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「子育てを超えてゆけ♪ 」 3歳の長男の妹への意地悪に苦悩する父親の話

 私はテレビドラマの「逃げるは恥だが役に立つ」が好きだ。

 星野源が歌うエンディングの曲、「恋」の歌詞にある「夫婦を超えてゆけ♪」、「二人を超えてゆけ♪」、「一人を超えてゆけ♪」などの「〇〇を超えてゆけ」と、全体のストーリーとの関係に謎めいた魅力を感じていたからである。特に、「〇〇を超えてゆけ」には、〇〇にまつわる、「あるべき姿」(規範)から自らを解き放とう、というメッセージがあると言われていて、そこに私が人生で困った際の突破口を探し出せる可能性を見出していたからかもしれない。

 九月末頃、「子育てを超えること」を試みたことがあった。それは、家庭において「三歳の息子が一歳の妹に優しくしてくれない問題」が深刻化したからである。いじわるをする息子を怒ってはいけない耐える私。でも耐えきれずに声を荒げて怒ってしまうことが増え、自分はいったい何をしているのかと自問し、ストレスが溜まる。「子育てってこんなに辛いものなの?誰だ、子育てが楽しいって言ったのは?」という私の叫びが脳内で響き渡る。

 子育てが終わった人に相談すれば、「そのうちおさまるから大丈夫。」と言われる。正しい。そうなるのだろう。でも、この瞬間に辛いと思っている私には助けになるような、ならないような煮え切らない感じしか残らない。 子育てカウンセラーに相談すると、中期的に解決していくアドバイスをもらうことができた。だけれど、今日、明日を助けてくれる特効薬は勿論無い。特効薬が無いのであれば、少なくとも、安心感をもたらしてくれる、「子育ては楽しい(はず)」の規範からから私を守ってくれるような言葉が欲しい。

 「お守りの言葉」を探す思索の旅に出よう。朝の通勤電車の中で考え始める。「子育てを超える」ための私の小さな試みだ。

 思索の旅の始まりは、アスリートのメンタル論。「メンタルを強くする」ための思考法などを昔読んだことがあったためだ。私の中でしっくりきたのは、メンタルを「強くする」方法ではなく、「心を整える」という考え方(サッカー・長谷部誠選手)や、日々の感情の上下の起伏を出来るだけ小さくすることに注力する方法(元サッカー選手・内田篤人氏)だ。「メンタルを強くする(べき)」という規範をするりとかわしていることが印象的で参考になる。

 その後、「子育ては〇〇」にあてまる言葉で、楽しいこと、辛いことなど両方の意味をもつ言葉を探してみた。「辛楽(つらたの)しい」、「楽辛(たのつら)い」、「子育てはヤバい」、「子育ては振り子」などと思考を巡らせたが、最後にやっと満足する言葉が頭に浮かんだ。

 「子育ては天気」

 子どもの感情は、晴れの日もあれば、曇りの日もある。雨の日もあれば、時にゲリラ豪雨が瞬時に発生する。そして子どもの天気は親に影響を与え、それが子どもにも跳ね返る。私がこの言葉にしっくりきたのは、私たちが、今日天気が悪くても明日は晴れるかもしれないことを感覚的に分かっていることだ。台風が来たらその後必ず晴天がくることを私たちは知っている。「子育ては楽しい(はず)」には常に晴天のイメージがあるけれど、毎日晴れ過ぎたら干ばつで水不足になってしまう。雨は自然の恵みであり、必要だ。 

 この思索の旅から日常に戻り、この「お守りの言葉」と生活を始めると、何かと気持ちが軽くなった。「子育ては天気」と思えば、子どもの考え、感情、行動を親がコントロールできないことが多々あることを改めて気がつかせてくれるからかもしれない。そして子育てが「楽しい」とか「辛い」とかに意識を傾ける必要はない。ただ、私の目の前の(子どもの)天気という自然と一緒に生きていこう、そう思えたのだ。この「お守りの言葉」を探すことで私は私なりに「子育てを超える」ことを少しできたのかもしれない。

 最近の我が家の子育ての天気が雨なのは「梅雨」だからなのだろう。明日も雨かもしれない。でもそんな一日の中で晴れ間が覗く瞬間もある。そしていつか晴れが多い日々が訪れるだろう、そんな余裕と希望を持てるようになった。「梅雨明け」は間近だ。

追記 十一月末現在、息子は妹にずいぶんと優しく接することができるようになった。

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