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コミュニケーションって、むずかしくありません?

 前回は「心理的安全性」と不安や恐怖を与えるような企業風土やマネジメントがパフォーマンス低下やリスクの増大、不正のきっかけを与えるということを見てきました。

 では、「心理的安全性」を担保するためには何が必要でしょうか?

 ミスを報告しても懲罰的ではなく、改善や学習の機会を与えるようなチームは民主的な風土から生まれると思いますが、かと言ってそれは馴れ合いや学生時代のような友達グルームの感覚ではなく、きちんとビジネスとしてコストや中長期戦略、達成する必要のある目的を期間内に終わらせるように努力するなど、ある程度ビジネスライク、もしくはドライな感覚は必要となります。

 経産省の出した「未来人材ビジョン」がありましたが、改めて生産人口の統計上の年齢は16−65歳、その中で大学などの高等教育に進学する物は省かれ、残った人口の中で発達など生育歴の中で偏りがあったり、メンタルに配慮が必要な人たちが1/5になり、そのほかの人たちにも何らかの配慮となるなど、個別性を持って接することがより重要になります。

 つまり、今までのような均一的でミスがなく正確に複数のことができるような人材が重要視されてきた時代の書類作成などでのミスや事務書類の作成スピードなどは今後、AIやロボットが代行し、問題発見能力があり革新的なアイディアが湧く人材がそれが市場経済でのイノベーションとして社会を変革していくこと求められるようになると考えられています。

 神経科学とは異なりますが、科学哲学でトーマス・クーンの提唱したパラダイム・シフトという言葉があります。ビジネスでは今までの固定観念を捨てて新しい概念をもたらすなどに使われますが、本来は例えば天動説に基づいた思考での天体観測で解決不能だった課題に対して、地動説に基づいた思考による天体観測により解決可能になったなどとかです。

 ちょっと前にはよく耳にしたことですが、これの大きな影響として天動説の天文学者と地動説の天文学者では同じ用語を使っても、意味が違うためにコミュニケーションが成り立たないことです。

 この話は大きな社会的観念の変革に基づく事象ですが、発達認知学の祖であるJ.ピアジェも乳幼児から成人に至るまでの子どもの認知発達過程で、学習した物事を物理や生物、心理といった各分野ごとに積み重ねてゆき、各段階で問題解決を行うがある時点で問題解決ができなくなった時点でそれまでの知識の構成を組み替える作業を行うと考えました。これをシェマの調節と唱えました。

 J.ピアジェは個人の認知発達と社会的歴史の発達との連関を考えましたが、それはちょっと大きく言い過ぎにような気もしますが、確かにパラダイム・シフトととの類似も感じます。

 書いていて急にすごいマクロとミクロの話になってしまったようですが、この間を繋ぐような考え方もあります。

 N.R.ハンソンという音楽大学を出て、米海兵隊パイロットになり英米の名門大学の教授になった科学哲学者が唱えた「観察の理論負荷性」という言葉があります。これは今までは人が見聞きしたことは直観的に判断されると考えていましたが、実は人がそれまでの自分の知識によって見聞きしたことに影響されると提唱しました。

 知識とは生得的に持っている領域固有(生物・物理・心理など)の知識と家庭や学校、交友関係などの年齢が進むにつれて周辺的な参加から社会の中心で参加に進む過程で学ぶ知識の二つがあり、これは個人の成長に伴い個別性が出てきます。
 この知識ー個人的な理論によって周囲の物事を直観的に捉えたり、解釈したりします。

 このことで人は地域、年齢や性別など、それまで参加してきた文化圏が構成する知識のあり方を自分なりに解釈し、自分の知識を構築した知性の塔で目の前で起きている事象を理解するのです。

 大きくはパラダイム・シフトのように知識に対する認識の違いから学習などによる観察の解釈の違いまで、人それぞれに事象の捉え方の違いは同じ言葉を使っていても言葉の解釈、認識の差となり、コミュニケーションのギャップとして相互理解の邪魔をします。

 丸山圭三郎という日本の言語学者はまるでこちらはテニスのプレイをしているつもりだったが、相手は全く違うゲームをしていたと例えたようです。

 ではどうすれば良いのでしょうか?

 実は解決法はないと言っていいかもしれません。

 言葉の定義一つ一つをお互いに確認し合うのはとてもコストの高い方法です。
 ただ、赤色を青色として用いることは少ないようにコミュニケーションの揺らぎはそれほど大きくはないこと、そして人のコミュニケーションは言語だけではなく、身振りや視線の動きなど非言語コミュニケーションによって言葉を修飾することで意味の伝達の精度を上げるでしょう。

 あとは継続的な交流により相手への理解を深めることでしょうか?

 常識的な回答になってしまいましたが、人との交流に近道はないかもしれません。

 っていうかあったら教えてください(笑

 次はディスコミュニケーションについてを考えています。 

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