【児童文学評論】 No.298 2022/12/31

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◆ぼちぼち便り◆ *作品の結末まで書かれています。

12月の読書会は毎年絵本を取り上げます。今年は、『おひさまわらった』 (きくちちき/作 JULA出版局 2021年3月)を課題本に選びました。子どもが散歩に出かけて虫や花やチョウに出会い、土の中にいるムカデなどを怖いと感じて逃げて森の中に入り、大きな木に出会って木の上にいる鳥と目をあわせ、風と手をつなぎ、次に散歩で出会ったすべての者と手をつなぎます。するとおひさまが笑い、みんなも笑います。

参加者は事前に『おひさまわらった』とそれ以外のきくちちき作品を読んできていましたが、最初に私が『おひさまわらった』を全員の前で読みました。そして、カバーをめくって、カバーと表紙の絵が異なること、テントウムシが最初と最後にいて、子どもとともに、テントウムシがこの作品の誘い役であること、紙質や装丁など、凝りに凝っていて、「なぜ、絵本は紙なのか?」という問いへの一つの答えになり得る本だと思って選んだことなどを伝えました。そして、そのあと、感想を述べあいました。

まずは、絵について多くの人が語りました。絵が好き。版画に惹きつけられた。絵に圧倒された。力強さを感じる。躍動感があって元気。ダイナミックでエネルギーを感じる。かすれが故意に作られて美しい。写真で一瞬を切り取ったような動きを感じる。正確な描写というよりイメージが豊かな絵。のびのびしている。子どもがかわいすぎないところがいいと思った。ユニセックスに思えた。風など、聞こえないもの、見えないものが表現されている。離れて見てみると美しい。青、黄色、赤などカラフルだが、鮮やかというよりは落ち着きがあって、土の匂いがする。色の数は少ないが色からも動きを感じる。色の変化で心が動かされる。木のシルエットが何かが起こるという不安と期待を抱かせ、青と黄によって心が躍る。おひさまが笑った次のページが黄色を帯びていて幸せいっぱいな感じが伝わってきた。これまでに出て来た生き物が全員集合していてうれしくなった。このページが好きで、感覚的に心地よい。裏表紙にちょうちょがいて、余韻を残して終わっている、などがありました。

また、構図やページをめくる変化にかかわる発言も多くありました。ページのめくりに工夫があって、作品世界に引きずり込まれる。花の場面で目を見張ったが、そこからずっと目が離せない感じで、ずっと花火を見ているようなどきどき感があってクライマックスも心が躍った。大きさや構図の変化が読者を惹きつける。扉の左のテントウムシから子どもの視点になり、虫や花が描かれ、地面の虫たちが描かれる。視線がどんどん下になり、そこから、木や鳥が出てくることで、視線がぐっと上がる。この変化がおもしろい。鳥の部分は、鳥の視点なのか、子どもの想像の視点なのか、俯瞰した視点になっていて、空が大きくて子どもが小さく見える。鳥には小さいのから大きいのまでいる。このような変化によって、ページが大きく見え、ページに描かれている以上の空間を想像してしまう、などです。

ことばについては、詩のようなことばで、「ぴょんぴょん」など、オノマトペがリズミカルで、子どもの散歩が続いていく感じがする。「はなしてる」のように、動詞に「い」がなくて、臨場感がある。カエルに誘われた土の場面で「みたくないけど めがひっぱられる」という表現がユーモラスで、共感した、などが語られ、私の方から文字数や位置についても工夫されていて、文字も視覚的な要素がとても大切にされていることを発言しました。

この絵本の自然観についても、生きとし生けるものすべてを包む。私たちは風やおひさまに見守られて生き物とつながって生きているというメッセージが伝わった。子どもも自然の一部だと思った。生き物への愛情が絵から伝わる。自然賛歌だと思った。土の場面があることで、怖さやいわゆる「美しい」だけではない自然が描かれていると思った。つながった場面では、ムカデなど、子どもが怖いと思っていたものもいっしょにつながっているところがよかった。北海道出身の著者ならではのおひさまに対する思いが感じられる、などが語られました。

マリー・ホール・エッツの『もりのなか』や『わたしとあそんで』(ともに福音館書店)を思い出したという人やあべ弘士の絵本を思い出した人もいました。また、他のきくちちき作品を読んで、自然や一人遊びの世界や父と子という内容が共通している。『ゆき』(ほるぷ出版 2015年11月)や『もみじのてがみ』(小
峰書店 2018年10月)が美しかった。『ともだちのいろ』(小峰書店 2021年9月)は登場人物が体で喜びを表現していて『おひさまわらった』と共通している。『こうまくん』(大日本図書 2016年3月)は、同じことばが重ねられていて心地いい。『でんしゃくるかな?』(福音館書店 2021年2月)は小学1年生の孫が喜び、その弟は、読むごとに、バンザーイと身体で表現して楽しんでいた、などの発言がありました。

最後は参加者の有志によるリコーダーと電子ピアノのミニコンサートがあり、一年を終えました。今年も一年お世話になりました。来年がみなさまにとってよい年になりますように。読んでくださってありがとうございました。(土居 安子)

<財団からのお知らせ>
●講演会の報告集を販売しています
『2021年度国際交流事業報告集 オンライン国際講演会「ことばを超えて
 ?絵で物語る?」』(講師:デイヴィッド・ウィーズナー、ショーン・タン)
 2022年10月発行 1,100円(税込)
『2021年度講演会報告集「シンデレラ話の多様な世界を楽しもう」』
 (講師:横川寿美子) 2022年6月発行 880円(税込)
『2020年度講演会報告集「しかけ絵本に驚く、楽しむ イギリスの歴史から
 はじめて」』(講師:三宅興子) 2022年3月発行 1,430円
詳細、その他の出版物は ↓
http://www.iiclo.or.jp/06_res-pub/05_publication/index.html#hanbai

● 寄付金を募集しています
当財団の運営を応援いただける個人、法人の皆さまからのご寄付を募ってい
ます。寄付金は、当財団が行う講座・講演会など、さまざまな事業経費に充て
させていただきます。ぜひ、ご協力いただきますようお願いします。
*年間1万円以上ご寄付いただいた方には、イイクロちゃんグッズをプレゼ
ントしています。
※詳細は → http://www.iiclo.or.jp/donation_10th.html
※Syncable → https://syncable.biz/associate/19800701/

● YouTube「大阪国際児童文学振興財団 公式チャンネル IICLO」
 https://www.youtube.com/channel/UCgPj7D2ReQ0J03zhMMLfuIA
公開内容一覧は
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● 当財団公式 Twitter
https://twitter.com/IICLO_News

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スペイン語圏の子どもの本から(46)
今回は、アルゼンチン出身で現在メキシコに住む詩人ホルヘ・ルハンが文章を書いた絵本をご紹介します。

『ふゆのゆうがた』(ホルヘ・ルハン文 マンダナ・サダト絵 谷川俊太郎訳 講談社 2009.12)
冬の夕方、女の子は一人でママの帰りを待っています。曇った窓ガラスを指でこすってお月さまの形の窓をあけて外を見ていると、やがてそのお月さまのなかにママが見えてきます。だんだんとママが近づいてきて、最初のお月さまには入らなくなって、女の子はどんどんお月さまを大きくしていって……。
イランとベルギーにルーツを持ち、フランスに住む画家マンダナ・サダトが、留守番の心細さ、ママが見えたうれしさ、ママが帰ってきた喜びなど、簡潔な言葉で表された感情を、大胆な構図と、色や形で豊かに広げて表現しています。女の子の心の変化とともに、色づかいが鮮やかにあたたかく変わっていくのにも注目です。
絵でしか表せない語り、絵から広がる空想が楽しい、この季節になるととりだしたくなる1冊です。
この絵本、日本語版はもう手に入らないようですが、最近スペイン語版を改めて手にして、紹介してみたくなりました。図書館でぜひ探してみてください。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000208557

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イベントのお知らせです。
第5回 JBBY子どもの本の翻訳フォーラム「昔話を訳す楽しみ」
日時:2023年1月29日(日)14:00~16:30(開場15分前)
場所:オンライン(Zoom)
パネリスト(敬称略):愛甲恵子(ペルシャ語翻訳家)/かみやにじ(韓国語翻訳家)/木村有子(チェコ語翻訳家)/さくまゆみこ(英語翻訳家)/柴 なほ(ハンガリー文学研究者)/長野 徹(イタリア語翻訳家)
コーディネーター:堀内まゆみ(元岩波書店編集者)
参加費:1100円
詳細・お申し込みはこちらから 
https://jbbyonline033.peatix.com

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執筆陣に加えていただいてから、今年初めて1月から12月まで休まず書くことができました! 読んでくださったみなさま、ありがとうございました。また、10月から3か月間、国際子ども図書館で展示会「スペイン語でつながる子どもの本―スペインと中南米から」が開催され、多くの方にスペイン語圏の子どもの本を見ていただけたのはうれしいことでした。行けなかった方も、以下のリンクから展示図書リストをダウンロードできますので、参考にしていただければ。
https://www.kodomo.go.jp/event/exhibition/tenji2022-03.html
それでは、よいお年をお迎えください。来年もどうぞよろしくお願いします。
(宇野和美)

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三辺律子です。 

 毎年毎年、「えっ、もう今年も終わるの!?」と驚ける。年末恒例といえば、今年のベスト本。日記とか家計簿とかそういうのはすべて苦手なのだけど、あまりに忘れるので、数年前から読書記録と映画記録だけはつけるようになった。といっても、アプリにバーコードを読みこませるだけで、感想も書いていないけど(来年はひと言でも書けるようにしたい)。
 それをパラパラ(いや、スクロールだから、シュッシュッか)めくってみて、わたし個人が今年面白いと思った作品にはSFやSFテイストのものが多いことに気づいた。ケン・リュウや『三体』から始まった中国SF好きは今年も止まらず、『中国女性SF作家アンソロジー 走る赤』(武 甜静・橋本 輝幸編、大恵和実編/訳)がよかった! ゲーム内の女性を助けようとする表題作や、家でおかしな実験をしている祖母を描く「祖母の家の夏」、少数言語を守るための機械翻訳開発から一人の女性の背景が浮かびあがる「語膜」など、興味深い設定とテーマの物語がたくさん。
『その昔、N市では』(マリー・ルイーゼ・カシュニッツ著、酒寄進一訳)は、SFというより幻想文学に近いかもしれないけど、死体から蘇生させられた〈灰色の者〉が、市の清掃や介護を担っている世界を描いた表題作とか、旅行から帰ってきたら、あなたが死んだと触れ回っていた女がいたと聞かされる「六月半ばの真昼どき」など、SF的発想の光る短編がいい。
9都市9名の作家が参加する“奇跡の”アンソロジーが『絶縁』。若者のあいだで「無」がブームになり、世界各地に「無街」と呼ばれる拠点がつくられ――という世界を描いた村田紗耶香の「無」や、なんでもポジティブに‼が合言葉の世界の不気味さを描いたハオ・ジンファンの「ポジティブレンガ」(大久保洋子訳)などSFふうの作品を含め、さまざまなテイストの作品が楽しめる。韓国、タイ、台湾、香港、チベット、日本……舞台はいろいろだけれど、ほぼどの作品にも中国の影を感じるのが、現代アジアを表していると思った。また、パンデミックや雨傘デモなど、まさに今のテーマがひるむことなく取り入れられているのも、特徴。
日本の作家による作品でも(ぜんぶが今年出版というわけでなく、今年読んだ作品も多く含まれています)、「植物」を題材とした短編集『植物忌』(星野智幸)(植物を頭皮に植えるのが流行し、やがて植物化していく人間たちを描いた「スキン・プランツ」とか最高)や、こんな奇想に満ちたSFははじめて!と叫んでしまった『皆勤の徒』(酉島伝法)、プーニーという謎の生物が到来した世界を描いた『滅びの園』(恒川光太郎)、男女が違う言葉を学ぶ架空の島を舞台にした芥川賞受賞作品『彼岸花が咲く島』(李琴峰)などが、SF/SF的で面白かった!
中でも最高だったのが、『まず牛を球とします。』(柞刈湯葉)。動物を殺して食べることに違和感を持つようになった人類は、「牛を球」にする方法を発明。って書いたって何のことやらだと思うので、ぜひ本書を読んでみてほしい! 他の短編もそれぞれ味わい深く、作者の考えや人柄が見え隠れするような“気がする”ところも好き。
SFといえば、『華氏451度』(レイ・ブラットベリ)を再読したら、思っていたよりずっと現代的で、今読まれるべきテーマだとつくづく。ニノによる映画化で売れた『ロボット・イン・ザ・ガーデン』シリーズ(デボラ インストール著、松原葉子訳)も面白いけど、こうした設定とテーマの作品は児童書・YAにはたくさんあるなと思う。『ロボット・イン・ザ・ガーデン』を気に入った人は、児童書やYAも読んでみて!と言いたい!
あとは、SFではないけれど、東アジアを連想させる架空の地を舞台にした『塩を運命の皇后』(ニー・ヴォ、金子ゆき子訳)と、中世のルーシ(現在のキーウとその周辺)を舞台にした『熊と小夜鳴鳥』(キャサリン・アーデン、金原瑞人訳)が、ファンタジーとしてひさびさの個人的大ヒットだった。この二作については、来年の1月8日に出る朝日中高生新聞に書いているので、ぜひぜひお読みください。
あとは、やはり『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)、『夕暮れに夜明けの歌を』(奈倉有里)といったロシア関連の書籍、移民・難民がテーマになっている『スモモの木の啓示』(ショクーフェ・アーザル著、堤幸訳)、『帰りたい』(カミーラ・シャムジー、 金原瑞人他訳)(白水社のエクス・リブリスってどうしてぜんぶ面白いの⁉)、『よい移民 現代イギリスを生きる21人の物語』(ニケシュ・シュクラ編、栢木清吾 訳)、金井真紀さんの『戦争とバスタオル』と『聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』と『日本に住んでる世界のひと』などに惹かれた。中島京子さんの『やさしい猫』も再読、大学の授業の課題本にしたら、とてもいいエッセイがたくさん集まった。
以上、今年出版でない本も数冊含まれていますが、わたしが2022年に読んだベスト本たちです。まだまだ紹介したい本もたくさんあるのですが! 最近、面白かった本を人にも紹介したい熱がますます高まっているので、どこか書評をさせてくれるところ絶賛募集中。では、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

〈ひと言映画紹介〉
 2022年お勧め本を書いたら力尽きたので(それに時間もぎりぎり……もう31日も半分過ぎそう)、映画紹介はタイトルだけ(すみません)。
印象に残ったのが、『フラッグ・デイ』、『アフター・ヤン』『あのこと』『チーム・ジンバブエノソムリエたち』。1月27日から上映する『イニシェリン島の精霊』は、マーティン・マクドナー監督脚本。登場人物全員少しずつ狂ってる、というところがいかにもマクドナーぽくて、よかった!

*以下、ひこです。
【絵本】
『パライパンマンマ』(イ・ジウン:作・絵 申明浩&広松由希子:訳 ポプラ社)
 小さな魔手マロンたちの村に突如、黒くておおきなモジャモジャした生き物が現れます。食べられると思ったマシュマロンたちは攻撃します。絶対に悪者だと疑わない彼らの中で一人、そうではないのではと思ったマシュマロンが近づいてみると……。排除するのではなく、まず理解すること。それが大事。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/2730070.html

『おうちすいえいたいかい』(二宮由紀子:文 青山友美:絵 文研出版)
 家にあるいろいろな道具の水泳大会です。1レーンは、おそうじチーム、2レーンは、あそびチーム、3レーンは、おふろチーム、4レーンは、たべものチーム。最初の背泳ぎは、そうじきと、ミニカーと、シャンプーと、カップ入りのなっとう選手だ。
 ああ、なにがなんだかわからない。おもろい。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784580824706

『ねずみくん だーれだ?』(なかえよしを:作 上野紀子:絵 ポプラ社)
 あそびをテーマにしたねずみくんシリーズの最新作です。
ねずみくんに、後ろから目隠しをして、「だーれだ?」。
 ねずみくんは、ぞうさん、おさるさん、あひるさんなど、わからない。悔しくて今度は自分がねみちゃんに「だーれだ?」をしますが、すぐに見破られてしまいます。
 仲良し二人はいいですねえ。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/2380039.html

『こぎつねの とくべつなクリスマス』(ポリー・フェイバー:さく リチャード・ジョーンズ:え ひびのさほ:やく 岩崎書店)
 こぎつねはさみしいひとりぼっち。雪の下に、暖かな家を発見します。そこはそろいひげのおじいさんが住んでいました。暖炉の前には、赤い服が干してあります。こぎつねには彼がだれかはわかりませんが、読者の子どもにはわかりますから、大喜びでしょう。それから、おじいさんの仕事が徐々にわかってきます。
 ほんわかクリスマス絵本です。
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b612224.html

『ねことワルツを』(フジコ・ヘミング:絵 石津ちひろ:文 福音館書店)
 フジコ・ヘミングが描く、愛おしい猫たちの姿に寄り添うように、石津の詩が心地よいリズムを刻みます。猫と、言葉遊びが、じゃれあっているかのよう。
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=7127

『あなたがおなかのなかにいたとき』(せきやゆうこ:文 嶽まいこ:絵 アリス館)
 赤ちゃんが生れるまでの10ヶ月、どうしているかを、詳しく描いています。月ごとの胎児の大きさを果物や野菜で示して、実感を持たせるのがおもしろいですね。
http://www.alicekan.com/books/post_280.html

『あのこがすき おとなになるゆうき』(安藤由紀:作・絵 岩崎書店)
 性の話を、臆することなく、はっきりと真剣に子どもと向き合って語るので、とてもさわやかです。もちろんそれは一人だけの話ではなく、相手のあることなので、互いの気持ちを思いやる大切さも触れられています。異性愛者が性交をして、赤ん坊が生まれるまでを描きます。
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b613728.html

『おばけのしかえし』(内田麟太郎:文 山本孝:絵 岩崎書店)
 『おばけのきもだめし』の2作目です。
 おばけたちを退治しようと豪傑がやってきます。おとなのおばけたちが反撃しますが、かないません。そして……。
 怖がらせるはずのおばけが怖がりながらも、一生懸命なのがかわいいシリーズ。早くも次作が楽しみです。
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b613723.html

『かえりみちとっとこ』(ひろまつゆきこ:文 こやまともこ:絵 岩崎書店)
 黄昏の帰り道。くまくんはとっとことっとこ歩きます。うしろにオオカミが忍び寄ってくる。こわいこわい。でも、もっと大きな生き物がオオカミをやっつけてくれたはいいけれど、このおおきな影もこわい、こわい。でも、それはおとうさんくまでした。
 こわかったからこそ、ほっとうれしいくまくんが、かわいいですね。
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b613733.html

『いつもクリスマス』(デシレエ・アセベド:文 サラ・サンチョス:絵 とどろきしずか:訳 光村教育図書)
 ある日、子ウサギのペピンが起きると、両親は大忙し。たくさんのお客様が来るからです。ペピンは不思議でなりません。どうして、みんなが集まって、プレゼントがもらえて、美味しいものを食べて、仲良くニコニコするんだろう? それはクリスマスだから。そこでペピンは思います。だったら……。あ~かわいい。ペピンの言う通り。
https://mitsumura-kyouiku.co.jp/ehon/281.html

『化石のよぶ声がきこえる』(ヘレイン・ベッカー:作 サンドラ・デュメイ:絵 木村由莉:訳・監修 くもん出版)
 恐竜化石ハンターのウェンディ・スロボーダの伝記絵本です。こどもの頃、化石に出逢い、それからは化石を探し続ける日々。その好奇心の塊が、こちらにも迫ってきます。彼女の名前を冠した恐竜もいるそうです。
途中に折り込みページもあり、開くと化石の断面が見られる仕組み。これが楽しいです。
最後に、古生物学者の木村由莉さんと佐藤たまきさんの対談もあります。
https://www.kumonshuppan.com/ehon/ehon-syousai/?code=29567

『山の上に貝がらがあるのはなぜ? はじめての地質学』(アレックス・ノゲス:文 ミレン・アシアイン=ロラ:絵 宇野和美:訳 岩崎書店)
 地質学を、カキの化石を中心に詳しく解説しています。一つ中心を置くことでそれぞれの時代の地層がイメージしやすいです。そして、絵が美しい。斎籐幸平の本で有名になった「人新世」は出てきませんけれど。
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b593344.html

『おにのパンツのそのあとは…』(志村まゆみ:作・絵 新日本出版)
フニクリフニクラの替え歌「おにのパンツ」から生まれた絵本です。丈夫な虎皮のパンツと歌っているのですが、一人のおにの子どものパンツが破れてしまいました。それで虎の所へ行って皮を所望するところがおもしろい。そない言われても虎も困る。そこで裁縫してあげることに。かわいい。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784406066976

『いちごハウスのおくりもの』(村中李衣:作 えがらしみちこ:絵 世界文化社)
 ひまりは祖父母のいちごハウスでお手伝い。余分な葉っぱを取って地面に陽射しを与えます。ハチも受粉の手伝いをしますが、ひまりの友達が怖がって帰ってしまいました。怒ったひまりはお手伝いをやめますが……。
 いちごって、あのツブツブが果実で、赤い部分は茎の先なんですって。知らなかった。
 人もいちごもハチも、命の一つであることを描きます。
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/22807.html

『いまがいい』(たかだしんいち 文研出版)
 やりたいこと、お手伝いしたいこと、なんで、両親は大人になってからっていいます。コブタの女の子はそれが不満。やりたいのは今なの! この気持ちわかりますね。
 子どもに寄り添った絵本です。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784580825475

『アグネスさんとわたし』(ジュリー・フレット:作 横山和江:訳 岩波書店)
 『わたしたちだけのときは』の絵を担当した作者による美しい絵本です。
 母親と二人で引っ越してきた女の子と、隣に住む老いた芸術家のアグネスさんの交流を描きます。季節の変化の中で少しずつ親交を深めていく二人。信頼し合い、心を交わし、助け合う。そのなんと温かなこと。絵もお話もみんな美しいんです。
https://www.iwanami.co.jp/book/b616717.html

『色とりどりのぼくのつめ』(アリシア・アコスタ:文 ルイス・アマヴィスカ:文 ガスティ:絵 石井睦美:訳 光村教育図書)
 ぼくはマニキュアが大好き。色んな色がワクワクさせてくれる。ところが学校にマニキュアをしていくと女みたいだと男の子からからかわれる。それでもう学校にはしていかないと決めたけれど、学校まで送ってくれるパパがマニキュアをし始めて……。
 好きなことをして、文句を言われる筋合いはないもんね。誰だって、好みはあるんだから。
 パパがサポートしてくれるのは、いい家族だなあ。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784895721349

『ぼくがかわりにとどけるよ』(そのだえり ぶんけい)
 大きいくまの配達屋さんでは届けられない小さなお家。小さなねずみのドッチが手伝うことに。結婚指輪を忘れたヤギさんへ届けますが間に合うか? ドッチ大活躍! 楽しいコンビの登場ですね。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784799904695

『あしたの動物園 熊本市動植物園のおはなし』(野坂悦子:作 いたやさとし:画 玉川大学出版部)
 熊本大地震の被害にあった動物園の物語です。いっとき動物たちを別の動物園に避難させたり、壊れた設備を直したり、「ふれあい動物園」をしてみたり、職員の奮闘振りが描かれます。ライオンは、預けられた別の動物園でお相手ができ、一緒に戻ってきて、次の年赤ちゃんが生まれたと言うエピソードは微笑ましいですね。
http://www.tamagawa-up.jp/book/b616985.html

『いえのなかの ぼやき妖怪ずかん』(西武アキラ:絵 こざきゆう:文 矢野貴寿:原案・文 ポプラ社)
 この時期には読まない方がいい絵本です。分類には、「つかいっぱなし目・ソノママナノ科」とか「よごれ目・イエジュウデル科」なんてのが出てくるからです。わたしの家なんか、ぼやき妖怪だらけです。あ~、やだやだ。幸いなことに、ここには、「つんどく目・いつよむねん科」はありませんでしたけど。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/2900463.html

『ようこそ!わたしの町へ 家をはなれてきた人たちと』(ミアリー・ホワイトヒル&ジェニファー・ジャクソン:文 ノマー・ペレズ:絵 上田勢子&堀切リエ:訳 子どもの未来社)
 言葉も文化も違う者同士であっても、それはそれぞれのスタイルだと考えれば受け入れられる。互いに違和感はあっていい。違和感があるのは、基本的なことであって、そこで緊張すると心も体も閉じてしまう。そうではなく、違和感を抱いたまま、好奇心を発動させればいい。耳を傾けること、率直に語ること。
 それを考えさせてくれる絵本です。
http://comirai.shop12.makeshop.jp/shopdetail/000000000305/

『はなになりました』(内田麟太郎:文 南塚直子:絵 童心社)
 だれをすきって聞いて、相手から、君だと言われたら、それは笑顔になりますよ。そんな笑顔を届けてくれる絵本です。
https://www.doshinsha.co.jp/search/info.php?isbn=9784494016402

『よあけ』(あべ弘士 偕成社)
 毛皮を町に売りに行くために原生林の中を流れる川を下る、老人とその孫。途中、神に祈る場所で、少年は老人から、自然の中での動物と人間の関わりを聞きます。
 ささやかな物語ですが、人と自然のありようを、感動的に描いています。よあけが美しい。
https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784033521206

『「はやく」と「ゆっくり」』(張輝誠:文 許匡匡:絵 一青妙:訳 光村教育図書)
 パパとママはいつもぼくに「はやく、はやく」という。田舎のおじいちゃんとおばあちゃんは「ゆっくり、ゆっくり」という。どっちが正しいのか、ぼくは迷って、困ってしまう。
 ぼくが自分のリズムを見つけるまでを描きます。そうだよね。人に言われるんじゃなく、自分のリズムが一番いいよね。
https://mitsumura-kyouiku.co.jp/ehon/271.html

『のせのせ せーの』(斉藤倫&うきまる:文 くのまり:絵 ブロンズ新社)
 右ページにある何かが、ページを繰ると左ページの人や物にプリントされて、出来事が起こる。蝶々は、三つ編み少女のリボンになるという風に。
 絵本の機能を上手く生かした秀作です。なにしろわくわく楽しいもんね。
https://www.bronze.co.jp/books/9784893097057/

【児童書】
『車のいろは空のいろ ゆめでもいい』(あまんきみこ:作 黒井健:絵 ポプラ社)
 22年ぶりの新作です。松井五郎さん、今日もタクシーを走らせています。書き下ろし4編を含む9編のお話。現実と不思議が、なんの違和感もなく溶け合う世界は健在で、日常の退屈さに優しい光と潤いを与えてくれます。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/4164004.html

『わたしたちの歌をうたって』(堀直子 文研出版)
 なずなは小学五年生。あることがきっかけで、作文が苦手です。転校生があって、名前は詩音。彼女は自己紹介の時、黒板に短歌を書きます。驚くクラスのみんな。なずなと詩音は仲良くなり、短歌を教えてもらったりするのですが、詩音は新しい父親になじめず、祖母の家に住んでいることがわかります。互いの抱えている悩みを克服していく物語です。
https://www.shinko-keirin.co.jp/bunken/book/9784580825499/

『ピースがうちにやってきた』(村上しいこ:文 相野谷由起:絵 さ・え・ら書房)
 サチの母親が子ネコを拾います。かわいいけれど、すでに飼っているみけがショックを受けるかと心配。子ネコを抱いている母親。サチは母親に抱きしめてもらったことがありません。母親は心の病でサチを抱くと不安になるのです。だからサチはがまんをしていますし、それを表に出しません。
父親は子ネコを飼うことに反対しますが、母親はピースと名付けてかわいがります。家の中は少し不穏になってきます。
 学校では、サチへのいじめが始まります。言われないらくがきやごみなどが机の中にいれられるのです。親友のしおりと、何処吹く風とばかりにやり過ごしてはいますが、心穏やかとは行きません。
 サチが、堂々と自分の気持ちをクラスの面々にも両親にも言うことで、誤解や、気遣いのためによどんだ空気が吹き飛ばされていくのにほっとします。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784378015613

『妖怪コンビニ2 化けねこ店長VSコンビニ害獣』(令丈ヒロ子 トミイマサコ:絵 あすなろ書房)
 人外のためのコンビニシリーズ2巻目です。
 人間なのに何故か妖怪コンビニに入ることができるアサギは、前作で素敵なスィーツメニューを考えたりしましたが、今回は幽霊の少女、ゆうちゃんが登場します。
 彼女はアサギになつくのですが、一緒に住めないとわかると……。
ゆうちゃんを守ろうとするアサギの必死さがいいです。
 レギュラー陣もそろってきましたね。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784751531358

『保健室には魔女が必要』(石川宏千花 偕成社)
 新シリーズです。
 中学の保健室の養護教諭が魔女という、生徒との絶妙の距離感を設定したのは見事ですね。魔女は七魔女決定戦で最後の席を争っていて、よりおおくのおまじないを人間界に広めた者が勝者となります。主人公の弓浜先生は、生徒たちの悩み相談で、おまじないを伝授するわけです。もちろん、おまじないは魔法ではありませんから、効果のほどはおまじないを必要としている生徒しだいとなります。気づきですね。
 弓浜先生は完璧な解決を目指しません。生徒たちには未来がありますから、それは彼らにまかせればいいのです。
 ところで、保健室の先生ってほとんどが女性だと思います。男性も欲しいなあ。思春期に男の子が抱えている悩みも、それからの人生を形作りますから、相談に乗れる人が欲しい。
https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784036492107

『箱船に8時集合!』(ウルリヒ・フーブ:作 イョルク・ミューレ:絵 木本栄:訳 岩波書店)
 ハトがペンギンの所にやってきて、箱船に2羽乗り込むように命令します。でも彼らは3匹の仲間なので、チビペンギンはスーツケースに入れて、なんとか乗り込むのですが……。
 おもしろおかしく、哲学的で、性の多様性もあって、楽しめます。会話のセンスがいいですね。100ページと短いので、気軽に読めますよ。ミューレのとぼけた絵も注目。
https://www.iwanami.co.jp/book/b615158.html

『ベランダのあの子』(四月猫あらし 小峰書店)
 小学六年生の颯は、父親から暴力をふるわれています。自分をサバイブするために、悪いのは自分だと、内面化してしまう颯。向かいのマンションのベランダに颯は、母親に虐待されている少女を発見します。あの子が悪い子だからそうされているんだと思う颯でしたが、やがてその気持ちと向き合うことにより……。
 重いテーマですが、希望の光はあります。そこがこの作品の良さであり、限界でもあります。
 来年の新人賞は、この作品にあげてください。
https://www.komineshoten.co.jp/search/info.php?isbn=9784338287265

『ジャングルジム』(岩瀬成子:作 網中いづる:絵 ゴブリン書房)
 短編集です。
 離婚や死別や、様々な家庭環境にある子どもたちの、ここで生きるしかない覚悟がほの見えます。それは、岩瀬の子どもを信じるまなざしでもあるでしょう。
http://www.goblin-shobo.co.jp/books/book043.html

『やくやもしおの百人一首』(久保田香里 くもん出版)
 村の資料館に収蔵されている百人一首。定家の歌の上の句が、どこか行きたいところがあると言って消えてしまった。このままでは、学芸員の凪さんに迷惑がかかる。下の句は意を決して上の句を探しに出かけると、たどり着いたのは定家が生きている時代。しかも女の子の姿になっていて、下の句は定家に弟子入りをする。まだ百人一首を編んでいない定家の。
 もう、続きを読むしかないでしょ。
 百人一首の歌が色々出てきます。
https://www.kumonshuppan.com/ehon/ehon-syousai/?code=34632

【その他】
『イノチノウチガワ』(ヤン・パウル・スクッテン:文 アリー・ファン・ト・リート:写真 野坂悦子・薬袋洋子:訳 今泉忠明:監修 実業之日本社)
 一般書として出版されていますが、オランダの児童書です。
 生物の清明なX線写真と、個々の生物に関する、ユーモアたっぷりかつ知識豊富な解説で構成されています。様々な生物のX線写真とこれほど集めた本は見たことがありません。そこに浮かび上がるのは生命の不思議と力強さです。眺めていて飽きません。
https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-65016-6

『たんぽぽ ぽぽぽ』(内田麟太郎:詩 井上コトリ:絵 銀の鈴社)
 「ひみつ」。
だあれもいないから
 ソラマメが
空と
 はなしをしている 

――おとうさん。

といったおもしろい詩から、

「やあ」。
 ひとに会いにゆく
――やあ。
――やあ。

 敵をたおしにゆく
 銃声がひびき
 敵がたおれる
 ひとの子がたおれる
 ひとの父がたおれる

 ひとに会いにゆく

 まで、
言葉の力を信じる詩集。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784866181356

『詩303P』(内田麟太郎 303BOOKS)
 タイトル、「Q」。大きなQの文字。そして、「ねずみさん ねずみさん こっちむいて」。自由だ。気持ちいい。
https://303books.jp/303p-rintaro/

『昆虫変態図鑑』(川邊透・前畑真実:著 平井規央:監修 ポプラ社)
 222種類の昆虫の様々な変態を解説しています。なんとまあ、己の無知さよ。知らない昆虫がたっくさ~ん。決して可愛くはありませんが、みんなきれいです。
 昆虫好きの子どもには宝物のような図鑑でしょうね。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/4900330.html

『答えのない道徳の問題 どう解く? 正解のない時代を生きるキミへ』(やまざきひろし:文 きむらよう&にさわたいらはるひと:絵 青木慧子:絵・デザイン ポプラ社)
 「がっこう」「できる」「はたらく」「どりょく」など、解き方によって無数に答えが用意できる問いが立てられています。識者による、それぞれの解答が用意されていますが、それが正解というわけではありません。答えは「キミ」の中にあります。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/4900300.html

【絵本カフェ】2022/12
『ことばとふたり』(ジョン・エドガード:文 きたむらさとし:絵・訳 岩波書店)
 言葉を持っているわたしたちは、言葉を知らない状態を想像することは難しいです。なぜなら、言葉を持っているわたしたちにとっては、想像する道具として言葉がいるからです。
 この絵本は、言葉と絵を組み合わせることで、その難しさをクリアしています。
 言葉を知らない生き物は「たのしい」ときは腕を伸ばしてぱたぱた。「おいしい」ときは宙返り。「あったかい」という言葉も知りませんが、焚き火のまえでうとうとと、気持ちいい。これらはどれも喜びに属する気持ちですが、「こおりのように つめたい かぜが こころを ふきぬけ、どうしたらいいのか わからなくなる」とき、言葉を知らない生き物は「むねを たたき、あたまをたたいて、とおくの くもを みあげる」ばかりです。喜びの気持ちは一人でも満たされますが、悲しい気持ちは一人では辛いのです。言葉を知らない生き物の目には涙が光ります。
 それを見ていたのが、言葉を知っている生き物です。遊んでいるときは「ああ、たのしい!」と声に出し、美味しい物を食べたときは「ああ、おいしい!」と声に出し、焚き火の前では「あったかい!」と声を出します。だから、言葉を知っている生き物は、知らない生き物が今「かなしい」とすぐにわかります。
 自分に出来ることは一つ。ハグをしてあげること。「ハグ ハグ」と言って近づくと、言葉を知らない生き物は何のことかわからない。でも、言葉を知っている生き物と抱き合うとわかった。それこそが「ハグ!」だと。
 それから二人は仲良く暮らすのですが。静かな夜には言葉はいりません。
言葉を生かすも殺すも、その人次第です。
 言葉の持つ豊かさを伝えます。
https://www.iwanami.co.jp/book/b611106.html

*来年もよろしくお願いします。

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