見出し画像

『君と明日の約束を』 連載小説 第六十六話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします🌺
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 鋭い声に、思わず伏せていた目を慎一に向ける。慎一はまっすぐ射抜くような視線で僕を見ていた。

「うぬぼれ?」
「そう。結局するかどうかは自分なんだから。それに、患者の体調を管理するのは医者。慎一はもっと他に謝ることあるだろ」

 それだけ言って、慎一はまた布団に戻る。

 他に。
 やっぱり、自分に責任がないとは思えない。

 あの日、病室で彼女を見た時に、分かった。同じシチュエーションを、経験したことがあった。

 僕は彼女をもっと昔から知っていたのだから。

 病気だと知っていたはずなのだ。少なくとも、彼女の体が弱いことには気づかねばならなかった。病気だとわかっていたら彼女に脂身の多い料理なんか勧めなかった。思えば、彼女はいつも食材を確かめていた。

 毛布や授業中の睡眠、それを咎めようとしない教師たち。今思えば、それで気づくべきだったのだろう。

 でも。
 帰り際に見せた彼女の悲しげな表情を思い出す。

「うん。ありがとう。明日学校の帰りに病院行く」
「ああ」

 慎一が少し笑う。
 電気が消される。

 暗闇の中で、訊く。
「慎一の勉強も理由があるから?」
「……まあ、そうだな」
 しばらくの沈黙の後、小さく声が聞こえた。


 ***


 謝らないといけないことがある。私はずっとミツ君に隠し事をしていたのだから。

 ミツ君と昔、会った事がある。
 ミツ君の体を大事にしろという言葉には、彼の父親が亡くなったことが影響しているのだろう。いや、もしかすると彼の反応は私のせいかもしれない。

 私は、彼が父親と過ごす時間を奪ったのだから。

 小さい頃から、体が弱かった。私の記憶の一番初めは、病院での入院生活だった。今でこそ普通に学校に行けているけど、小学生低学年までは喘息がひどくて、病院で生活していた。

 喘息で息をするのにも体力を使うから、他に何かしようとも思わなかった。ただ、その生活が普通だから、特別退屈に思うこともなく、天井を見上げて一日を終えることばっかりだった。

ーー第六十七話につづく

【2019】恋愛小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?