『君と明日の約束を』 連載小説 第六十九話 檜垣涼
檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
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一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
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でも、そんな楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。数週間して、私はやっと本を読み終えた。
そして次の日から、その男の子は私の病室に来なくなった。
看護師さんに聞くと、何となく口を濁された。幼いなりに、なんとなく違和感を感じた。
一人の時間が増えて、寂しさが胸の中にあふれた時、気づく。私は、男の子とお父さんとの最後の時間を奪ってしまっていた。お父さんも、あの子が病室にいなくなった時、今の私と同じ気持ちだったと思う。心配になり、お母さんに訊いても、看護師さんみたいに微妙な返事が返ってきた。看護師さんの表情は読み取れなくても、お母さんの表情ですぐに気づいた。
あの子のお父さんは、亡くなったのだ、と。
後悔しても後の祭りだった。寂しさと申し訳なさをどうにかしようにも、その子はもういなかった。
私が今の病気に罹っていると気づいたのは、男の子が病院に来なくなってから数ヶ月経った頃だった。
私がそのことに気づいたのは、彼がシングルマザーだと話してくれた時。あの瞬間、自分の中にある記憶の糸が手繰り寄せられる感覚になった。
小坂満。こさかみつる。
あの読み尽くされた本に大きく書かれてある名前がそうだった。
そして、父親は亡くなったと聞いて、確信した。
逆に言えば、あの日まで私はそのことに気がつかなかった。
だからお母さんが入ってきた時、ひやりと心臓の裏側を撫でられるような気持ちになった。
もしかしたら、お母さんは気づくのではないだろうか。
今目の前にいる少年が、ミツ君であると。
そしてその少年が、あの時の男の子であると。
あの時の話を持ち出してくるのではないかと心配した。
ちゃんと私はミツ君に謝ろうと思っていた。あの時のことを、ちゃんと話して。ミツ君は多分気づいていない。だからちゃんと自分の口から話したかった。中途半端な形で彼に知らせてしまうのは嫌だった。
それと、もう一つ。
私は、ミツ君が病室によく遊びにきてくれていたあの男の子だったと気づく前に、お母さんにミツ君の話をしていた。
ーー第七十話
【2019】恋愛小説
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