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『君と明日の約束を』 連載小説 第四十四話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
よろしくお願いします💠
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています
数分でさくっと読めるようになっているので、よければ覗いてみてください!
コメントやいいねいつもありがとうございます。大歓迎です!
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 もともとその日は母と華さんが夜ご飯を食べる予定だった。母からそれを伝えられたのが約一週間前で、料理を作る必要がないことを日織に言うと、一緒に夜ご飯を食べようという事になった。
 せっかくなので慎一も誘おうという話になり、慎一を誘った。

 慎一は、予定が分からないから後日連絡すると言っていたが、会う予定をしていた日の前日の夕方になっても慎一から連絡は来なかった。

 バイトから帰宅した後、確認のために慎一のスマホに電話をかけると、華さんが出た。

「もしもし?」
『あ、もしもしミツくん。ごめんね、いま慎一風呂に入ってるんだけど、ミツくんだったからでちゃった』

 彼女はやっぱり、ペットの頭を撫でるようなやわらかい声を出す。電話で華さんと話すのもなんだか気まずいので話を切ろうとする。

「あ、そうですか。また後で大丈夫なので出たら折り返すよう伝えてもらえませんか?」
『伝えることあれば伝えるけど?』
「あ……じゃあ。明日の夜のことで……」

 それだけで華さんは話の流れを理解したようで、

『ああ、明日ミツ君のお母さんと私が夜ご飯食べるから、慎一とどこかで食べてくるって話でしょ?』
「ええと」

 それの返事がわからないから電話したのだけど……。
 華さんの様子では、もう確定事項のことのように思っているらしい。もしかして、と五日前の記憶を遡る。

 確か、僕は母に「母さんが華さんと夜ご飯食べる日、僕も晩御飯食べてくるから」というようなことを言った記憶がある。それを僕の母が、僕も慎一と食べてくると勘違いして受け取り、そのまま華さんに話してしまったということだろうか。

「いや」

 僕が話の伝達の齟齬を取り除こうと切り出した時、電話の奥で慎一の声が聞こえた。

 しばらく何か言い合いする二人の声が聞こえてから、話し声が慎一に戻る。僕は少しだけ張っていた肩を緩める。

『――ごめん、話聞いた』
「おう」
『連絡遅くなってごめん、明日五時に駅でいい?』
「わかった。日織にもそう伝えておく」
『あ、ちょっと待って』

 向こうで何やらトントンとステップが聞こえる。ステップの音が止まると、さっきよりちょっとだけ声のトーンを下げた声が聞こえた。
『日織のこと、かあさんに話した?』
「話してないよ」

 僕が母に話していないのだから華さんに伝わっているなんてこともない。

ーー第四十五話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説

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