『君と明日の約束を』 連載小説 第九話
檜垣涼(ひがきりょう)です。
1投稿数分で読める青春小説の投稿をしています🌸
全部で文庫本一冊分くらいになります。
前回の話はこちらから↓
学校に着いて教室に行く前に職員室に寄ると、途中数人のクラスメイトとすれ違った。訊くと僕と同じように今朝のうちに提出するように言われたらしい。
こんこんとノックしてから扉を開けると、ちょうど奥の方で座っている田内と目が合った。
可愛い動物のフィギュアが並べられた彼女のデスクに近づいて、カバンから取り出したプリントを手渡す。
「遅くなりました。すみません」
「はい、気をつけてね。しっかりしてよー。そろそろ進学するかとか本格的に決めないといけないんだし」
言われるだろうと予想はしていたので「聞いてますよ」の意で相槌を打つ。田内はこの話をさっきすれ違ったクラスメイト全員にしているのだろうか。
「――それじゃ、面談の紙、朝礼までに集めといてね」
「えっ?」
「だから、面談の紙の回収」
「委員長は――」
「今日欠席なんだって。さっき連絡あったの。だから、教室戻ったらみんなの分回収お願いね、いい?」
「なんで僕が……」
他にも宿題忘れた人いるのに、という不満を込めて呟く。
「頼みやすい、から?」
小動物をからかうような目で笑う彼女。
「……はい」
宿題のこともあるし、「朝礼の時に先生が集めれば……」と言えるほど肝が座っている人間ではない僕は頷くしかなかった。
「出席番号順に並べといてねー」
教室に戻ると、クラスのほとんどが登校していて、朝礼の五分前までには委員長以外全員が揃った。
列ごとに回収した後、順番を並べて数をかぞえると、一枚足りないことに気がついた。
もう一度番号を確認すると、倉本日織のプリントがない。彼女の方を見ると、また机に体を預けていた。
「ね、倉本さん」
セーターを枕代わりにしながら寝ている彼女に近づき声をかけると、んぬぁ? と声を漏らすだけで、目を覚ます気配がない。
仕方なく彼女の肩を揺らすと、「んーふふっ」という奇妙な笑い声が聞こえてきた。でも起きない。どんだけ爆睡してんだ。
「小坂?」
彼女の近くで談笑していた女子生徒の一人が、それに気づき声をかけてくれる。
「どしたの?」
「ああ、倉本さん寝てて」
「ああ、いつも。知ってるでしょ?」
知っていたので、頷く。
「この子寝だしたら全然起きないから」
頭の上で話しているのに、全く気づく様子もなく、彼女の横顔には幸せそうな微笑みが浮かんでいる。
「どうしようかな」
「……あ、もしかして、面談の紙?」
〜〜第十話につづく〜〜
【2019年作】恋愛小説、青春小説
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