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『君と明日の約束を』 連載小説 第三話

檜垣涼(ひがきりょう)です。
数分で読める連載小説、読んでくださるとありがたいです!全部で文庫一冊分くらいになります。
前の話はこちらにあります。↓

「ビニール。なんか持って帰るなら入れれば?」
「ありがとう」
「おう」

 慎一の家に何か持って行こうかと聞くと、玉ねぎをお願いされた。昨日ちょうど無くなったと彼の母が言っていたらしい。

 いくつかの野菜を彼にもらった袋に入れる。帰る準備をしていた慎一は、残っていたクラスメイトに何か言われ、申し訳なさそうに手を合わせていた。打ち上げに誘われているのだろう。

 僕は段ボールを陽の当たらないであろう位置に移動させてから、教室を後にした。

 帰り道、晩御飯の食材を揃えるために最寄駅と家の間にあるスーパーに立ち寄った。食材を追加で購入してから家に帰ると、住宅街全体が暗く沈んでいた。昼の明るさと打って変わって夕方は暗くなるのが速い。

 ポストの中身を確認し、夕刊といくつかのチラシを取り出す。カバンの内ポケットの中に手を突っ込んで鍵を取り出し、家の扉を開ける。中に入り、制服のネクタイを緩めながら電気のスイッチを押すと、小さな部屋が暖かい光に包まれた。

 キッチンと繋がったリビング中央に置かれてある四人掛けの机と椅子。使っているのは半分だけで、もう半分はチラシや新聞で覆われている。卓上の空きスペースに学校から持って帰ってきたキャベツやついさっき買ったばかりの食材が入っている袋を置き、中身を広げる。

 スーパーではピーマンとばら肉を買ってきた。模擬店が焼うどんだったから麺類は避けたかったし、余りのキャベツを消費するためにはちょうどいい料理を思いついたのだ。

 買ってきたものが傷んでしまってはいけないので、食材を冷蔵庫に入れていく。買っていないはずの玉ねぎを手に取った僕の口から、思わず間抜けな声が漏れた。

「あ」

 忘れていた。さっき学校で慎一に頼まれた玉ねぎ。
 あとで持っていけないこともない――けど、まあ早い方がいいだろう。

 僕は玉ねぎのネットを掴み廊下を引き返す。リビングの電気を点けたまま玄関を抜けると、予想以上の眩しさに目をしかめる。見上げると道路の脇、等間隔に設置された街灯が点灯し、家先を明るく染めていた。

 ここから慎一の家までは一分とかからない。家の前を横切る道路を少し曲がると、周りの家と比べ決して普通とは言えない豪邸が目に入った。

 チャイムを鳴らすと、上品な女性がインターホン越しに応える。
 彼女の名前は華さん。慎一のお母さんだ。

〜〜第四話に続く〜〜

【2019年作】恋愛小説、青春小説

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