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『君と明日の約束を』 連載小説 第二十五話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。よろしくお願いします!
毎日、長編小説の連載を投稿しています💐
最後までいくと文庫本一冊分くらいになりますが、1投稿数分で読めるので、よければ覗いてみてください!
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 彼女はパソコン画面を眺めたまま横に置いた水を手に取り、キーボードを打ちながらそれを飲む。そしてまたてを伸ばし、コップを戻した。一度も、コップを見ることはない。
 それ以外の行動はといえば、たまに手が止まり考えているのか目を瞑るだけ。僕の観察には気づく様子もなかった。

 試しに手を振ってみるも、そんなことをしている自分がバカに思えてくるほど無反応だった。
 休憩のタイミングはよくわからないけれど、彼女は休憩を取るまでずっとこの調子だった。

「んん、疲れた休憩」

 ちょうど数分後、そのタイミングが来たらしく、彼女が手を止めた。

「なに、その顔」

 僕の訝しげな目線を受け、彼女が訊いてくる。

「一応確認しておくけど、なにも気づいてない?」
「なにも、って?」

 彼女はとぼけた顔を見せる。いや、そんなことあるのか。

「え? 何かしたの?」

 彼女は自身の体の周りをきょろきょろと見回す。

「してないよ」
「じゃあ、どういうこと?」
「子供が泣いてた」

 彼女が後ろを振り向く。

「子供? いないよ」

 いや、そりゃ今はもういないけど。

「もしかして私何かしちゃった?」
「ううん、大丈夫」

 彼女が本気で見当違いな返答をしてくるので、僕は仕方なく話を切り上げる。

「集中力すごいなと思って」
「やっぱりそうだよね」
「やっぱり?」
「うん、よく言われる」
「だろうね」
「ちょっと周り見えなくなるところもあるからあんまり良くないんだけど」

 ちょっとどころじゃないと思うけど。

「お母さんにもいつも怒られるの。周りの状況みて行動しなさいって」

 彼女の母親がそう言いたくなる気持ちはよくわかる。
 今度は彼女が水を汲みに行ってくれた。

「ありがと」
「うん。しかも、本書き出したら話しかけられても気づかないこと多くて。返事してたとしても大体上の空でさらに怒られるの。だからミツ君、もし何かあったら直接肩とか叩いてね」
「……わかった」

 僕は彼女のペースに呑み込まれ、頷く。

「あ、ねえ」

 彼女が僕の本を指差す。

「それ推理小説?」

ーー第二十六話につづく

【2019年】青春小説、恋愛小説

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