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『君と明日の約束を』 連載小説 第五話

檜垣涼(ひがきりょう)です。
1投稿数分で読める連載小説の投稿をしています!
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 また次の本を買わなければならない。今週は当たりの本ばっかりですぐ読み切ってしまった。

 ベッドに潜り直し、薄いタオルケットをお腹に掛けて目を瞑る。
 柄にもなく浮かれていたのだろう。すぐに瞼が落ち、気づけば窓から光が差し込んでいた。



 柄にもなく浮かれてしまっていたのだろう。それがいけなかった。
 そのことに気付いたのは、数学の授業も終わりに近づき先生が宿題を回収し始めた時だった。数日前に渡された宿題のプリントの存在を完全に忘れていた僕は、数学の授業後続けて始まった終礼の後、数学教師兼担任でもある田内のもとへ謝りに行った。

 田内は話しかけると生徒に好かれる笑みをこちらに向けた。しかし宿題を忘れたことを言うと彼女の目には驚きと心配が混ざった表情になり、そろそろ進路を考える時期だからしっかりしなさいという趣旨の説教を受けた。

 そして今日はややこしい会議があるから、という理由で、明日の朝礼までに提出すると言質を取らされたのだ。

 ややこしい、というのは多分教頭が変わってから急に増えた会議のことだろう。先生用駐車場の近くで教師が愚痴っているのを何度か聞いた。田内も少し煩わしそうな顔をしたが、それは宿題忘れより、会議に対してだと思った。

 席に戻ると、慎一が近づいてきた。

「ミツが宿題忘れるなんて珍しいな」

 僕が田内と何を話していたのか分かったらしい。

「田内にも同じこと言われた」

 僕は昨日の会話を思い出す。

「慎一が昨日言ってた宿題ってこれのことか」

 頷いたので、

「教えてくれたらよかったのに」
「人のせいにすんなよー! もうやり終えてるのかと思ってたし」
「完全に忘れてたんだって」
「え、てことは全く手つけず?」
「……うん。やばい? 明日の朝までなんだけど」
「かもな、難しかったし」
「教えてください」

 頭の上で手を合わせる。学年一位が難しいと思うってことは……間に合う気がしない。まあ忘れていた自分が悪いんだけど。

「お願いします」

 頭を深く下げて戻すと、慎一はいたずらっ子の目でしばらく沈黙した後、

「……いいよ、貸し一な。ちょっと遅れるから先部室行っといて」

 多分今ので、借り数を両手では数えられなくなった。

〜〜第六話につづく〜〜

【2019年作】恋愛小説、青春小説

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