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#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.2


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#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.2


僕の頭の中は数十秒前には全く予想していなかった展開となり完全にパニックになっている。
と同時に、何か今、人生の向かうべき道がグイッと大きな力で曲げられた気がした。

そもそもイギリス留学なんて数百万円単位でお金がいるだろうし、今いる専門学校だって安くはない。これ以上の学費を親に頼めるわけがない。


「でも留学費などのお金があるわけではないし。。。」

僕はテンションが少し上がった遠藤さんをクールダウンさせるように付け足した。
何だか急にイギリスへ行く方向へ話が進んでいるけれど、 ”ちょっと待て!” と細胞レベルでブレーキをかけている状態だった。

“行けばいいじゃん!” ってそんな軽々しく言うなよ。。。と遠藤さんへの不信感もあった。


「お金なんて20万あればそれで大丈夫!1年くらい余裕だよ!」

「はっ!?20万?それだけ?」

耳を疑う金額に今度は僕の話すトーンが高くなった。もちろん理解できない。

「そう、20万円。格安でやっているロンドンの語学学校に申込すればいいの。そうすればイギリスのビザが取れるから。簡単、簡単。」※1


「1年で20万!?安過ぎでしょ?しかも語学学校に入学するだけでビザも取れるんですか?」

もうここからは自分の理解の範囲を超えていた。

イギリス留学経験のある遠藤さんにとっては当たり前の感覚だったようで、僕の驚く反応にキョトンとしていた。
フと壁にかけられている時計を見ると午後1時を過ぎ、昼の授業が始まっている時間だった。
文字盤のそれぞれの文字の大きさにバラつきがあり、やたらとデザイン性を重視した時計がデザインの専門学校ぽいなと時間を確認する度に感じていた。

「でも生活費とか、いろいろかかりますよね?」

僕は一旦冷静になって不安材料を頭の中で整理した。
その時に真っ先に出てきた答えが毎日の生活費だった。いくら20万円を用意したところでイギリスでの生活ができる訳ではない。 ”ほらみろ!イギリス留学なんてそんなに簡単じゃないんだ。”と自分に言い聞かせていた。

すると遠藤さんは僕の質問にも即答だった。

「イギリスでバイトすればいいじゃん!アルバイトができるビザだし、みんなバイトしながら生活しているよ。」※2

「バイトかぁ。。簡単に見つかるもんなんですか!?」

ダメだ!僕の気持ちが徐々にイギリスへと傾いていることが分かった。
最初はイギリスに行けない理由を探していたのに、今はすっかりイギリスの行くことが可能かどうかの考え方に変わってしまっている。

「選ばなければ誰でもバイトは見つかるよ。日本人なら日本食レストランで働く人も多いし。谷山くん、もしイギリス留学するなら何でも相談乗るよ。」

“相談乗るよ” の最後の一言が僕の中でイギリス行きへの考えが固まった気がした。
よく「チャンスは突然やってくる」ような話をたくさんの自己啓発本で読んだことがあるが、まさに僕のチャンスは今このタイミングなんだと思った。

興奮気味の気持ちを遠藤さんに気づけれないように押し殺しつつ、僕は答えた。

「じゃー、イギリス留学する方向で自分の進路進めます。」

さっきまでクラスの友達とお昼ご飯を食べ、締め切りが近い課題の話などをしていた。
その時は自分がイギリス留学をすると決意することも、自分がイギリスに行きたいと思っていたことも自分自身で気づいていなかった。

でも、僕は今決めたんだ。1年後に専門学校を卒業したらイギリス留学をする。
そう決めた途端、自分の未来が希望に満ち溢れたものに感じた。

貯金、手続き、渡英の準備。。。やることは山ほどあるだろうけれど、今は全てがワクワクしながら進められる気がした。

僕はすでに始まっている昼の授業に参加するために足早に教室へと向かった。
授業はみんな課題に向けた作業をしており、自由に会話しながらミシンを踏む音が至るところから聞こえてくる。

「決めた!僕、イギリス留学することにした!」

自分の席に戻るなり、周りのクラスメイトにそう伝えた。
「マジで!」「すごい!」「えー大変そう」みんなの反応を適当に応対しつつ、自分の課題を進めるためミシンの準備に取りかかった。

続く


※1
10年以上前はイギリスにある格安語学学校と呼ばれる学校に通うことで学生ビザを発行してもらうことができました。
語学学校の質や値段は様々で、1年間の授業料が20万円前後などの安価なところも多数あり、中には年間6〜8万円の破格で運営している語学学校も存在。
現在はルールが変わり、格安語学学校に入学手続きをしても自動的に学生ビザを発行してもらうことができなくなっています。


※2
当時の学生ビザは週に40時間以内であればアルバイトなどの仕事に就くことが可能でした。
語学学校は1日3時間程度しかないので、その他の時間にアルバイトする生活が一般的でした。

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この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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桜井飛英
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