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ガラケー時代の漫画のお仕事とティーンズラブ

病気の話から、少し逸れてお仕事の話

わたしが漫画の仕事を安定してもらえるようになったのはガラケー時代のエロ漫画ブームの頃
あの頃は今のコミカライズ作品のようにガラケーで読むエロ漫画が絶大な人気を博していた
70%くらいが女性読者という記憶がある(当時聞かされた)
人に隠れてこっそり読むのに携帯で読むエロ漫画はドキドキ感があり、深夜寝る前の布団の中でガラケーの小さい画面を開いて読むのが流行ったのだ
中でもティーンズラブと呼ばれるエロ系少女漫画が人気で、当時はティーンズの女の子達がかっこいい男子と少し過激なシチュエーションでエッチするのが主流だった
今は社会のゾーニング意識の高まりで自主規制からティーンズラブと名前が残った形で20代女子たちのオフィス系恋愛物が主流になった

その規制の流れから今の主流は恋愛の描写がかなり増え、ガラケー時代のようにエロシーンメインよりは恋愛からのシチュエーションとキャラがメインといったかんじ
ガラケー時代はこのティーンズラブ作家不足で新人さんでも即戦力となったため、この時代の電子系ティーンズラブ作家は「アマチュアでもなれる、漫画家の経歴には数えられない」と編集者が漫画家に面と向かっていうこともあった
しかしこれは正しい評価ではなかったと今でも思っている
なぜならティーンズラブというジャンルは「恋愛・エロ・シチュエーション・キャラ」と、多岐にわたる課題をクリアし、エロシーンで複数の男女が絡み合う裸体やキスシーン、普通ではあまり描かない手のポーズなど、漫画家としてはむずかしいジャンルなのだ
確かにレベルがまだ未成熟の漫画家さんも混ざっていたし、企画を吟味するほどの時間もなく、ハイスピードで依頼・修正・作画とこなしていった
しかし逆にこれが今の女性向け漫画の下支えになる漫画家さんたちを育てる土壌になったのではないかと思ってる(わたしが勝手に想像してる)

さらにガラケー時代はこれにコマ数という課題も追加される
今のようにページビューではなく、コマ表示のため「24Pで 140コマ以上」(条件は編集部にて異なる)さらに1話を2〜3分割して10P前後での販売だったため「前半と後半ににエロシーン、最初3ページはサンプルとして使うので肌色シーンを必ずいれる」という読み切りを何作品も描かされた
さらにコマを切り分けるオーサリングは大学生のバイトの子が急かされてやってることもあるため、誰が読んでも順番を間違えないコマ運びが求められた(わたしも一度だけコマの順番を間違えられた)
そしてコマ割り表示の場合、きちんとコマ表示でもわかる演出を入れないといけない
セリフばかりの漫画だとエロ漫画ではテンポが悪くて1ファイル目で読むのをやめてしまうし、1話の真ん中で引きを作らないといけなかったりするのだ
他にコマから人物が飛び出ない、1P5コマ以上、セリフは小さい画面で読みやすいよう大きめに
これらの詳細な課題をクリアし、さらに毎日出るランキングと毎月のダウンロード数と印税を告げられ、配信最初の1週間の売れ行きで速攻連載か読み切りが決まる
数字が悪ければ編集部は次の漫画家を探すのだ
ガラケー時代の漫画家の生死はハイペースで決まっていった
なので漫画家たちは常にランキングに目を光らせ、毎週、場合によっては毎日。リアルタイムで何が売れてるかを常にチェックし、自分で考えて描かなくならなかった
編集さんは大量に漫画家を抱えているのであまり時間を取ることにためらいがあった
この環境下で作品を作り続けた経験が経歴に数えられないはずがないのだ

他ジャンルからすれば未成熟な絵の漫画家さんが混じっていて、裸体も少女漫画独特の細く等身が高いスタイル、同じようにエロから始まる構成、すぐにエロシーンに入らなければならないため、安直な展開でエロシーンに入ることもあったし、特にそれでも良かった
なぜなら課題が多いのでストーリー展開までこだわってたら作品数を稼げないからだ
外から見たら楽に漫画を描いてるように見えたと思う
だがとにかく数を書き続けるという漫画家の基礎練習を私たちはひたすらこなしていったのだ
ハードルを下げてでも作品数を増やしたい土壌は漫画家さんたちに場数を踏ませて経験値を上げた
そうやって、とにかくたくさんの女性漫画家さんたちがティーンズラブを描き続けた

当時わたしはティーンズラブを20作品くらい連載とか読み切りを描いた後、編集部の勧めで男性向けのエロ漫画に移動して読み切りを30作くらい描いたあとに長期連載を2作品描かせてもらえた
読み切りや1話完結を50本ほど描いたこの下支えの経験があるから今の連載ももらえてるのだと信じてる
電子コミックの基本は「読みやすいコマ割りと大きな文字」だと思ってる
最近はPCでも読めるので若い漫画家さんたちは小さい文字にしてる人を見かけるけど、小説のコミカライズのようにセリフが多い場合は特に読みやすい文書に噛み砕き、省略し、大きい文字にした方が読者数を減らさない要因の一つになると思う
拡大しなくても読める文字というのは演出のテンポを活かす最大の武器になるのだ
それがSNSの漫画であろうと電子配信の同人誌であろうと、あのスマホの画面で読む漫画はこの法則を守った方が読者はストレスなく、演出を最大限に楽しめる

ティーンズラブは水戸黄門であれ

ここからはティーンズラブの細部の課題のお話をしようと思う
ティーンズラブ漫画家を目指してる人は全てを取り入れた読み切りなり企画なりを編集部に持ち込めばかなりのアピールになるんじゃないかしら
ティーンズラブを描く人口が増えてほしいので、できるかもしれないと思ったらぜひ同人誌でもいいからチャレンジしてもらいたい
ただ今の売れているテーマに関しては私もティーンズラブから2年以上離れてしまったので、電子書店でのランキングをチェックして自分なりに勉強してほしい

まずはヒーローとヒロインの関係性
これが一番大事で作品のメインになる部分
溺愛とか執着とかヤンデレとか。SとかMとか
ちょっと意地悪にされたり、嫉妬されたり、叱られたり、優しくされたり
とにかく執拗に求められてただひたすら愛されたり
すごくいい子がズブズブに甘やかされて恋人との幸せなエッチに溺れたり
ヒロインが何かのきっかけで男性から離れても男性はそれを追いかけ、ただひたすら愛して求めるのだ
最近はやりのザマァ展開を入れてもいいかもしれない
職場でモテないけど仕事は有能なヒロインに嫉妬した無能な同僚からの嫌がらせも、がんばっておしゃれしたらめっちゃ綺麗に変身してモテてほしい
男性はとにかくヒロインの努力を評価して、そのヒロインの内面を愛するのだ

次はキャラ設定
ヒロインは何か問題を抱えている
ティーンズラブの定番はたいてい夜の悩みだ
不感症とか腐女子という性癖を持ってて、周りの同僚ににバレたくないとか、30近くなって男性経験がないとか、酷い振られ方をして男性が怖いとか
でも大事なのはヒロインは可愛くても小賢しいのはダメだし、サバサバしてても無神経ではだめ、仕事はできれば能力高くて、でも周りから認められてない系がたぶんいい
とにかくめちゃくちゃキャラのスキルが高くないといけない
男性キャラ側であるヒーローばかりがスキルを求められてると思われがちだけど、実はヒロインの「どの読者が見ても嫌われないキャラ」スキルの高さはめちゃくちゃ重要

次にヒーローも何か悩んでるといい
イケメンすぎて女運がないとか、収入高いけど絶倫すぎて逃げられるとかEDとか
そういうあけっぴろげな悩みの、人に言えない部分を男性と共有すると二人だけの秘密感が増していい
社内で人気の男性社員と二人だけの秘密を持つとか、特別感を感じる秘密を共有してるシチュエーションも読んでで楽しい
そして絵面でもヒーローのイケメンを表現しなくてはいけない

次にどんなシチュエーションでエッチをするのか
普通にエッチをしててもいいけど、わたしなんかはガラケー時代はよく「電車でこっそりエッチ」とか描いてた
ドキドキ感を演出しやすいのだ
ただこれは最近のティーンズラブではこういう公共の場でのエッチはいいのか知らないので、相談できる編集さんがいれば聞いてほしい。
レーベルのカラーもあるとおもうので

ただ大事にしなければならないのは全て恋愛をしている状態でのエッチでなければならないということ
強引エッチも好きな人相手でも同意のない状態で襲ってはいけない
絶対に幸せなエッチでなければならない
好きじゃなかった相手に強引エッチをされる場合、それまでにかなり助けてもらうか口説かれて心を傾けてる状態までもっていって、あとひと押しのところで「強引」を入れる
「むりやり」では絶対ダメなのだ
とにかく読者に夢を見せることを最重要視しないといけない

そして展開は定番が安心して読めないといけない
男性向けは「予想外」を重要視するが、女性向けは水戸黄門のような「定番の展開」を求められることが多い
いま受けてるシチュのほうが「読みたいものが明確でわかりやすい」作品として読者に受け入れられるのだ
読み慣れたものなら余計な説明はいらないのですぐ本題に入れる
とにかく現実に疲れてる女性読者は「安心して読める、決まったシュチュエーションのもの」を余計な説明なしに繰り返し読みたいのだ
わたしもそうだからめっちゃわかる
女性読者は好きなシーンを繰り返し読むタイプなのだ

ただこれはあくまでラブコメ系の明るいティーンズラブのお話
いわゆる昼ドラのようなドロドロ展開はまたこれとは違ってくる
これはわたしの専門外なので語れないが、そこには陵辱もあり、妊娠してるのに階段から突き落とされる悲惨な展開もある
読むのは好きだが描く人はかなり限られる
特殊な才能がないと描けない
描けそうな人はチャレンジしてほしい
読みたい。わたしが

ここまでの定番を描く上でどう作家としての個性を出すのか?
絵とキャラクターと演出、設定の組み合わせ、定番の中でもどれを組み合わせてどういう世界観にするのかはいろいろあるよ!
シチュエーションや設定を増やして少し工夫してもいいと思うし、今は恋愛描写がかなり自由なのでそこをもっと書き込んでも許してもらえる
必ず1話1エロ2エロを入れなければならないわけでもなくなったし、相当自由度があるはずだ
絵の水準は15年前よりかなり上がったのでがんばらないと見てもらえにくい
デジタルで描くなら3Dモデル人形を駆使してデッサンがんばろう!
正確なデッサンではなく気品があり、美しく可愛いデザインのシルエットを持った人物を(めっちゃむつかしい)
ティーンズラブははサービス精神!
読者はめちゃくちゃわがままだけど喜んでもらえたら描き手もすごく嬉しいので、有能な執事になった気分でお嬢様たちの希望をクリアしていってほしい


サンプル企画

ここまで説明したうえでこれからティーンズラブを描いてみようかなという人に向けてサンプルのプロットを置いておきます
これ読んで描けるかどうか考えてみてね
まぁそうはいってもこの企画が通るかどうかはわかんないけどw
だいたいこんな感じというサンブルです

ヒロイン…ななえ(26歳)

飲料会社に就職
将来自分でアンティーク家具と高級茶器を揃えたカフェを開きたいという夢のため、2000万円の貯金を目標にしてる
借金は300万円までと決めてる
そのため会社に内緒でイメクラのバイトをしてる
会社でも水商売でも本気で仕事。経験が将来の夢につながると信じてる

ヒーロー…高辺部長(31歳)
イケメンで仕事ができ、気配りは完璧なモテモテなのに誰とも付き合わない鉄壁と呼ばれてる
密かにゲイじゃないかと疑われてるが実はベッドでのえっちができず、こっそり隠れてする外でのドキドキエッチが趣味
それが原因で振られ続けて恋愛を諦めた

ななえのイメクラに客としてきた高辺、お互い驚くがななえは仕事だから断れない、高辺は逆に同僚との禁断のシチュエーションにドキドキしてしまいこのままプレイさせてほしいと願い出る
戸惑うななえだが仕事なのでそのままプレイする
電車で痴漢をするコンセプトでプレイ開始
会社では上司である高辺を急に意識してしまうななえ
興奮してる高辺は電車というコンセプトのもとななえのスーツに手を這わせて服の中に手を滑り込ませる
ここでは最後まではしない

それからというもの高辺は度々ななえを指名してプレイする
ある日いつも定時に帰るななえに同僚が嫌がらせで遅くまで残業になった。
残業中、落ち着いて二人で話をする
なぜななえが水商売のバイトをしてるか知る高辺
優しく励まし、さらには高辺自身の悩みを打ち明け打ち解ける二人

ある日偶然朝の満員電車でバッタリ出会う二人
電車内の密着でどんどん興奮して高辺はつい手を出し、申し訳なかったと平謝りで店に来なくなってしまう
ななえは高辺が来なくなって初めて自分の気持ちに気がつく
高辺が仕事の取引先の大会社の社長令嬢に言い寄られて困ってるところを見つけて、仕事の件で呼び出しがかかってると嘘をついて高辺を連れ出す
自分の気持ちを告白するななえ、高辺はすごく喜んで晴れて恋人同士になる

…という感じのお話が私が考えるティーンズラブ
これから仕事をとりに行きたいという方で、まだデビュー前なら完成原稿を描いて編集部に持っていってほしい
当時はなかった賞が今はあるのでどこでもいいからチャレンジしたり、ネットにあげて販売した後に編集部にサンブルとして送ってみるのもいいんじゃないかしら

皆様のチャレンジをお待ちしております!

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