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令和の編集者。

編集者という曖昧な職業

世の中にはいろんな仕事が存在する。
その中には「よくわからない仕事や肩書」がたくさんあるし、近年ますます増えている。
例えば「おで、PdMやねん」と言われても、よくわからない人も多いと思う。

「ワシは、パチプロやねん」とか
「あたす、タカラジェンヌですのん」
なら、すぐにわかるんだけどね。

そんなことを考えていてふと思った。
ぼくを含めた「編集者」も、はたから見れば何をする仕事かよくわからない人が多いんじゃないかと。
だって、実際に「どんな仕事なの?」って聞かれたら、うまく答える自信…ないですもの。

さらに、出版業界には「ライター」と呼ばれる、頼れるプロがいる。でも、「きっと編集者とライターの違いもわかりづらいだろうなー」なんて考えていたら、この記事を見つけた。

ふむふむ…と膝を叩いたり、そのせいで味噌汁をこぼしたりしながら、一気に読んだ。

うん。
この業界に限った話でもないし、たっぷりと自戒を込めてだけど、肩書うんぬんの前に「何をしたいか」があるべきだし、その先は「何をしているか」とか「何ができるか」が重要だと思う。

この15年くらいで出版はまったくもってオイシイ業界ではなくなってしまったけど、本づくりは面白い仕事であり続けているし、売れている本もある。
なにより、ぼくたち編集者にとっては、その能力を発揮できる「場」が増えている
のだからなおさらそう思う。

だから、これからはますます「編集者とは」みたいな定義づけは意味を成さなくなるんだろうなぁ。
などと、中堅うっかりセクハラ世代&出版バブルの残り香を微かに体験した編集者としても考えされられた次第。


それでは雑誌編集者の仕事について

と、人様の文章の感想文を書いていてもちょっとアレなので、僭越ながらぼくも業界の隅っこでしぶとく生き抜いてきた自負から、何かを伝えたい。
さぁ!伝えるぞ!
…。
……。
………。
…………と思ったのだけど、これまでその場しのぎと一夜漬け、しかも主に精神力でやってきたため、大したことは話せなそうなことに気づいてしまった。
なので、ここではぼくが最も馴染みのある「雑誌編集者」の仕事内容(や生態やスキルなど)について書いてみようと思う。

もし興味があれば、何らの学びも気づきも期待せずに読んでもらいたい。

自分が雑誌関連でやってきた業務を羅列してみると…

本や漫画を読んだりおいしいごはん屋さんを探したり誌面の構成を考えたり土下座したり製作中の写真集タイトルが「ミ・アモーレ」みたいなものになるのを止めるための会議に出席したり各種依頼や申請をしたりツイッターしたり有名な人に会うためのお手紙を認めたりせっかくブローニーの巻き方を覚えたのに撮影がデジタル化して戸惑ったり情報誌の電話番号掲載ミスで怖い人に閉じ込められたり海外ロケではスケジュールを激詰めしてゴルフ用の予備日をつくったり原稿を書いたり書き直したり勝ち目のない電通とのタイマンプレゼンに挑んで勇ましく散ったり請求書を送ったり内容証明を受け取ったり早朝開始取材のために日の出とともに美味しいつなぎを求めて走り回ったりオフィスで仕事をしていたら海道一の弓取りが現れたり港で本とTシャツを売ったり1日で1府2県の取材をしてみたりロタ島で警察に銃を突きつけられたり飲み屋で仲良くなったおじさんに原稿を発注してしまったり撮影後のAV女優をご自宅まで丁重にお送りしたり書店に行ってライバル誌を見えにくくしたり深夜にえらい先生に用もなく呼び出されたり締切が明日だと気づいて慌てて提案書をつくったり宿を押さえたり終電にも関わらず寝過ごしたり校了後にクライアントから修正依頼が来て胃が破れたりM1チップを積んだMBAでスタバに行ったら座れなかったり販促でエキストラ200人と一緒に渋谷を行進したり土下座したり(2回目),etc...

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とまぁこんな感じなので、つくづく編集の仕事に定義はないことを再確認。

しかし、最近は自宅で仕事をすることが増えたので、息子&娘からは「朝からiPadでなに描いてんのw」、そして奥様からは「YouTubeなんか観てるなら買い物行ってきてよ」などと言われる始末(いや、これも仕事なんです)
…。

より良いコンテンツをつくる。

たぶん、そのために行うすべてが編集者の仕事だと思う。


で。編集者のスキルってどんな感じ?

続いて編集者の能力についても触れておこう。
よく40〜50代の編集者が「編集者はツブしが効かない」みたいな自虐ネタを言うのを聞くが、これはとんでもない。

限られたスケジュールと予算の中で企画立案から納品までを行う業務は超絶マルチタスクなので、けっこうすごいことだと思う。
とくに雑誌づくりの場合は日々想定外の事態(原稿来ないー、雨が降ってきたー、デザインのイメージが違いますー)が起こるし関係する人も多い。
結果として、望む望まないに関わらず交渉力やフレキシビリティなんかは相当鍛えられる(※ただし、胃は痛い)。

しかも、グラビア担当を数年やっていれば大抵の現場でカメアシができちゃうだろうし、コンテを描きまくってたら挿絵を受注できるレベルになっちゃうだろうし、テキストの流し込みやデータ修正しているうちにillustratorやInDesignマスターになっちゃうだろうし…気がついたらそこそこの専門性まで身についていることも多い(もちろん基本スキルとしての『パシリ』は最高レベル)ので、編集をやめてライターやデザイナー、カメラマンになる人は多かった。

あ、あと、床やパイプ椅子で寝るのがとても上手な人も多いと思う。

一方で、編集者はめちゃくちゃ「能力差」がつきやすい職種でもある。

だから、どんな編集者と仕事をするかはとても大切。
例えばぼくのようなハズレ編集者が担当になってしまった場合は地獄案件確定だ。

でも、面白いのは編集者には「能力」とは別に「タイプ」というファクターもあること。

実務や事務処理は苦手だけど、現場の盛り上げやチームのモチベーターとして声を出し、フロントで撃ちまくるタイプもいれば、みんなが寝ている間にルートに埋められた地雷を発見〜除去してくれるような裏方タイプもいる。
このあたりはチームメンバーの個性や案件・テーマによって、めちゃくちゃ面白いことになる場合もあるし、致命的なミスマッチとなる可能性もある(大体は初回の打ち合わせでわかると思う)。
個人的には、この「縁」もこの仕事の楽しさの一つかもしれない。

そういえば昔、大好きだった伝説のミニコミ誌『BD』をつくっていたエディトリアルデザイナーのこじままさきさんに「デザイナー目線だと、どんな編集者が良いっすか?」と聞いてみたところ、「んー。その気にさせてくれる人っすかね」なんて言っていたのを思い出した。

↑ なんとnote内で『BD』について触れているノートを発見!

さて。
これからの編集者はどうなるのか。どうすれば楽しくやれるのか。
そんなことを考えているうちに、芳しくない入稿スケジュールにしびれを切らした印刷所の営業さんから「ちょ、入稿どうなってんスカ?」と電話がかかってくる。

「いやー、入ったり入んなかったりですねー」
と、今日も編集者らしく答えにならない返事をする。

ちなみに。

編集者がよく言う「もう3日くらい寝てないっすよー」とか「いやーバタバタしてましてー」とかは半分ウソです。
編集者はけっこう寝てます。
いろんなとこで。

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