見出し画像

『君と明日の約束を』 連載小説 第四十三話 檜垣涼


檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
よろしくお願いします🌼
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています
数分でさくっと読めるようになっているので、よければ覗いてみてください!
コメントやいいねいつもありがとうございます。大歓迎です!
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 わざとらしく口に空気を溜める先輩を無視できず、ノリを合わせる。

「ごめんなさい」
「お姉さんは寛大だから許してあげるよ」

 ふふん、と嬉しそうに頷いた彼女はフォークを持った手をビシッと前に向け、わざとらしく格好つける。

「で、急にバリバリ働き出して、どうしたの? 春休みとかそんな感じじゃなかったのに。まあ、話し相手ができてお姉さんは嬉しいけど」
「自分で使うお金くらいは自分で稼ごうと思って」
「そっか。偉いんだね」

 大学生でバイトは当たり前だからか、僕が高校生だと言った時も葵さんはあまり反応しなかった。

「なに、好きな子でもできた?」

 今回もさらっと流されるかと思ったが、彼女は面倒な方に舵を取りをはじめる。

「なんでそうなるんですか」

 僕は呆れながら言う。

「いやー? 高校生でお金欲しいってのは、女の子と遊びに行くお金とか、そういうことなんじゃないの? だれ?」

 彼女は楽しそうに笑いながらずけずけと質問を投げてくる。どこが寛大な先輩だ。

「偏見ですよ」
「前来たって子?」
「へ?」

 僕の話を聞かない葵さんがとんでもないことを言い出す。前に彼女とこの店に来た時、確か葵さんはいなかったはずだ。と言うことは……ふと目線を感じ後ろを振り向くと、奥で聞き耳を立てていた店長と目が合う。

「ごめんな、つい」

 大げさにため息をつくと、店長は「これで許して」とか言いながらまかないを一品増やしてくれた。

「そのガールフレンドと遊ぶため?」

 一層目を輝かせた彼女に少々うんざりしながらも、ちゃんと弁解する。

「違いますよ、そんなんじゃないです。本が好きで……」

 はっきり違うというと、少しの罪悪感が滲み、声がしぼんでしまいそうになる。慌てて声量を戻して付け足した。

「それを買うために」
「ふーん」

 僕の声がしぼんでしまったことに気づかなかったのか、それとも休憩時間が終わるから話を切り上げようと思ったのか、さらに深追いしてくることはなかった。

 声が小さくなったのは、僕の反応につまらなさそうな顔をしている葵さんの言っていることはあながち間違いでもなかったから。先輩の言う通り、彼女と会う予定をしていたから。ただ、今回は二人じゃない。初めて慎一も誘っていた。

ーー第四十四話につづく

【2019年】青春小説、恋愛小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?