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『君と明日の約束を』 連載小説 第十話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)です。
1投稿数分で読める青春小説の投稿をしています!
全部で文庫本一冊分のボリュームです、よければ覗いてみてください!
一つ前のお話はこちらから↓

 頭の上で話しているのに、全く気づく様子もなく、彼女の横顔には幸せそうな微笑みが浮かんでいる。

「どうしようかな」
「……あ、もしかして、面談の紙?」

 親切な彼女の友達は僕の左手に収まったプリントを見て言う。

「うん、倉本さんのだけ出てないから」
「それなら、もう田内に提出したから大丈夫だって。さっき回収の時に言ってたよ」
「あ、そうなんだ。ありがとう」

 彼女にお礼を言ってから、自分の席に戻る。
 夢の中にいる彼女は、時間になり教室に田内が入ってくるまで、ずっと顔を上げることはなかった。起きたのは先生が入ってきたからではなくて周りの友達が彼女をくすぐったからだけど。


 その日の終礼後、図書室から本を借りて教室に戻ると、慎一はまだ移動教室の掃除から帰ってきていなかった。部室に行く予定をしているので、しばらく教室で時間を潰すことにする。

 教室掃除の途中だったが、終礼後一旦後ろに下げられた机は元に戻っていたので、僕は自分の机に座り借りてきた小説を広げた。
 図書館特有のフィルムに覆われた文庫本。やっぱり、手に馴染まない感じがした。

 プロローグを読み終えたところで、紙面が暗くなる。見上げると、ある程度は眠気が解消された様子の彼女がそこにいた。

 倉本さんの手には箒が握られていたから、僕が椅子に座ったせいで掃き掃除の邪魔になってしまっているのかと思った。けど違うらしかった。

「小坂くん小説好きなの?」

 期待を込めた訊き方をした彼女は僕が持っている本をじっくり見ていた。

「うん、結構」
「図書室、よく使うんだ?」
「いや、そんなことないけど」

 基本的に本は購入する派だから、図書室で借りることはあまりない。昨日買えなかったせいで持ち合わせがなかったから仕方なく図書室で借りたのだ。

「あれ、違った」

 彼女の顔に一瞬「間違えた」みたいな表情が滲む。その表情とさっきの口調で、もしかしてと思う。

〜〜第十一話につづく〜〜

【2019年作】恋愛小説、青春小説

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