GTPストアは巨大な市場になり、これからのUXを変えるのか?GAFAMでも勝てないネットワーク効果の強さとエコシステム構築の旨味とは?OpenAIが考えているプラットフォーム戦略を解説

OpenAIのストア戦略

11月6日、OpenAIがGPTストアを発表しました。これがどのような戦略が裏にあり、近い未来にAIのビジネスモデルがどう変わっていくのか、どのような業界が影響があるのかを簡単に解説します。

ネットワーク効果とは?

OpenAIの戦略を理解するにはネットワーク効果の理解が欠かせません。まずはこのネットワーク効果とは何なのかを簡単に解説します。

ネットワーク効果の定義は「製品やサービスの価値が利用者数に依存していることである」となり、よく電話網などが例としてあげられます。インターネットが広まった後の2023年の今であればSNSがネットワーク効果の例として最も分かりやすいと思います。

とあるSNSがあるとします。釣り好きのためのSNSで釣った魚の写真をシェアするサービスだとしましょう。今は黎明期で3つのサービスがあるとします。それぞれユーザー数が
サービスA:2000人(シェア20%)
サービスB:2000人(シェア20%)
サービスC:6000人(シェア60%)
としましょう。
新しいユーザーはどこかに加入しようと考えるとき、ユーザーが多いサービスに登録した方が自分がUPした写真へのいいねもたくさんつくし、釣り場の情報交換なども活発にできます。サービス自体の機能の魅力もありますがそれよりも多くのユーザーがいることの方が価値が高いことが多いです。

ネットワーク効果があるサービスで最初にユーザーを獲得すると、あとから参加するユーザーがより増えやすくなるため差がどんどん開きます。後発で同じ機能を持ったサービスをリリースしてもそこにユーザーがいなければ新規登録ユーザーが増えることはありません。メルカリと似たサービスがあったとして自分が出品した商品を買ってくれる人が少ないサービスは使いたいとはなりません。

そのためネットワーク効果のあるサービスを提供するスタートアップは赤字を増やしながらでもユーザー獲得に全振りして事業をすすめることになります。

エコシステムとは?

このネットワーク効果は当初は利用ユーザー⇔サービスの付加価値でしたが、もっと広義にはユーザー+(アプリや商品)⇔サービスの付加価値と意味を拡張できます。

アマゾンや楽天のECモールは商品が多いからユーザーが集まり、ユーザーが多いから店舗が増えるという形であったり、iPhoneは持っている人が多いからアプリが多くあり、アプリが多いからiPhoneをみんな買うことになります。

ポイントは楽天は店舗を提供していないし、アップルはアプリを作ってないのがポイントです。このようなネットワーク効果を持ったサービスの上に他の事業者が参加できるエコシステムを持っているビジネスモデルをプラットフォーム事業と言います。

自社のサービスのAPIや出店できる仕組みを構築し、利益をレベニューシェアで与えることで他の参加者の参加を促しエコシステムを構築することのメリットは以下のようなことがあります。
・自分だけでは限界がある
・エコシステムの参加者が味方に

自社で店舗の商品を仕入れたり、アプリを開発したりというのを全て自分でやるとなるとどうしてもリソースが足りません。ゲーム、健康アプリ、タスク管理、カレンダー、位置情報、旅行予約などのアプリを全てアップルが開発し提供することは不可能でしょう。APIを公開し誰でもアプリを作れる形にしてエコシステムを構築することでアップルが一人で全部やるよりもiPhone+アプリの価値を上げられます。エコシステムの成長には良いAPIデザインが欠かせません。

エコシステムの参加者は自分が作ったアプリは店舗の商品を宣伝してくれます。アプリの使い方の説明の際にiPhoneの使い方や良さを宣伝してくれますし、楽天の出店している店舗はTwitterやInstagramで自社の店舗のURLを共有して宣伝してくれます。楽天は労せずしてユーザーの集客ができるというわけです。

プラットフォーム事業の成功事例

さてここで過去のプラットフォーム事業の成功例を見てみましょう。

AppleとAndroidのストア戦略

双方ともにアプリのストアを展開し、ユーザー&アプリ⇔スマートフォンの付加価値UPという戦略で成功

Amazonと楽天のECモール

商品や店舗を出店できるサービスを展開し、ユーザー&店舗&商品⇔サービスの付加価値UPという戦略で成功

オフィスツール(ワード、エクセル、パワーポイント)

Windowにバンドルされたオフィスツールのユーザー数が多いため、企業間の資料のやりとりでワード、エクセル、パワーポイント以外のファイル形式でやりとりするのは難しい。古めの体質の大きい会社ではこのファイル形式以外は特に難しい。大企業と取引のある中小企業は合わせざるを得ない。

SNS(FacebookとTwitter)

SNSではユーザー&投稿&広告⇔サービスの付加価値という形。
先にユーザーを獲得したSNSは他のユーザーからのリアクションもつきやすいし、広告を出す企業にとっても魅力が高い。

メルカリ

フリマではユーザー&商品⇔付加価値という形。出品するにせよ購入するにせよ商品数が多く安く買えて高く売れる可能性が高いサービスの方が付加価値が高い。

GitHub

エンジニアが転職する際にGitHubの使い方を慣れておけば他の会社にいっても使われている可能性は高くスムーズに仕事を始められる。会社にとっても慣れているエンジニアが多いソース管理手法の方が採用もしやすく、生産性も上がる。

stackoverflow

ユーザー&質問&回答⇔サービスの付加価値という例。Quoraや4ch, 5chなどの掲示板系はユーザーと投稿データがサービスの価値になる。

OpenAI

OpenAIはユーザー&GPT⇔サービスの付加価値という形。考えられるサービスは
・英語レッスンGPT
・法律相談GPT
・パワポ作成GPT
・ダイエット応援GPT
・商品比較GPT
・HP生成GPT
・記事作成GPT
・動画生成GPT
など様々なサービスが考えられる。GPTストアにAIを活用したこれらのサービスが並ぶことになると既存の業界や職種が壊滅的にディスラプトされるのは間違いない。

ネットワーク効果に敗北したGAFAM

先に大量のユーザーを集め、ネットワーク効果が高いサービスを構築できればGAFAMをもってしても勝つことは不可能。以下に失敗した事例を挙げておきます。

エクセルを置き換えられないGoogle

Googleがスプレッドシートを出して10年以上経つが未だにエクセルの牙城を崩すには至っていない。

iPhone, Androidに完敗し撤退したWindowsPhone

WindowsPhoneはiPhoneとAndroidに完敗し事業を撤退。

Facebookに完敗したGoogle+

GoogleはGoogle+でSNS事業へ参入したが撤退。

Twitterに追いつけないFacebookのThreads

そして最近ではThreads。凄い勢いで増えた後、DAUは急降下。Twitterのサービスがどんなに改悪したとしても、たくさんのユーザーがいることの価値はそれを上回っているということである。

GPTストアは業界をどう変えるか?

ということで過去を振り返るとOpenAIの戦略は何ら新しいことはなく、うまいPRで耳目を集め、先にユーザーを獲得してネットワーク効果による参入障壁を築き、APIを公開してエコシステム上のアプリを作ってもらってさらに参入障壁を高め、大量のユーザーへの課金と、アプリのストアの利用料と、APIの従量課金で売上を上げようという、これまでAppleやFacebookやAmazonがやってきたのと同じことをやっているだけだったりします。


今後の市場規模

既存の市場を見てみると

AppStoreの規模

引用:https://corriente.top/post-18775/

Shopifyの推移

引用:https://ec.huckleberry-inc.com/archives/1343

GPTストアは11月9日現在、売上規模は0円で市場規模ゼロだが3か月後には売上が発生し1年後にはかなりの額になり、5年後、10年後には信じられない規模になることが予想されます。

アシスタントAPIができること

GPTストアに出品するにはGPTsを作成する必要があります。
GPTsでは従来のAIでの応答に加えて
+画像入力
+ファイル知識
+コードインタープリターの出力
+Function callingによる独自サービス呼び出し
などが可能になっています。これらのAPIを使用すると以下のようなサービスが簡単に作れるようになるでしょう。

画像入力

駐車場監視システム、畑の監視システム
画像入力の機能は強力で画像を解釈してテキスト化が可能です。
https://github.com/bdekraker/WebcamGPT-Vision
このデモでは画面に表示されたものをリアルタイムでAIに解説をさせています。駐車場監視システムに組み込むと車のナンバーの記録や何時にどのような人が来たのか、動物の侵入があったのか、特定の事象が発生した場合に通知を送るアプリなどが簡単に作れるでしょう。
他にはYoutubeを要約させたり、社内のWEB会議の議事録を起こしたりもできるようになるでしょう。

ファイルで知識強化(Retriaval)

PDF、エクセル、マークアップなどのファイルをアップロードしてGPTの知識を強化できます。コンサルのフレームワークの本のテキストを全てPDF化して入力すれば優秀なコンサルタントのアシスタントを構築することも可能に。他には裁判所の判例をPDFとして入力するとその判例についてAIと議論することも可能になるでしょう。

コードインタープリター

コードインタープリターは主に出力をしてくれる機能です。ちょっとした計算やグラフの作成、ポスターの作成などをやってくれます。これまではプロのデザイナーにお願いしていたようなロゴの提案、HPのデザイン案、ちらしのデザイン案、オープニング動画の作成などを全部AIがやってくれることになるでしょう。

もちろんGPT自体の機能で
・翻訳
・要約
・校正
・記事作成
などもできます。ここでは少しだけ例を挙げましたがアイディア次第で無限にいろいろなアシスタントGPTを作ってGPTストアに出すことが可能です。

こういったサービスがGPTストアに揃ってきたときのことを考えると、1年後には状況は相当変わっていく気がします。今現在ほとんどのユーザーがスマートフォンをもって普段の生活や仕事をしているのと同じように、GPTストアで自分にあったアシスタントGPTを購入し、プライベートでは健康管理のアドバイスや英会話の練習をし、今までアナリストに頼んでた資料をGPTと会話しながら数分で作成し、適当なワイヤーフレームのデザインのラフをGPTに画像で渡してHPのデザインを考え、発表資料のアウトラインをGPTに相談して作ってもらってさらにそのアウトラインのパワポ自体も作ってもらうという形に変わっていくはずです。

ゲームスタートではなくゲームオーバー?

ついにメタバースやブロックチェーンと違って実際に役に立つ破壊的なイノベーションが来たなと言う感想。やっと始まったと思っている人も多いと思います。ただ自分は少し違っていて今回の発表でAIのプラットフォームはOpenAIが取ることが決定したと感じています。なぜならChatGPTは既にユーザー数がけた違いに多いからです。未だにMAUは毎月1億人のペースで増加していて信じられないスピードでまだ増え続けています。

引用元:https://explodingtopics.com/blog/chatgpt-users

ネットワーク効果を考えると既に勝負は決していると考えざるを得ないかなと。そして今回のエコシステムでユーザー+アプリ⇔サービスの付加価値ということを踏まえるとここから他の競合が逆転することは不可能でしょう。

今後はGPTストアを前提に何ができるかを考える必要がありそうです。


付録

簡単にGPTストアの戦略についてまとめてみました。いかがでしたでしょうか?この記事が良かったなと思った人はいいねと、今後も記事を書いていくのでフォローお願いします。


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