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Platura. #5

「・・・・・。」

初めの諌める言葉の後、長い沈黙が続いた。

厳密に言うと、何か言っているようなのだが声が小さすぎて何と発しているのか全く聞きとれない。ループス[狼]には多少聞き取れているのか、耳がヘビに向けてピクピクッと小刻みに震える。

いつからいたのか。

アピスの護衛のため、常に警戒を解かないループスですら声をかけられるまで、後ろ手にいるヘビの気配を感じ取ることができなかった。ツートンカラーの前髪が長すぎて、表情が読み取れない。ヘビの周りを球状の水が纏い、宙に浮いている。その仕組みさえ謎だ。

「ぁ.....。」
ようやく聞き取れそうな言葉をかき消すかの如く、カエルが被せて喋り出した。
「わかったわかった。そんなに怒んなって、ベィブ。怒った顔もかわうぃぃねぇ。喋りすぎるのはオレのチャームな部分じゃないかぁ。わかったわかった。ちゃんと礼節を持って、ね、ハイ、ハイ、、それでは改めまして。。。 。」
カエルは一呼吸置き、
「ケホン。えー、先刻はワタクシメより矢継ぎ早かつ一方的な口上にて貴方様方へのお耳汚しご無礼な態度、大変失礼をば致しました。それではひとつ、え、ご挨拶を。えー、拙は井の中の蛙あらぬ、目の前のカエル、その灼熱のように燃えるような真っ赤な姿を表します私めをヒ、グ、チと名を冠します。してこちら右上上空にて失礼いたします、えー水を纏て宙より臨み、2色のカラー、巷ではバイカラーとでもいいましょうか、黒と金のしなやかな模様が波浪を描くかの如く体に纏いこの世のものとは思えぬほど、ファビュラスマーベラスビューティフルキューティハニーな蛇の名をミ、ズ、キ、と発します。えー我々どもはといいますとひょうなことより唯一無二天上天下塞翁が馬な歌姫様を求めに求めて遥か遠方より諸国方々を旅を続けておりますところ、ふと月夜の光の当たるこの草原に貴方様のさも美しいお唄が聴こえてきまして、耳の向くまま意の向くまにまに、探り歩みついに、貴方様方がいらっしゃります此方へと辿り着いた次第で、ございます、ハイ。
と、いったところでミズキの目線が背中より冷たく刺さって参りましたので、ここらへんで一度ご挨拶とさせていただきます。どうぞ今後とも何卒末長く宜しくどうぞお見知り置きを、ばよろしくお願い申し上げます、ハイ。」

口から生まれた、というのはまさにこういう奴をいうんじゃないのか

その上一気に講釈を捲し立てた割に、わかるような、なんだかよくわからないような内容だな、
とアピスは思った。

ヒグチヨハクです。小説「planktos」連載中。よろしくおねがいします。