見出し画像

#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.1


「で、谷山君はどうしたいの?」

鼻に開けた小さなピアスから声が聞こえているようだった。

学生からはそのまんま ”あの鼻ピのスタッフさん” と呼ばれ、名前よりも鼻ピアスが1人歩きしている僕のクラス担当女性スタッフ。

名前は遠藤さん。僕より5つぐらい年上の若い女性だ。

学校のスタッフで鼻にピアスなんて、いかにもファッションの専門学校っぽいなぁ。なんて思いながら面談は続く。
入学から時間が経つのは早くて2年間の専門学校も折り返し地点となり後1年。

そんな区切りのタイミングで、いかにも流れ作業のようにブッキングされた進路相談。

「えーどうしようかな。。。」

僕は貴重な正午から午後1時までの1時間の昼休みが短くなってしまう12時30分スタートの進路相談が嫌で仕方がなかった。
なので不機嫌な気持ちを隠すことなく、だるい表情で答えた。

大阪の心斎橋のド真ん中にあるファッションの専門学校は、4階建ではあるものの小さいビル。スペースは限られている。
教室を確保するのが精一杯なのかミーティングルームなんて無い。

僕はスタッフの遠藤さんと校舎出入り口近くのフリースペースにいる。
多分インテリア学科の学生なら知ってて当然なのであろうどこかの有名デザイナーが作ったオシャレなテーブルとイス。
デザイン優先で決して座り心地が良くないイスが僕の不機嫌を増倍させていた。

「いくつか候補はあるんですが、特に進路を決めている訳ではないです。」

たくさんの人が行き交う校舎の出入り口を横目に僕は答えた。
進路の話だし、誰かに聞かれていたら嫌だなぁ。。。と心配して落ち着かなかった。

そもそもファッション業界の就職活動が厳しいことぐらい十分知っている。
学生の多くは入学当初、デザイナーを夢見て専門学校に入って来た。

だから、就職するならデザイナーとしての仕事がしたいのは必然。
確かにアパレルメーカーのデザイナー職、デザイナーズブランドのアシスタントなど募集はある。
でも募集人数に釣り合わないぐらい全国から多数のファッション専門学校生がデザイナーを希望する。誰が見ても狭き門だ。
なので現実的な進路先はお店でお客さんに接客をする『販売スタッフ』として働くこと。

僕もそんな厳しい現実は早い段階から気づいていた。

校舎の自動ドアが開いて、近くのコンビニから帰って来たクラスメイトのグループがレジ袋をシャカシャカ鳴らしながら通っていく。
僕はみんなのレジ袋から視線を遠藤さんに戻した。

「デザイナー職をメインに就職活動を始めないといけないなぁと思ってます。それと同時進行で販売職でもエントリーします。」

そう言って自分の理想と妥協を模範解答のように答えた。
今の正直な気持ちだ。

でもその後、誰かに突然操られたように無意識で付け足した。

「あとは、まぁイギリスに留学したいなぁとかも思ったりしてます。」

突然に出た答えだった。自分でも数秒前はそんなことを口にするつもりなんて一切無かった。
ただ、もともと漠然と海外に行きたいなぁと思っていたし、海外で暮らす経験ができたら映画みたいで素敵だなと思ったいた。
でもそれだけだった。

口が滑ったように答えていた。自分で自分の発言に驚いている。

ひとつ理由に付け加えるとすれば、今、目の前にいる遠藤さんはイギリス留学から帰国して学校のスタッフになった人だった。

そんな記憶や希望がシンクロして、自分の思考より先に口が勝手に動いたと思うぐらい無意識の発言だった。
不思議で気持ち悪く感じたが、僕はむしろ早く進路相談を終わらせて昼休みに戻りたかった。


「おっ!なら行ったらいいじゃん!ロンドン。」

遠藤さんの声のトーンが明らかに上がった。

「えっ!?」

僕は遠藤さんの予想外な反応にビックリした。正直、ふざけている僕に対して遠藤さんは怒ると思っていたし、そうでなくも軽く話を流されると思ったいた。
思いつきのような僕の無責任な発言は思いも寄らぬ方向へ進み始めた。


続く。。。

最後までお読み頂きありがとうございます。
「スキ」や「コメント」など頂けますと執筆の励みになります。

フォローをして頂けますと、更新時に見逃さずに読んで頂けます。ぜひフォローをよろしくお願いいたします。

またツイッターのフォローもよろしくお願いします。


https://twitter.com/hieisakurai

この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


「お礼を言うこと」しかできませんが、サポートもぜひよろしくお願い致します! 今後の執筆時のリサーチ予算として利用させて頂きます。