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目的がないからこそ誰かとつながれることがある〜神主がひらくくつろぎの場とは

地域で活動されている方のご紹介を通じて、京都市東山区エリアで活動をされている方にお話を伺う企画「iina」。活動に至ったきっかけや地域活動を通じての変化感など「いいな」と思えるストーリーをお聞きし、新しいことに踏み出したい人が、まちの「いいな」につながるアクションに踏み出すきっかけとなるような発信をしていきます。

今回取材させていただくのは、霊明神社の神主である村上浩継さん。神社に来た人が自由にくつろげる「縁むすひ」という場を作るほか、社会の課題解決に取り組む人を応援する「志プロジェクト」を立ち上げています。その取り組みや想いについて話を伺いました。

神道葬祭を創め、霊山墓地を創設した霊明神社

ーーまず霊明神社についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

ここは神道の葬儀をするためにできた神社で、江戸時代後期に創設されました。当時は徳川幕府の政策で寺請制度・檀家制度というものがあり、一般の方は亡くなると仏式の葬儀をしていたのですが、「どうして日本は神の国というのに、亡くなったときだけ仏式に委ねないといけないのか」と、国学者で神道家の村上都愷(くにやす)が密かにこの場所に神道の葬祭場を作ったのがはじめです。

当時は幕府に認めてもらっているものではなかったので、正法寺さんの場所を買わせてもらって、表向きは時宗の葬儀を装って、密かに神道の葬儀をしていました。

幕末の頃には長州藩の勤王派の志士とつながり、中でも吉田松陰門下の久坂玄瑞と3代目の村上都平(くにひら)が懇意にし、「もし自分たちに何かあれば神道による葬儀で自分たちを弔ってほしい」と彼らに頼まれ、長州藩の志士の神葬祭や慰霊祭を行うようになります。このことが勤王派の志士に伝わるところとなり、長州藩だけではなく、水戸藩や土佐藩など、国事に奔走し、命を落とした志士の神葬を霊明神社が担うようになりました。この霊山に志士のお墓がたくさん並んでいるのはこうした歴史があるからです。

明治なり国事国難で亡くなった方々を国でお祀りするということになり、この地に官祭による招魂社が建立されることになります。こうして、霊明神社の霊山墓地も上知となり官修墳墓化することになり、志士の墓地が霊明神社から直接の管理を離れることになりました。

霊山墓地は元々霊明神社が拓いた神道墓地ですが、なかなかそこまでは知られていません。

ーー村上さんは代々神主さんをされているのですね。

そうですね。今、うちの父親で8代目です。代々村上家が継いでいます。

排除せず、ゆるくつながる「縁むすひ」という場

ーーここからは「縁むすひ」という取り組みについてお話をお伺いいたします。

月に一度、「縁むすひ」という神社開きの場を設けています。目的を持った場ではなく、別に何をするでもなく自由に過ごしてもらう場です。お話をしたり、ゲームをしたかったらゲームしてもらってもいいし。自由に過ごしてもらっていい場所にしています。ギターを持ってきてずっとここで演奏してくれた人もいたし、いつ来ても演奏できるように今もそこにギター置いてあるんですけど。「村上さんもよかったら練習して」とか言って。

大体、朝10時から夕方5時ぐらいまでやりますけど、その時間ならいつ来ていつ帰ってもいいです。話したいことがあれば話すこともできるし、相談したいことがあったら相談してもいい。本当に自由に過ごしてもらえる時間と場所にしているので居心地はそれなりにいいんじゃないかと思っています。

もちろん他の人に迷惑をかけてはダメですが、どんな風に過ごしてもらってもいいので。リラックスできたりやりたいことができたり、ちょっと知らない人と喋ってみたり、友達を作りたいとか来て良かったと思える場所にしたいと思っていますね。

ーー「縁結び」ではなく「縁むすひ」なのですね。

「産霊(むすひ)」は結ぶの語源とも言われます。ここからいろんなご縁が生まれるというニュアンスで「むすひ」としています。この場で出会って結婚された方もいらっしゃるので、実際に縁結びにもなっていたという事例もありますが。

私はこの神社をできるだけ開いていきたいなという気持ちがありましてね。できるだけオープンにして排除しないように。

昔は神社やお寺にふらっと立ち寄る方もたくさんいましたよね。コミュニティの核みたいな存在であり、お祭りがあって賑わうっていうのもそうですし。社会的な役割として神社もお寺も、人がつながる場として機能すればいいと思っています。

大きなことや多くは望まないけど、ここに来てもらってご縁ができたり誰かの役に立てたりしたら嬉しいですね。お子さん連れてきてもらってここで遊んでもらってもかまわないですし。

ーーどうしてこのような取り組みをはじめられたのでしょうか。

この神社は一般の方が来られるような神社ではなかったんですよね。祖父の代は基本的に閉め切っていて、お祭りのときや社中さん(霊明神社で先祖やご家族が祀られている方々)がお墓参りされるときに上がってもらう形でした。

それが父の代になってから、正しい歴史をちゃんと伝えていきたいということになり、情報発信をしていくことになりました。インターネットが普及するようになったことも大きいですが、研究者や幕末史が好きな方がここのことを知るようになり、少しずつ神社のことを知ってもらえるようになってきました。それなら一般の方が来ていただきやすいようなことをもっとしていきたいという思いもありました。

私がここに帰ってくる前は岩手県の釜石市に復興支援で行って、仕事をしながらさまざまな場づくりをしていたんです。それで帰ってきたときも場づくりの仕事をしようと思っていたんですね。神社のことはするけど、仕事としては別の仕事を持とうと思っていて。そうやって外ばっかり見ていたんですが、いや待てよと。足元を見ると神社という場所もあるし、この神社をもっと活用することを考えた方がいいんじゃないのかなと思うようになったんです。神社だからこそ人が集まってくれるとも思ったので、それを生かして誰かの居場所となるような場を作ろう、と考えて縁むすひを始めました。

ーーこの取り組みを進めておられる中で変わったことなどはありますか?

最初はパラパラ数名が参加するというところから始まって、次第にいろんな人が来られるようになりました。
縁むすひに来られた方が、あるとき「ヨガをする知り合いがいて場所を探してるんだけど霊明神社でできませんか?」という相談を受けてたりして。そこからとんとん拍子で話が進み、月に1回、ヨガを神社でやるようになりました。まさに縁むすひです。

ヨガの先生がおっしゃるのは普通の貸しスペースでやるよりは、坂を上がってきて京都市内も見えるような山の中、神様もいらっしゃるような空間でヨガをするのはスペシャルなことなんですと。
こうして、いろんな企画がどんどん生まれるようになりました。縁むすひだけじゃないですけど、いろんな人とここでつながるようになって、ハープの演奏をしてくれたり、三味線の演奏してくれたり、狂言をここでやってくれたりとかね。

縁むすひという場があることで、ゆるやかに人と人がつながり、新しくコトが始まったり。私も含めて、ここに集まる人たちがそれを楽しんでいる感じです。

ずっと続けることによって本当にいろんな人が来てくださるようになって、いろんなご縁ができてきたかなと実感しています。私が帰ってきたときはほとんど京都のつながりを持っていなかったので。元々京都で仕事をしていましたが、その頃は仕事だけだったので、友達ができたりとかはなかったんですよね。それが縁むすひをやるようになってから、知り合いや友達もできるようになって、困ったことがあったときも頼れたり、逆に頼ってもらったりとかね。そういうのはすごく変わったところですね。

ーー東山に対して今後こうしていこうというビジョンはありますか。

東山で暮らす人たちの間で「人とつながれる、おもしろい神社があるし行ってみたら」と言ってもらえるような場になればいいかな。それこそ「どこで買い物してる?」とか地域の人しか分からない情報ってあるじゃないですか。「あそこ行くんやったらここの路地から行ったら早いんやで」とか。東山は観光客が多く、生活している人が住みにくくなっているような気がしています。東山で暮らす人たちの憩いの場であったり、情報交換するような場であったり、そういう居場所にもなれたらと思います。

志をもつ人たちが仲間を見つけられる場を作りたい

ーー壁に貼られている「志プロジェクト」というチラシについてお伺いしたいのですが。

「志プロジェクト」は世界や日本が抱えているいろんな課題を解決しようと志を立てている人を「現代の志士」と見立て、神社で応援しようという取り組みです。2023年に始めて、3ヶ月に1回ぐらいイベントをしている感じで、2024年4月で4回目を迎えました。

ここは幕末に日本をなんとかしたいと志を立てた人たちが集まっていた神社ですので、そういう志を持った人に来てもらえるといいなと。そして神社に来ていただいて、改めて志を立ててもらったり、気持ちを強くしてもらったりとか、勇気づけることをこのプロジェクトでできるといいなと思っています。

ーーなぜこのプロジェクトを立ち上げられたのでしょうか。

一昨年、神社の歴史をまとめた本を出版しました。図書館や本屋で手に取れるものとして、古文書や論文を引用している学術的価値の高いものを残しました。100年経ってもそれを見ればうちのことが分かるようなものです。

そこでその本のプロモーションをしないといけないということになったんですが、自分としてはやっぱり本を売ろうとするのは違うなと思って。本が出たのは知ってもらいたいけど、本を売るというよりは出版したことを契機に神社のことを知ってもらったり、興味のある人にお参りしてもらいたい。そういう風に考え方を切り替えて、どういう人に神社のことを知ってもらえたらいいか、それは志士のように志をもった人だろうと。そうして生まれたのが「志プロジェクト」です。

ーー具体的にどのようなイベントをされているのでしょうか。

4月に実施した回のゲストは宿泊施設を運営されていらっしゃる方で「“あなたの暮らし”が“誰かの体験”に変わる!?」というテーマでやりました。

その方は京都の暮らしを体験してもらうことを宿泊客に提案されていて。観光に来られた方の行く場所が清水寺や嵐山など、同じところばかりなので、京都の人はどういう暮らしをしているか外国の人に体験してもらいたいというような話。

ワークショップで「皆さん普段どんなもの食べてますか」とか、「落ち込んだとき、どこに行きますか」とか。「ちょっとお茶したいときってどこのカフェ行きますか」とか質問をしてもらってね。多分、住んでる人はあえて人の多いところに行かないと思うんですよね、お気に入りのところに行くと思うんで。

あまり人に言いたくないかもしれないけど、ワークショップではあえてそれを出してもらって、その暮らしを体験するようなプログラムを作って、来た人に体験してもらおうと。地味な体験かもしれないけど、どこどこのカフェでお茶してとか、どこどこで本読んでとかを知る、そんなツアーですね。

大げさにいうと、京都のオーバーツーリズムという課題に一石を投じるということですね。観光に携わる方が儲かることだけを考えるのではなく、課題感をもって宿泊施設を運営されています。こういう人は是非応援したいし。プロジェクトを通じて、こういう人を増やして、仲間ができると、とても意味があるんじゃないかなと思いますね。この神社だからこそできることがあるんじゃないかなというところですね。

ーーいろいろなつながりを活かしてイベントを開催されていて、村上さんが神社に留まっていたら生まれていなかったプロジェクトだなと感じます。楽しみながら、自然と輪が広がっていっていますね。

ありがとうございます。縁むすひに関していうと目的なく本当にお茶して喋るだけなので、それがいいときもあります。目的を持つと来る人が決まってくるじゃないですか。どうしても硬直してくるところはあるので、ここは目的はないので何をしててもいいですよと誰かの居場所であり続けたいですね。

霊明神社HP
https://www.reimeijinja.org/
霊明神社FBページ
https://www.facebook.com/reimeijinja/
志‐kokorozashi-プロジェクト
https://www.facebook.com/kokorozashi2023/

インタビュー:川嶋二郎 文:伊賀朝代 編集:橋野貴洋


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