『君と明日の約束を』 連載小説 第四十一話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
よろしくお願いします💐
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています
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「ああ、別に暗い感じじゃないよ。昔からだから普通のことだし。」

 彼女は僕の意図を把握したように、柔らかい笑みで頷く。

「そっか」

 彼女なりに重苦しくならないように気を使ってくれているのだろう。わかりやすくさりげない感じで相槌を打ってくれる。

「お父さんが小さい頃に亡くなって、それで、母親が結構忙しいから、小さい頃からちょっとずつ料理するようになって」

 彼女の気遣いに沿って話す。

「それに、接客は嫌だし。愛想振りまくのは苦手」
「ずっと笑顔は疲れるもんね」

 そう言って彼女はさりげなく話を括った。

 ご飯を食べ終えた後はまた彼女への講義を再開した。僕も今日は家で母がご飯を作ってくれているし、彼女の集中力も夕方まで保たなかったため、今日は早めに解散することになった。

「ね、私小説家になれるかな」

 勉強道具を片付けている最中、彼女がふと呟いた。

「いきなりどうしたの」

 そんなこと分かるわけないよ、と言おうと思い顔を上げた僕は彼女の表情を見て続く言葉を飲み込む。適当に答えてはいけないと思った。さっきの彼女の優しさに、少し恩のようなものを感じていたこともある。

 彼女の瞳には波一つない水面に石を落とした時みたいな揺らぎが映っているように見えた。
 普段の眠そうな表情とも楽しそうな空気感とも違う、思い詰めたような表情をする彼女がすんと印象深く僕の心に刻まれた気がした。

 僕は丁寧に言葉を選びながら本心を言う。

「どうなるのかは分からないけど、少なくともあれだけ本気でやってる人でないと小説家にはなれないと思う。日織くらい努力している中から、なれる人が出てくると思うから」

 僕が言うと、

「らしいね」

 なんて彼女が笑う。

「だよね。私、頑張るから」

 彼女は多分帰ってからも教科書を開くことなく本を書くのだろう。
 素直に、人の目標を応援したいと思う感覚は久しぶりだった。でもその気持ちを直接言うのはちょっと恥ずかしい気がした。

「言ってくれたら手伝うから」

 さも当たり前のようなことを言う感じで、平坦に返すと、彼女は少し目を見開いた後、笑みを深めた。

ーー第四十二話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説

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