『君と明日の約束を』 連載小説 第二十話 檜垣涼
檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説の連載をしています🌻
全部で文庫本一冊分くらいになります。
1投稿数分で読めるので、よければ覗いてみてください!
一つ前のお話はこちらから読めます!↓
「あ」
後ろで椅子に座っていた慎一がいつもより少しかすれた低い声を発する。
「それ、俺の」
つまりは、以前使用した時に、パソコンの操作ミスか何かで印刷待機状態になっていたらしい。
驚いた顔が二つと何事もなかったかのような顔が一つ。
「すげー」
僕たちは、全国テストで一桁の順位を叩き出す慎一の成績表を見せつけられた。
「じゃあ、これからよろしくね、ミツ君、慎一君」
彼女の入部届けを田内に無事提出し、彼女と別れる際。男子にも一部にしか呼ばれない呼び方にひっかかる。
「呼び方……」
「え、だって慎一君もそう呼んでるから。ね、慎一君?」
慎一はマスクの奥になんだか微妙な笑いを浮かべていた。どういう意図があるのか分からないけど、ちょっとむかつく顔。
「私も日織でいいし」
そういえば慎一が彼女のことを日織と呼んでいたことを思い出す。まあ、慎一は誰とでも呼び捨てとか愛称で呼ぶ仲になるからだけれど。
呼ばれ方は別にいいとしても呼び方を変えるつもりはなかったのに、最終的に「せっかく部活一緒になったんだから」と入部したことを盾にとられ、強制されてしまった。彼女に対しここ最近思っていたことを心の中で撤回する。彼女は全然純粋でいい人なんかじゃない。
勤務時間が通常の時間帯へと戻り、忙しさも元に戻ったことで、日織に会うのは16時を過ぎてからだった。
彼女からのメールの通り、僕たちは結局前回と同じフードコートに集合していた。
今日も彼女は白の長袖シャツに黒のパンツ姿で、膝には暖かそうなひざ掛けがかけられていた。
しばらくして彼女がパソコンから顔を上げる。
「ごめんね、暇だよね」
彼女には「手伝って」と言われたけれどこの時間からだったら何もできないということで、特に何処かに行くということはしなかった。
それで結局、パソコンに向かっている彼女の前に座り、バイト後ここに来る前に本屋で調達してきた新しい小説を読んでいた。
「いや、別に。いつもとやってることそんなに変わらないし。あ、水いる?」
僕は彼女と自分のコップを持ち、給水場へ水を取りに行く。
「ありがとう」
彼女がふっと息を漏らし、受け取った水を一口飲み、またパソコンに向き直る。すると、すっと彼女の周りの空気が張り詰めた。
ーー第二十一話につづく
【2019年】青春小説、恋愛小説
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