見出し画像

『君と明日の約束を』 連載小説 第十四話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)です。
毎日数分で読める青春小説の投稿をしています。
全部で文庫本一冊分くらいのボリュームになります!
よければ覗いてみてください!
一つ前のお話はこちらへ↓

 僕は家を出て自転車で駅に向かっていた。バイトは午後二時からだから、それまでに買い物と昼ごはんを済ませようと思って少し早めに家を出たのに、午前十時から元気に活動している太陽が僕を襲う。

 駅に着くまでに汗ばんだ背中にシャツがへばりつかないようにしながら歩いていき、改札を抜ける。電車が進むにつれ、周りの建物の高さがどんどん高くなってくる。ここから電車に十数分揺られると、栄えた駅に着く。

 この駅は何本かの線路が交わる駅で、外に出なくとも駅に併設されたモール内で全ての買い物を完結させられるから人が集まりやすい。その中には大きな映画館や服屋、病院もある。

 バイトの場所をこの駅に決めた理由は、駅の近くに大きな書店があるからだった。

 コンコースを通り抜ける際、周りの壁にいろんな広告が貼り付けられているのが目に入る。高そうなブランド商品の宣伝の中に、八島総合病院の広告もあった。

 八島総合病院は慎一の父親が経営している大規模な病院で、この駅から近く、僕も小さい頃お世話になったことがある。

 通路を抜けた先に大きな階段とエスカレーターがあり、そこを上がると書店の入り口が見えてくる。

 大きな駅から直結のモールに入っている書店だから、人が多い。本を探したり立ち読みをしている人の間を縫うように文芸コーナーに行くと、目当ての本があった。今日発売されたその本は書店員が押しているのかお洒落なポップに紹介がされていて、サイン本はすでに売り切れてしまっているらしい。

 そのあたりのこだわりのない僕は平積みされている本の中から一つを選ぶ。手に持って質量を感じた瞬間、数ヶ月溜めこんでいた期待が胸の奥で膨らむ気がした。

 帯に書かれているコメントを読んでいる最中、横から来た人が窮屈そうに手を伸ばすのが視界に映ったので、同じ本を取ろうとしているのだろうと思い体を動かして場所を開ける――と、
 そこに、彼女がいた。眠気なんて全て家に置いてきたと言わんばかりの大きな目をした彼女が。

 びっくりした。なんとなく近寄りかたに違和感を感じたのは、彼女が僕のことに気づいていたからだったのか。

 僕は彼女がすぐにこちらを振り向いて、学校で話した時のような愛想のいい顔をするのだろうと予想した。
 結果、僕のその予想は大きく外れた。

〜〜第十五話に続く〜〜

【2019年作】恋愛小説、青春小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?