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『君と明日の約束を』 連載小説 第十五話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)です。
1投稿数分で読める青春小説の投稿をしています!
全部で文庫本一冊分のボリュームです、よければ覗いてみてください🌻
一つ前のお話はこちらから読めます!↓

 僕が彼女の横顔を見ていると、彼女は僕のことなんか目に入っていない様子で嬉しそうにその本を一冊手に取る。彼女は表紙を眺めた後、表紙をめくり、ページを進める。ペラペラと紙がめくられる小さな音。

 真横にいるのに顔を上げない彼女を見ていると隣に立っている僕のことをわざと無視しているんじゃないかと思えてくる。だから僕はあえて彼女に声をかけずじっと見つめていた。

 黒と白で統一された姿で、彼女のスタイルが良いから様になっているものの、どこか無頓着さが残っている服装。僕がファッションに興味がないから分からないだけかもしれないけど、制服と違う服を着ている彼女はあえて『緩め』を出しているような、外に出るために着飾った雰囲気ではなかった。

 結局彼女が僕の存在に気づいたのは、数十秒後、買うことを決心したのかその本を持ったまま振り向いた時だった。

「わ!」

 彼女は本気で驚いたのだろう。勢いよくのけぞった。

「小坂くん! びっくりしたー」

 いや、今まで気づかなかった方がびっくりだけど。

「いつからいたの?」
「倉本さんが本を取る前から」

 即座に答えると、彼女は「ええっ?」と言いながら目を見開く。

「ずっとだよねそれ」
「だね」
「気づいてたんなら声かけてくれたらいいのにー」

 彼女はわかりやすく唇を尖らせた。いや、むしろこっちはわざとじゃないのか疑っていたくらいなんだけど。

「そこまで気づかないとは思わなくて」
「いやー、恥ずかしい……。あ、それ」

 僕の手の中のものを指差す。

「小坂くんもこれ買いに来たの?」
「うん、新刊出るの待ってたから」
「私もこのシリーズは毎回買ってるんだ、面白いよね! あ、すいません」

 後ろから来た客の邪魔になっていたので、僕たちはその場を離れることにした。

「この本屋さんにはよく来るの?」
「バイト前にいつも」
「そっかぁ、バイトか。何のバイト?」

 あれ、と思う。予想外の反応だったから。

〜〜第十五話につづく〜〜

【2019年作】恋愛小説、青春小説

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