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傘がない

昨夜も傘をなくしてしまいました。
会社を出るときには確かに持っていたのに…

置き傘を持って帰る、と思いついたところまでは、自分にしては上出来でした。
しかし、上出来と思うその心に、すでに油断はひそんでいたのです。

花の金曜日、心地よい秋の宵。
私は独り暮らし。
そのまま家に帰る気持ちにはとてもなれず、フラフラとラーメン屋の暖簾をくぐりました。

独り客なのに、案内されたのはテーブル席。
椅子は4つ。
自分の椅子の背に傘をかけ、座ったところ、しばらくして傘がパタンと床に落ちました。
そこで隣の椅子の背にかけ直しました。
それが、私と傘との最後の接触になりました…

手元に傘がないと気付いたのは、すでに電車に乗った後…思わず「あッ」と声が出て、隣のオジサンににらまれました。

ああ、なぜ…なぜなんでしょう、降らないときに傘を持つと、なくさずにいることができません。

昨夜は覚えているだけ、まだいいのです。大概どこに忘れてきたのかさえわかりません。

特別に注意力が劣っているのか…
空想で頭がいっぱいだからなのか…
そういう星の元に生まれたからなのか…

デパートには1万円もする傘があります。ビニール傘しか持てない私には、それが1万円という価値を超えて、あまりにまぶしく見えるのでした。

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