菅直人の原爆死没者慰霊式のあいさつがおもしろい

 安倍晋三首相の広島と長崎の平和記念式典でのあいさつが、批判を向けられています。私は、広島と長崎で内容に差異がないこと自身は問題視しない立場ではあります。ただ内容は淡白なものであったと思います。原稿を書いたのは官僚たちだと思うので、今の政府のやる気のなさを表していると思います。

広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0806hiroshima.html
長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0809nagasaki.html

比較までに菅直人のあいさつを持ってきました。

2010年
広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11236451/www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201008/06aisatu.html
長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11236451/www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201008/09aisatu.html
2011年
広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11236451/www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201108/06hiroshima.html
長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11236451/www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201108/09nagasaki.html

 内容は具体的な事項に富み、核軍縮への施策をアピールするものでした。スピーチ自身は誰かが考えたのだと思いますが、彼自身の熱意があふれるものであると同時に、旧民主党政権のスタンスの現れるもの独自性の高いものであったと思います。

・「非核大使」/市民社会/核軍縮・不拡散教育
 民主党政権が、NGO/NPOとの対話を強く打ち出した政権であったこともあり、政府以外での取り組みに言及されるのが特徴の一つだと思います。市民社会に頼らず政府も頑張れやとも思いますが、、、
2010年
(広島/長崎)
「核兵器廃絶を訴えるNGOである「平和市長会議」に加盟する都市は、広島や長崎を筆頭に、世界で四千を超えています。こうしたNGOや市民を母体とする活動は、世界的な核軍縮の気運を高めていく上で、重要な役割を果たしています。
 五月の核兵器不拡散条約運用検討会議の際には、百人近くの被爆者の方々がニューヨークに赴き、会場や街頭で、核兵器被害の悲惨さを訴え、秋葉広島市長も現地で尽力されました。この会議が最終文書採択という成果を収めた背景には、こうした被爆者の方々とそれを支援するNGOや市民の方々の貢献がありました。
 今後は、被爆者の方々が例えば「非核特使」として日本を代表して、様々な国際的な場面で、核兵器使用の悲惨さや非人道性、平和の大切さを世界に発信していただけるようにしたいと考えています。」

2011年
(広島)
「核兵器の悲惨な実態を将来の世代に語り継いでいくことは、我が国が世界に果たすべき歴史的な役割です。昨年、この式典で、私は「非核特使」の派遣を提唱しました。本日までに、広島で被爆された延べ十七名の方々が、地球一周証言の航海に参加されるなど、世界各地で、核兵器の悲惨さや平和の大切さを発信していただきました。非核特使の皆様の献身的なご協力に感謝申し上げます。また、被爆者の方々の協力を得て、被爆証言を外国語に翻訳し、世界各国に紹介する取組も始めました。核軍縮の機運を高めていく上で、市民の皆様の熱意と関心は欠かすことができません。皆様と共に、核軍縮・不拡散教育に関する活動を世界に広げてまいります。」
(長崎)
「核兵器の悲惨な実態を将来の世代に語り継いでいくことは、我が国が世界に果たすべき歴史的な役割です。昨年、この式典で、私は「非核特使」の派遣を提唱しました。本日までに、長崎からは延べ十六名の方々が、トルコにおける原爆展及び平和交流など、世界各地で、核兵器の悲惨さや平和の大切さを発信していただきました。非核特使の皆様の献身的なご協力に感謝申し上げます。また、被爆者の方々の協力を得て、被爆証言を外国語に翻訳し、世界各国に紹介する取組も始めました。長崎市では、以前から市民が「平和案内人」として被爆の跡を修学旅行生にガイドするなどの活動をされていると聞いています。核軍縮の機運を高めていく上で、市民の皆様の熱意と関心は欠かすことができません。皆様と共に、核軍縮・不拡散教育に関する活動を世界に広げてまいります。 」

・核軍縮外交
 核兵器禁止条約についての言及がなかったと批判されている安倍スピーチですが、2011年の菅直人のスピーチは具体的に国際政治における日本政府の取り組みを述べています。ここで彼が述べるのは、外務省の見解の範囲内であり、アメリカの核の傘の中にあるが故の核保有国を気遣った外交方針はよく批判されるところではあります。
 とはいえ、被爆者や核軍縮運動と立場は違えども、同じ目標に向けて頑張っているというメッセージは出せたのではないでしょうか。
2011年
(広島/長崎)
「我が国は、「核兵器のない世界」の実現に向け、国際社会の先頭に立って取り組むと強く決意し、それを実践してきました。昨年、我が国が国連総会に提出した「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」と題する決議案は、米国を含む過去最多の九十か国が共同提案国に加わり、圧倒的な賛成多数で採択されました。また、昨年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議で得た合意を着実に実施するため、核兵器を持たない国々の地域横断的なグループである「核軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)」を立ち上げました。こうした志を共有する国々との活動などを通じて、核軍縮・不拡散分野における国際的な議論を主導しています。」

・原爆症認定
現在、「黒い雨」訴訟の日本政府の対応について、注目が集まる所ですが、菅政権の時は原爆症認定集団訴訟の控訴を取り下げるということがありました。
2010年
(広島/長崎)
「長く続いてきた原爆症認定集団訴訟については、昨年八月に終結に関する確認書を交わしました。この確認書に基づき、控訴の取下げや基金の創設などを行っています。
 一方、原爆症の認定を待っておられる方々に関しては、一日でも早く認定すべく最善を尽くしたいと思います。さらに、法律改正による原爆症認定制度の見直しについて検討を進めてまいります。」

・パグウォッシュ会議
 なぜか、長崎だけで言及されるパグウォッシュ会議。政治家菅直人が何を目指しているのか、人柄の出る内容だと思います。
2010年
(長崎)
「最後に、私自身のことを、一言触れさせていただきます。私が大学で物理学を専攻した際、原爆開発にも関わったアインシュタイン博士や日本の湯川博士が、核廃絶を呼びかけた「パグウォッシュ会議」のことを知りました。人類の幸福に役立つはずの科学が、人類の生存を脅かす核兵器を生み出したという矛盾です。この会議の活動を学び、自分もこの矛盾を解決したいという思いが、政治を志す私の一つのきっかけになりました。この初心を忘れずに世界から核兵器をなくすその努力を、全力を挙げて取り組んでまいりたいと思っております。」

2011年
(長崎)
「私は、昨年、この式典で「パグウォッシュ会議」について触れました。人類に役立つべき科学技術が、核兵器を生み出してしまったという矛盾に、アインシュタイン博士や湯川博士などの方々が心を痛め、核兵器廃絶を訴える行動を起こすきっかけとなった会議です。この会議の活動を学んだことが、私が政治を志すきっかけの一つとなりました。科学技術は、真に人類の生存や幸福に役立つものでなければならない、この私が政治を志した際の初心は、今も変わりません。」

・原発に依存しない社会
2011年は、東日本大震災に伴う福島原発事故の年でした。政府としても脱原発に方向転換。そのことについても触れています。核軍縮運動の中では、原子力発電への評価は一様ではなく、対立を避けるためにスルーされてきたこともあり、実は珍しいことでした。
2011年
(広島/長崎)
「そして、我が国のエネルギー政策についても、白紙からの見直しを進めています。私は、原子力については、これまでの安全確保に関する規制や体制の在り方について深く反省し、事故原因の徹底的な検証と安全性確保のための抜本対策を講じるとともに、原発への依存度を引き下げ、「原発に依存しない社会」を目指していきます。 」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?