『君と明日の約束を』 連載小説 第十九話 檜垣涼
檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
青春小説の連載をしています🌸
全部で文庫本一冊分のボリュームです。1投稿数分で読めるので、よければ覗いてみてください!
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普段だったら料理の最中も途切れることなく注文が飛んできてフライパンや鍋は同時に二個以上使うのが当たり前なのに、今日は料理が終わるごとに十分ほど空き時間があって調理器具の手入れの方に時間をかけられる程だった。バイト中に時間をもてあますことに慣れていないせいか、体力は減っていないのに精神的に疲れている気がする。
無駄に体力は余っていたので駅の方面に向かう前、フードコートの階に行って彼女の様子を覗いてみることにした。
なんとなくそんな気はしていたが、彼女はさっきバイトに行く直前に見たのと同じ姿でそこにいた。
難しい顔をしながらパソコン画面と対峙している。
時々上を向いて何かを考えているような仕草はしているがそれ以外はずっと手を動かしている。僕がバイトをしていた四時間、ずっと書いていたのだろうか。遠くから見ている僕にもちろん彼女は気づかない。
明らかに彼女を見つめる不審者になっている自分に気づき、彼女から目を逸らす。ゆっくりしていてタイムセールが終わってしまってはいけない。僕は彼女に背を向けて歩き出した。
放課後、倉本さんと慎一と部室前にいた。彼女に部室を案内して、と言われたのだ。
彼女の入部届けを慎一と倉本さんと三人で田内に出しに行くと、田内は驚いた顔をして、僕たちの顔を順にまじまじと見つめた。
田内は、倉本さんと目を合わせて軽く頷く。田内も彼女が入部するのが驚きだったのだろうか。
慎一は病み上がりらしくマスクをして、大げさに僕たちと離れて歩いていた。そのせいか、今日は全然口を開かなかった。で、僕が全て彼女に説明していたのだ。
「ここが部室で、鍵は毎回職員室で借りて、帰るときには戻すって感じかな」
説明することなんてほとんどないんだけれど、とりあえず一通り話をすると、
「この印刷機って、使える?」
日織が部屋の端にある印刷機を指差した。
「うん、使えるけど?」
「ちょっと印刷したいものがあって」
「ちょっとまって、電源入れるから」
僕は印刷機の奥にあるコンセントにプラグを差し込む。電気がついたのを確認してからボタンを押すとウィィンという起動音のようなものが聞こえ、何も操作していないのに紙が刷られる音がした。
「あれ」
見ると、排紙トレイに紙が一枚出ていた。裏返すと――成績表?
ーー第二十話につづく
【2019年】青春小説、恋愛小説
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