ヒグチ ヨハク

HIGUCHI YOHAKU 小説「planktos」 #instantfict…

ヒグチ ヨハク

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  • planktos.

    小説「planktos」 2021年より執筆開始。 ※場合によって、公開後加筆修正することもあります

最近の記事

Fagus. #8

「チョピン。。。」 「チョピン。。」 「・・・チョピン。。。」 「チョピン。。。。」 ループスが足を止める度に、水が滴るような音がついてくる。 ( ・・ループ。) アピスが耳打ちし、サァっと林間を数十kmを一気に走り抜ける。 スゥっ、、と足を止めるとまた 「チョピン。。。。」 と、ついて来ている。 ループスは振り返り、声なき威嚇をする。 「。。随分便利だね。」 追っ手に、なんとなく見当が付いていたアピスは、ずっと無視して切り抜けようとしていたが、ついに観念した。 「何か用?

    • silence. #7

      吐息のような唄声ー。 決して大きな声ではない。柔らかく夜を包むように、ひとつひとつ、音の粒が芯に響いてくる。 (子守唄だ。) ヒグチは手を止め、いつの間にか聞き惚れていた。 真向かいにいたフクロウは徐々に減速していき、草むらへ降り立つとそのまま眠ってしまった。 それを見届け、アピスは歌うのをやめた。 「やべぇ....予想以上、、とんでもねぇで、姫様。。!」 ヒグチは興奮気味でアピスを見上げると、少し、寂しい顔をしていた。 「...。無闇に傷つけあうのが嫌いなんだ。 そのフクロ

      • Strix. #6

        転瞬ー。 「ーヨケロ.」 ヒグチが言葉にすると、ミズキごと水球が右にグンっと引き寄せられるように移動した。 と、同時に大きな塊がアピスらの上空を音も立てずに滑空し、ミズキを襲う。 間一髪ミズキには当たらず、水球にのみかすり水飛沫が撥ね散った。 フクロウだ。 月明かりに照らされて黒黒と大きなシルエットが浮かぶ。ゴーグルのへりが僅かに光り、まだこちらを狙っているようだった。 「.... 野暮なぁ。。」 一瞬ニヤリ、、とした後、ヒグチは左足首に出現させた雷太鼓をフクロウがい

        • Platura. #5

          「・・・・・。」 初めの諌める言葉の後、長い沈黙が続いた。 厳密に言うと、何か言っているようなのだが声が小さすぎて何と発しているのか全く聞きとれない。ループス[狼]には多少聞き取れているのか、耳がヘビに向けてピクピクッと小刻みに震える。 いつからいたのか。 アピスの護衛のため、常に警戒を解かないループスですら声をかけられるまで、後ろ手にいるヘビの気配を感じ取ることができなかった。ツートンカラーの前髪が長すぎて、表情が読み取れない。ヘビの周りを球状の水が纏い、宙に浮いて

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          7本

        記事

          Dysco. #4

          「なぁ、茶ぁしばかへん?」 足元から声がする 「なぁ」 「なぁ、茶しぃひん?」 狼の影からそっと覗くと、全身真っ赤なオレンジ色の蛙がこちらを見上げている。 「なぁ」 「なぁ、お茶しよーやぁ」 ケロロロ.... と軽妙に喉を鳴らし、無視し続けても一向に諦める気配がない。 しつこい 「・・・。飲まない。」 「おー?なんだぁ。声若いなぁ。まだ子どもかぁな。」 あまりにも独断的にかけられまくる無礼講な言葉に、狼の耳元で「(ループ、行こう。)」 と声をかけた時、 「。。。あの。。。その

          Oenothera. #3

          アピスが起きたことを確認した後、狼は夜に咲く花を求めて移動した。 月夜に開く花を求めて。 その香りをたよりに、時には何時間も狼は走った。 今夜は宵待草の咲く草原にたどり着く。 アピスが花の蜜を吸うと一つ、心揺れる景色を見てまた、一節と歌が生まれた。 うたうことで自分が何者であるか、というかけらを反芻できるような気がして、生まれるままに歌にした。 気のせい、かもしれない 歌う度に、あの夢のつづきや記憶がぼんやり近づいてきているような感触がある 花探索は夜にした。 誰もいな

          Lupus. #2

          その狼は声を発することができなかった 満月を臨み、時折行う遠吠えも、虚しく夜空を仰ぐに過ぎなかった 白狼の額には琥珀色に輝く彼女のシェルターがあった。 蜜蝋をハニカム状に重ね繋いで造られた小さな要塞は、雨風を凌ぎ恒温を保つ。主要の4部屋と各部屋とへの行き来がしやすいよう、アーチ状にできていて、外部からのあらゆる衝撃から彼女を守った 目が覚めた時には、アピスは狼の上にいた。 何故狼の上にいるのか、シェルターは誰が造ったものなのか 声を出せない狼に問いかけても、答えを聞

          Apis. #1

          かすかに聴こえる 夜の帳のような穏やかな音 懐かしい だがその姿に近づけば近づくほど辺りが白く輝き、彼の人を臨むことができない 夜露に包まれる中、差し込む月光を浴びて蜂の姫は薄く目を開く。 毎度同じ風景だ。 知っているのに、どうしても思い出すことができない。夢を見る度に彼の人は現れて、そして転瞬消える。 不機嫌な顔のまま月を眺め、白狼の上で謳う。 すべてを月光のせいにして