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『君と明日の約束を』 連載小説 第四話

檜垣涼(ひがきりょう)です!
数分で読める連載小説を投稿していきます〜
ちなみに、全部で文庫一冊分くらいになります。
前の話はこちらにあります。↓よければみてね。

 ――あ、ミツくん?
 ――え、玉ねぎ? ちょっと待ってね

 事情を説明すると、インターホンが切れた気配がして、しばらくすると純白の扉がゆっくり開いた。

「こんばんは」

 僕が頭を下げると、エプロン姿の華さんが子猫を見つけたような笑顔を浮かべる。

「こんばんは〜。文化祭、楽しかった?」
「はい、まあ。これ、模擬店で余った食材です。慎一からちょうどなくなったってきいて」
「そっかそっか、ありがとうね」

 彼女は渡した玉ねぎを見ながらふわふわと笑う。

「気使わせちゃってごめんね」
「いえいえ。いつもお世話になってるので」
「そんなの気にしなくていいのに……あ、夜ご飯、大したものないけどちょっと分けて帰る?」

 華さんは包み込むような空気感で提案してくれる。でも僕は「大丈夫です」と頭を下げた。

「母ももうすぐ帰ってくると思うし、今日の分は買ってきているので」
「あれ、お母さん今日出勤の日だった?」
「いや、今日は友達と出かけているらしいです」
「そっか」

 華さんは納得したように頷くと「じゃあ、ありがたくいただくわね」と微笑む。

 僕が会釈すると、彼女は「これで何か作るから楽しみにしておいてね」とペットにおやつを与えるみたいに笑っていた。

「ありがとうございます」

 頭を下げ、自宅へと戻る。

 ピーマンとキャベツを切り分け、半分ずつ炒める。お皿に移してからフライパンでバラ肉に火を通し、砂糖と酒を少し加えてから豆板醤と甜麺醤、醤油で味を整える。最後に野菜を戻して絡めると食欲がそそられるいい匂いが台所に広がった。

 調理を終えてリビングで本を読んでいると、しばらくして母親が帰って来る。

 一緒に晩御飯を食べてから、僕が先に風呂に入る。母が忙しいの日のいつもの流れだ。

 湯船に浸かると体の節々――主に腰から疲労が溶け出していくのを感じる。文化祭二日間のハードな作業で疲れが溜まっていた。

 料理中はずっと同じ体勢をキープしていないといけないし、その上机に鉄板を乗せただけの低い調理場で腰に負担がかかっていたのだ。

 浴槽の縁に頭を預けると一気に力が抜けていく。

 普段にはない瞼の重さを感じ、急いで立ち上がる。やばい、このままだったら絶対に寝てしまう。

 風呂から上がり、テレビをみている母におやすみを言って自室に上がる。ベッドに潜り、鞄から取り出した本を読み始めると、さっきまで感じていた眠気がすぅと引っ込んでいった。

 読み終わった時に時計を見ると、12のところで長針と短針が重なろうとしていた。僕はベッド脇の本棚に読んだ本を入れる。

 また次の本を買わなければならない。今週は当たりの本ばっかりですぐ読み切ってしまった。

 ベッドに潜り直し、薄いタオルケットをお腹に掛けて目を瞑る。
 柄にもなく浮かれていたのだろう。すぐに瞼が落ち、気づけば窓から光が差し込んでいた。

〜〜第五話につづく〜〜

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