『君と明日の約束を』 連載小説 第三十話 檜垣涼
檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
よろしくお願いします!
毎日一話分ずつ、長編小説の連載を投稿しています。
最後までいくと文庫本一冊分くらいになりますが、1つの投稿は数分でさくっと読めるようになっているので、よければ覗いてみてください!
一つ前のお話はこちらから読めます↓
「うん、また進路の話」
昼休み前、数学の授業の後田内に呼び出されて進路のことをもう一度確認されたのだ。
「決まらないの?」
「……まあ。まだって言ったら決めないと勉強のモチベーションも上がらないでしょうって言われた」
「それはなあ、まあその通りだと思う」
思わずため息が溢れる。
「慎一はなんで毎日のように勉強続けられるの」
「医学部、勉強しないと受からないから。そうするしか方法がないってだけ」
慎一が間髪入れず答えるので、今まで訊いていなかったことを尋ねる。
「なんか医者になって絶対に叶えたいこととかってあるの?」
それとも、他に理由が? 可能性は考えられたけれど、慎一に失礼だと思い口には出さなかった。
「そりゃ、一応理由はあるけど」
慎一が女子生徒のひときわ大きな笑い声に反応して振り向く。日織たちのグループだ。何か盛り上がることがあったのだろう。
「なに?」
会話が止まってしまったので慎一に先を促すと、あると言った割に難しい顔で何かを考え出した。
「……でも実際、俺の場合は洗脳の部分大きいと思うよ。だって、親が病院のトップって、最初からレール敷かれてるようなものだし」
結構思ったことをそのまま言う慎一だけど、周りに理由を依存する慎一は珍しい。でもいつも無理していることは知っていたので違和感はなかった。
「俺の親めちゃくちゃ過保護だしな。ほら」
慎一は自分の弁当箱に目を落とす。
「それは華さんの優しさだと思うけど」
「まあ、そうだな。でも勉強に関して、親の過保護さが嫌じゃないのはそういうことなんだろうけど。だから俺と日織の覚悟は多分全然違うんだって」
確かに話しかけても反応しない人は初めて見た。
「まあでもミツ、見ててやってよ。俺週末はいつも塾入ってるから忙しいし」
それに、もしかしたら日織に影響されて何かやりたいこと見つかるかもしれないだろ、と相変わらず頼りになる笑みを浮かべた。
「うん。慎一もまた夏休みにでも一緒に行こうよ」
「ああ。そうだな。そろそろ講習とかで忙しくなるけど、タイミングが合えば行こうぜ」
昼休みの食堂も終わりに近づき、人が少なくなると、慎一は後輩らしき女子生徒に声をかけられて、僕に先に戻るように言ってきた。
ーー第三十一話につづく
【2019年】恋愛小説、青春小説
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