#1 高齢者の看護ってなんだろうか【看護師小説】【短編】
私はどこにでもある病院で働いている男性看護師である。
病棟は戦場のごとくばたばたしている。
ため息を着く暇がない。
どんどんたまっていくタスク
理不尽な先輩。
もう辞めたい。
毎日そう思っている。
その思いをうんと下に押し込めて看護師をしている。
とある患者の検温を終えて次の患者の検温へ向かった。
検温する患者は90歳を超えた高齢の女性である。
ストーマを作っており定期的な便破棄が必要だ。
「こんにちは。よくきたね」
歳の割には高い声で私を出迎えてくれた。名前をAさんとする。
「きたよ」
砕けた話し方だが患者との信頼関係があるからできる話方だ。
私が話かけると嬉しそうに右手をあげた。
「今日も肌綺麗だね」
私はAさんの耳元で言った。お世辞ではない。本当に綺麗なのである。
私がそう言うとAさんはべぇっと舌を出した。その瞳は輝きに満ちている。
私は笑った。Aさんもケタケタと笑った。
ばたばたと忙しく、泣きたくなるような複雑な人間関係の職場で毎日辞めたいと思っているがこうして笑えることが私は不思議だった。
このAさんの看護をするべき立場の私が逆にAさんから元気をもらっているのである。
学校でもこんなことは習っていない。
昔、誰かが言っていた。それは先輩看護師だったか、看護教員だったかわすれた。
「私たちは逆に患者さんから元気をもらっているんだよ」
まったく持ってその通りだ。私はそう思いながらAさんの血圧を測り始めた。
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