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『君と明日の約束を』 連載小説 第五十話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
よろしくお願いします!🌼
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
一つ前のお話はこちらから読めます↓

「へぇー、小説。すごいね、じゃあ、部活って文芸部?」
「はい」
「小坂くんも書いてるの?」
「いや、僕は書いてないです。読み専です、前も言ったかもしれないですけど」
「そっか。みんな楽しそうでいいなー」
「先輩は楽しくないんですか」

 ただの社交辞令のつもりだった。
 なんとなく言い方に違和感を感じたから聞き返したというだけの。

 彼女の反応を待ちながら飲もうとしたアイスコーヒーのストローを口に持っていく途中で動きが止まってしまった。
 葵さんが普段みたいな飄々とした表情をしていないことに、驚いたのだ。

 彼女は何か、顔に出そうになった気持ちを抑えたみたいな表情をしていた。それが何か分からず、ひとまず謝る。

「えっと……何か変なこと訊いてたらすいません」
「あ、いや全然。ちょっと思い出してただけ」

 どう返せばいいかわからず、ただ頷く。

「私……大学暇って言ったでしょ? それが楽しみで大学に入ったんだ、……実は。私昔から長期休み大好きで、ああ、他の人もだと思うけど。で、大学って人生の夏休みとか言うじゃない。だからネットで一番遊べる学部とか調べてそこに行くためだけに、高校の時は結構勉強して合格できたって感じで」

 彼女は購入したルイボスティーのストローを手すさびの道具にしながら訥々と話す。

「でも結局やりたいことがあって入ったわけじゃないから、暇すぎて飽きるし、かと言って受けたい授業もないからサボりがちになっちゃってねー。それまでは、夏休みの自由さが好きだったんじゃなくて、多分普段忙しい合間に入ってくる休みが好きなだけだったんだって後から気づいて。まあ、就活で困らない程度には名の通った大学に通えるように勉強してたことは自分に感謝なんだけど、高校の時にもっとちゃんとやりたいこととことんやりたかったなーとか、自分から何か興味あること色々したかったなーって思って」

 彼女は最初こそ口ごもりながらだったが、次第に軽い口調に戻ってきて、最後には、「ま、今は大学でできた彼氏と毎日のように遊んでるからいいんだけどー」と彼氏との写真を自慢げに見せてきたので、いい話をしてくれたのか自慢しただけなのか分からなかったが、とりあえず彼氏の話に「よかったですね」と、奢ってくれたことにお礼だけ言うことにした。

 家に帰ってから、葵さんが言っていたことを考えていた。普段のからかい好きな彼女も、色々と考えているのだろう。

――とことんやりたかった
――自分から興味あることを

 彼女が何を考えながら言っていたのかは知らない。でも、僕は彼女のその言葉に何かしら影響を受けてしまった。

 日織のことを手伝えるのではないだろうか。そう思った。
 なんとなく、うまくいきそうな感じがあった。

 鞄からスマホを出し、メッセージの画面を開く。
 気がつけば僕は、文字を打ち込んでいた。

ーー第五十一話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説

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