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初夏のソワソワ

ソワソワする。

朝の6時。

冷え込んだ夜の景色が少しずつ動き出し、
すっかり太陽の光に包まれる。早朝、6時。


最近、私は朝早くに起きるとソワソワする。
ソワソワというか、
ウズウズというか、
ワクワクしすぎて落ち着かない。

ようやく、暖かい季節がやってきたから。


私が住んでいるのは、スキーで有名なゲレンデの麓にある小さな村。
スキー目当ての観光客で賑わう冬季期間はゴールデンウィークを境に終わり、来年のスキー解禁の季節が始まるまでの夏季期間、ほとんど外部からの観光客が来ない。小さな村単位で、本来の村人だけの生活が始まる。

雪が積もり積もっていた道路の色は、白から茶色へとすっかり様変わりを終えていた。

春の合図は分かりやすい。
小さな山菜たちが控えめに芽を出し始め、村人へ、春の挨拶をするからだ。柔らかくて無邪気なカワイイ山菜たち。長かった冬を越え、ようやく芽を出した山菜たちは、長年の経験を積んだ目ざとい山菜ハンターによって素早く収穫され、各家庭の食卓へ鮮やかに味付けをされながら、じっくりじっくり、村人へ、春の挨拶をし続ける。山菜ハンターの手を逃れて春の地面に根付いた山菜たちも、すがたかたちを変えて他の植物と混ざりあい絡み合い、村人のためのガードレールとして新しい挨拶を始める。それが、初夏の合図だ。

彩どりの花が咲き乱れ、太陽に向かって、上へ横へと広がる植物。
丸い葉っぱ、尖った葉っぱ、縮れた葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ…。優しい風が吹いたのを合図にふと顔を上げれば、高い木々が新緑の葉っぱをたゆらせながら、静かに揺れている。色とりどり、個性豊かに咲き乱れる花々は誘惑するように甘い香りを漂わせ、村人へ甘い視線を投げかける。この、ふわっと香る花の香りは、瞬間的にしか受け取れない。刺激的な花の香りは長いこと誘惑はしてこないんだ。しつこく香ってこないからこそ、甘い魅力は増す。もう一度、もう一度、と、その甘い香りを味わいたくなって、私は思わず立ち止まって深呼吸をする。

ただただ、この山を歩いているだけで、容易に感じ取れる季節の変化。

植物が動き、虫が動き、動物たちも動き出す。

そう、
そんなわけで、
私の気持ちもソワソワする。

緑色のベールがキラキラ光り輝く早朝。
太陽は、ゆっくりゆっくり、
大きく伸びをしながら植物たちを優しく起こす。
ウズウズしている私のことも、朝の光で包み込んだ。

急に変わる空気。
光の温度。
皮膚に突き刺さる、強くて優しい光。
目を閉じてもわかる、これが太陽の光。
太陽の暖かさに反応した私は「今日は、明るい色の洋服を着てみようかな〜」なんて、ワクワクした気持ちが駆け巡る。
今年は何をしよう?
そして、
今日は、何をしよう?

おしゃれしてお出かけしたい
家を綺麗に片付けたい
あの植物を育ててみたい
新しい活動を始めたい
溜め込んだ本を読みきりたい

なんて
いろいろ楽しいことを考えてしまう。
太陽に煽られてるとは分かっていても、楽しいことを考えるのが止まらない。

ソワソワしてしまう時期。

ようやく、
山にも暖かい季節がやってきた。

抜ける風、優しい太陽。

目を閉じる。


今日は、部屋の片付けでもしようかな。

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