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『君と明日の約束を』 連載小説 第十六話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)です。
1投稿数分で読める青春小説の投稿をしています!
全部で文庫本一冊分のボリュームです、よければ覗いてみてください〜
一つ前のお話はこちらから読めます!↓

 同じ学校に通っている人にこの話をすると「え! バイト? なんで?」という大げさで面白半分の反応が返ってくるが、彼女にはそういった物見高さがない。

 彼女の顔をまじまじと見ていると、何も考えていないみたいに小首をかしげる。もちろん、これが彼女の優しさからくるものではないのかもしれないし、実際はただ何をしているかの方が気になっただけかもしれない。けど、それでも僕はちょっとだけ、彼女の純粋な返答に好感を持った。

「飲食。レストラン」
「え、どこの?」
「このモールのレストラン街の中」
「そっかー、小坂くんのバイト姿想像つかない。今度行ってみようかな」
「僕キッチンだから来ても意味ないよ」
「え、じゃあ料理できる系男子?」
「まあ、ある程度は」
「すごい、模擬店でも料理してたねそういえば」

 彼女は真っ直ぐに感心した表情で控え目に拍手をした。なんだか恥ずかしくなって、話を元に戻す。

「倉本さんは? ここよく来るの?」
「うん、定期区間内だし。本屋さんのためと、カフェとかフードコートとかで本を書きに」
「本?」

 え、本を書くの? 驚いて質問を重ねようとしたのを彼女が遮る。

「ねえ、この後暇?」
「……お昼どこかで食べようと思ってたけど」
「じゃ、ちょうどいいじゃん。一緒に食べようよ」

 そんなわけないのに、初めから誘うことを決めてたのではないのかと疑ってしまうくらい自然な流れで、彼女は僕を昼ご飯に誘ってきた。

「本書いてるって?」
「そう。小説家になりたいの」

 小説家? それは。

「小説を書いてお金をもらう、あの小説家だよね」
「そう、その小説家」

 訊くと、彼女は食後に店先で買ったホットティーを飲みながら涼しい顔で頷いた。

〜〜第十七話につづく〜〜

【2019年作】 恋愛小説、青春小説

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