゥアルトがハンガリーに行った際、出迎えた将軍ツォラオンのセリフ。
 藤本さんは詳しいから「甘いものから辛いものまで」と書いている。
 でも、僕は全く知らなかったので「所詮」パプリカだと思い込んでいた。
 世間知らずでした。スミマセン。

 中でもスペイン南西部にあるエストレマドゥーラ州カセレス県ラ・ヴェラ地区の「ピメントン・デ・ラ・ヴェラ」と、スペイン南東部ムルシア州の「ピメントン・デ・ムルシア」の二つは、スペイン料理には欠かせないパプリカとして有名だ。

辛口(ピカンテ)と甘口(ドルセ)の二種類が売られているが(スペインへ新婚旅行に行った卒業生からお土産にいただいた「ピメントン・デ・ラ・ヴェラ」には三つめの味、ほろ苦(アグリドルセ)もあった。これは、少し酸味と苦みが加わった奥深い味わいであった)

 パプリカには、甘口と、辛口と、ほろ苦、と三種類もの味付けがあるのだ!
 これはスペインの話だが、南欧に限らず東欧にも、甘いとうがらし=パプリカは食卓に欠かせない材料となっている。
 所詮パプリカ―――――ではない。いろんなパプリカがあるのだ。

 ”世界一周トウガラシ紀行”と題し、とうがらしの故郷・中南米から西に周り日本に至るまで、世界のとうがらしを使った料理を紹介してくれます。
 とうがらしが世界中に広まり、受け入れられ、それどころか愛されてきた――――

実際、成田空港の税関で、生のプリック・キーヌーを鞄の中に入れていたタイ人の女性を見かけたことがある。残念ながら、植物防疫上の問題から日本への持ち込みは許されなかったが、「これがないと困る」と必死に係官に食い下がっている彼女の悲しそうな顔は、今でも忘れられない。

 これほどまでとは。
 松島さんは、とうがらしだけではなく、ヒトに対しても興味いっぱいだから、悲しそうな顔が忘れられなかったのだろう。

 世界のとうがらし料理のいくつかを紹介したら、ダイエット中の方の恨みを買いそうなので、パプリカには三種類の味があることと、とうがらしが愛されていること、しか書けないのが残念だ。
 ダイエットしておらず、世界のとうがらし料理に興味のある方は一読を。

まとめ

・とうがらしが辛くなったのは生存戦略
・辛いししとうは種が少ない傾向にあり、栽培中にストレスを与えると辛くなりやすい
・パプリカには、甘口・辛口・ほろ苦と三種類の味がある

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