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学生と地域がつながれる場所を自分たちの手でつくる

地域で活動されている方のご紹介を通じて、京都市東山区エリアで活動をされている方にお話を伺う企画「iINA」。活動に至ったきっかけや地域活動を通じての変化感など「いいな」と思えるストーリーをお聞きし、新しいことに踏み出したい人が、まちの「いいな」につながるアクションに踏み出すきっかけとなるような発信をしていきます。

今回は「今熊野空き家再生プロジェクト」で空き家のリノベーションに携わる京都美術工芸大学4年生の森田優佑(もりたまさひろ)さんにお話を伺いました。大学進学を機に東山へ移住された森田さん。学生ながら地域と深く関わっている理由と、そのきっかけとは…?

古き京都の建築を学びに

ーー森田さんは現在大学生4年生で、元々の出身は神奈川県だそうですね。

はい、京都美術工芸大学で建築を学んでいます。出身は神奈川県の南足柄市という山に囲まれた地域で、今熊野と地形が似ているんです。近所のおばあちゃんから「おかえり」と言われたりするぐらい周囲の人との距離感が近かったです。

ーーなぜ京都へ進学されたのでしょうか?

祖父がお寺や神社など古い建物が好きな人で、小さい頃から色々見せてもらって「いつか京都にも行きたい」という話をしていたんです。その過程で古き良きものを残していくという価値観が馴染み深いものになっていって、伝統的な建物を学べる京都の大学へ進学しました。

学生のために、そして今熊野のために故郷の雰囲気を感じられるような場所を作りたかった

ーー現在、京都市「東山の未来」公募委員をされているそうですが、これはどのような活動なのでしょう?

年に数回程度、東山区内のいろんな学区や学区内の自治会の会長さんたちが集まる会議があって、僕はそこに公募枠として参加しています。学区の現状の報告だったり、地域のことを話し合って課題を見つけだしていますね。

この会議をきっかけに今熊野の石井会長と知り合いになって。石井会長は今熊野に空き家が増えている現状を問題視されていて、学生たちで一棟リノベーションをしてくれないかという話が僕のところに来ました。

ちょうど仲間内で「せっかく京都に住んでるなら、京都らしいところに住みたい」とか「マンションじゃなくて一戸のお家にシェアで住もう」という声が出ていて。そのような時に空き家を提供していただける機会をいただき、ちょうど1年前ぐらいに「今熊野空き家再生プロジェクト」としてスタートしました。

ーー現在はどれぐらいの人数で活動されているのでしょうか。

最初は数人だったんですけど、現在は70名でやっています。 本格的なプロジェクトにしてリノベーション住宅を増やしていったら、少しずつ街のにぎわいも戻ってくるのではないかと思い、今年の4月からサークルにしたんです。

ーー1年間で70名はすごいですね。実際どのようにリノベーションを進められているのでしょうか。

リノベーションのプランの話し合いと解体作業を並行して続けています。建築学部の学生が多いので建物の勉強も兼ねて床を剥がして下の構造を見たり、芸術学部の学生が造作で手を加えたり。資格が必要な部分は業者さんに頼むのですが、できる限り自分たちの手でやっていこうとしています。最終的には2024年9月1日を目安に僕が実験台として入居する予定です。

小さな一戸建てのお家なんですけど、2階は学生のシェアハウスに、 1階はコミュニティキッチンのようにして地域の人も自由に使える場所にするつもりです。

ーーただのシェアハウスではなく、地域の繋がりが生まれる場所にされるのですね。東山の課題を聞く中で地域の繋がりが必要だと感じられていたのでしょうか?

そうですね。京都市「東山の未来」区民会議の時に、高齢者率が高まってて若い人も入ってきてくれない、 でも観光客は増えていて色々問題が起きていると伺いました。京都はせっかく学生の街なんだから、学生がそのまま定住できたらいいんじゃないかなと思ったんです。

ただ、今の課題として、学生マンションに住んでしまうと地域との繋がりがなくて外に出ていきやすくなっています。故郷の雰囲気を感じられるような、地域の人と関われる場所を何個か作れば、学生にも京都に住み続ける選択肢が生まれると考えました。

ーーリノベーションしていて周辺の方から反応はなにかありますか。

一度、試験的にみんなでお鍋パーティーをしたんですけど、それを見た地域の方が「昨日楽しそうにしてたね」と話しかけてくれたり、日中作業しているときに「何をしてるの」と声をかけてくれたり。 よくしてもらっている今熊野の自主防災会の方々からは差し入れをいただきました。まだ完成していないんですけれども地域の人との繋がりが感じられていて、本当にやっていて良かったなと思います。

最初は京都のことを観光客目線で見ていたり、あまり地域に踏み込めずに暮らしていたんですけど、 この活動や京都市「東山の未来」区民会議に参加したことで京都の方って地域に関心がある方が本当に多いと知りました。出入りがなくなった家に敏感だったり、リノベーションにすぐに気づいて声をかけてくださったり。京都は観光の場というよりも学生が住みやすくあったかい場所だと思っています。

ーーリノベーションについて今後このようにしたいという希望はありますか。

学生が学年を超えて一緒に住めたらいいなと思っています。先輩と後輩が住んで、先輩が出たらまた後輩が入ってといった感じで。東山には大学がたくさんあるので、うちの大学だけでなくいろんな学生さんが入ってきてもらえたらいいなと思いますね。

シェアキッチンは毎週何曜日に使っていいですよと開けて地域の人を呼んだり、一人暮らしが不安な学生のために お料理教室を開いたり。お店を開きたい人が、試す場所として使ってもらってもいいかなと思っています。

今回地域の方に開くのはシェアキッチンなんですけど、そのような場所をちょっとずつ増やしていきたいですね。芸術学部で自分のアトリエが欲しい子もいるので、そういう子たちのアトリエを作って地域の子どもたちに教えられるような教室を開いたり。京都の人は来るもの拒むような印象があるけれど、意外とそんなことないんだよっていうのを外に見せるためのオープンなお家として、地域の方も学生も入り乱れるような場所にできたらいいなと思ってますね。


恩返しからはじまった地域活動

ーー森田さんは移住者かつ学生であるわけですが、なぜ地域に関わろうとされたのでしょうか。

大学2年生の時に学園祭の実行委員長をやっていたことが大きいですね。 僕の大学は元々貞教小学校があった場所で、学園祭に地域の方が大勢来てくださったんです。学園祭の前にも今熊野の自主防災会の方が、ポスターを今熊野の掲示板やスーパーに貼ってくださって。そのあたりから京都の人って、意外と学生にも関わってきてくれるんだなと地域の魅力に気づき始めて、区民会議にも応募しました。

これだけよくしてもらったなら何か返さないとと思っていた時に、石井会長から空き家を提供していただけることになったんです。

外から来た人間が勝手に何かやっているとよそ者の目で見られますけど、 その点学生という立場は地域の方も温かい目で見てくれるのでありがたかったです。

学生だと自分だけに時間や労力を使おうと思えば使えるのに、地域に還元していこうという思いを持たれているのがすごいですね。とはいえ最初はなにをどう始めていいかわからなかったとも思うのですが、そこはどう乗り越えていかれたのでしょうか。

いろんな人に手当たり次第に話を聞きましたね。区民会議でよくしてもらってる市役所の東山区の方や区役所の方に聞いたり、大学の先生も都市計画などで地域に入っていかれる方なので荷物持ちで着いていかせてもらったりしています。あとは「町屋の日」や「路地サミット」など京都は建築や街づくりのイベントが多いので、知ってるものは全部参加しました。

ーーすごい行動力ですね。

大学の学園祭の実行委員長をやった時に、何事も自分一人では絶対回せないと学んだんです。誰かの力を借りて大きな輪にできれば影響力も大きくなっていくので、いろんな人に会っておいて、いざとなったら何かを頼めて、そこからまた話が繋げていけたらなと思っています。

考える前に行動しちゃっても大丈夫

ーー大学卒業後は就職されるんですか?それとも今の活動を生業にされるのでしょうか。

廃校になった今熊野小学校の校舎をどう使っていくかの研究を大学院でさせてもらおうと思っています。 地域の方にいろんな可能性を提示するための研究をしたいなと。

ーー引き続き研究を大学院で続けられるんですね。では今熊野空き家プロジェクトの活動に関しての今後の希望はありますか。

大学のサークル活動として空き家をリノベーションしていますが、 ある意味これも大学と地域の中で閉じこもっちゃっていると感じています。地域で東山のために活動してる人たちと大学生とでもっと輪を大きくしていきたいですね。僕らの活動がきっかけで京都に永住する人が出てきたり、 京都で家族が増えたり、そんな景色が10年後見れたら嬉しいですね。

ーーそれでは最後に、今から何かを始めようと思われている方にメッセージをお願いします。

大学生、特に1年生に言いたいのは考える前に行動しちゃった方が得られるものは多いよということです。考えてどうしようかと思っている時よりも、いったん何かをしてみて情報やつながり、経験を得た上で考えた方が発展します。

家でガリガリ図面を書くより、街に出て散歩していろんな人に声かけたり、こうして空き家の活動をしたり、外に出て活動した方が考え方の幅も広がります。 意外と考えるより先に行動しちゃっても得られるものは多いですよ。

インタビュー:川嶋二郎 文:伊賀朝代 編集:橋野貴洋


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