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『君と明日の約束を』 連載小説 第八十三話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします!
一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。そろそろ終盤に差し掛かってきてます!
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 彼女の遺書を読んだ後、彼女の病気を調べていた。彼女が言っていた成功率を知りたくて、ネットに病名を打ち込んだ。

 手術成功率。
 それに気を取られて見過ごしていた文字列が今になって鮮明に頭の中に浮かび上がった。

――手術合併症。

「日織?」

 固まっている彼女の母親の後ろから、僕が声を出した。彼女と目が合う。

「その小説、どうしてここにあるか覚えてない?」

 あえて、軽く。今抱いている疑惑なんて些細なことに過ぎないと言い聞かせるために、僕は彼女になんでもないような空気で質問をした。

「え……うん」

 不安そうに頷く日織は、冗談を言っているようには見えなかった。隣にいた彼女の母親が息を呑む。どうしてこういう悪い予想は、当ってしまうのだろう。



 急遽現れた医師の診断で、彼女は記憶障害だと診断された。

 彼女に対していくつかの質問がなされた後、状況が判断された。予想通り、手術の合併症によるもので、記憶の一部がダメージを受けている状態のようだった。しかし、日常生活に支障が出るようなものではないらしい。

 その日常生活とは、もちろん、『一般的な』日常生活のことを言っている。

 つまり、日織の場合は、忘れてしまった小説に関する記憶なしに、この後の生活をしていかねばならないということになる。

 語弊があるといけないので加筆しておくと、小説以外のことも忘れている可能性がないというわけではない。実際、どの記憶が失われたか正確に判断することは難しいからだ。

 ただ、日織の場合、小説に関する記憶が大きいため、それを忘れてしまっているという事だけはいち早く結果として現れた。日織の態度を見ていた周りの誰もが、今までとあまりにかけ離れたその部分だけに目がいってしまうのだ。

 日織の母親が一番ショックを受けていたようで、日織の父親が「命が助かっただけで十分じゃないか」と慰めていた。

 夕方病院に来て初めて話を聞いた慎一も、少なからず衝撃を受けているように見えた。

ーー八十四話につづく

【2019】恋愛小説

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