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【MMPI2RF学習4】MMPIと発達障害の私的レビュー③ ~ASD

本ノートは、MMPI使用者向け。MMPIと発達障害についての気楽なレビュー。レビューっぽくまとめた論文の皆さんの紹介です。系統だってなんてないです。前回の続き。


5,ASD

(1)バック・トゥー・the MMPI

 MMPI時代に「臨床現場で活かす! よくわかるMMPIハンドブック(基礎編)」で、ふれられてたのはASDでした。ADHDよりもむしろ。そうか、MMPIはASDをうまく切り出せるのかしらん。
 例えば

 広汎性発達障害の4症例に6尺度の上昇 (新谷、2008)
 ~(中略)~
 高機能の自閉スペクトラム症群(成人20名)において、基礎尺度ではL尺度、第2尺度、第0尺度、追加尺度では社会的不快感の尺度、抑圧の尺度、内向性の尺度が高かった(Ozonoff,2005)

日本臨床MMPI研究会監修(2022)「臨床現場で活かす! よくわかるMMPIハンドブック(基礎編)」P13

 なんてあって。ASDについて上記のいくつかの尺度でとらえるよりも、おすすめなのは

社会性やコミュニケーションに関連する尺度や、二次障害に関連するような尺度(例えば緊張や抑うつ関連の尺度)に特徴がみられることは、その臨床像からも推測できるようにおもいます。

日本臨床MMPI研究会監修(2022)「臨床現場で活かす! よくわかるMMPIハンドブック(基礎編)」P13

そうか。ASDの対人行動・対人関係の特徴、これが何かの形で、MMPIにあらわれてくる、のかもしれない。2次障害がわかる、のかもしれない。
 さて。ASD的な特徴がMMPIの何らかの「対人関係」関連尺度に特徴があらわれるのか?そんな期待をもって、みていきましょう。

(2)ASDとクラスターCのパーソナリティ障害

目的:自閉症スペクトラム障害(ASD)とクラスターCパーソナリティの症候学(CCPD)の表現型を解明するには、より実証的な研究が必要である。双方が臨床上類似性を示している。私たちは、知的障害のないASDの成人を対象にMMPI-2-RFを用いることによって、現代の次元分類法(例:精神病理学の階層分類法HiTOP)で概念化される性格と精神病理が、運用可能なのかを探索する。
方法:臨床データを用いた二次分析プロセスを適用し、ASDの成人(n = 28)のMMPI-2-RFプロファイルをクラスターCパーソナリティ障害(CCPD;n = 28)と対照群(n = 28)をノンパラメトリック検定を実施し、効果量を評価する。
結果:ASD群とCCPD群のプロファイルは類似していることが証明された。両方の平均臨床プロファイルは、士気喪失demoralization、内在化internalizing、および身体化症状somatization symptomatologyの上昇により、対照群と区分した。ASDとCCPDの平均プロファイルの間にはわずかな差があった。精神病理学の次元尺度を使用した追加の研究は、ASDおよびCCPDの次元表現型を解明する可能性がある。
考察:この研究の結果に基づくと、MMPI-2-RF は、外在化スケールを除いて、2 つの臨床症状を有意に区別しない可能性がある。

Langwerden(2022).An Exploratory Study of MMPI-2-RF Personality and Psychopathology Profiles of Adults with Autism Spectrum Disorder without Intellectual Disability
Clin Neuropsychiatry. 2022 Oct; 19(5): 335–346.
Bing翻訳をもとに一部を修正


 MMPI-2RFのASD群の特徴は、対象群と比べた場合、上記だと、「士気喪失、内在化、身体化症状」。具体的に尺度でいえば
EID,RCd,RC7,RC2,NEGE-r,COG,SFD,NFC,STW
の上昇を挙げています(論文半ばに表や図あり)。全体にCCPD群と上昇の仕方は似ている。だから、コントロール群と、臨床群(ASD群、CCPD群)は差がでる。だけれどASD群ーCCPD群は差が出ない。でるのはRC4とGIC(胃腸の愁訴)に差がでている、といこと。これらは二群を分けるような特徴を示す結果じゃないでしょうね。ASDとクラスターCのパーソナリティ障害ってMMPI-2RFのプロフィールパタンが、そっくり。

 あれ、でもMMPI時代には「対人関係」に特徴があるかもって指摘があったでしょ?この研究ではどうなのかというとこんな一文が。

 ~ほとんどの社会的回避関連症状レベルの次元はすべて平均を上回っていたが、臨床カットオフを超えていない。これらの尺度は、Interpersonal Passivity (IPP), Social Avoidance (SAV), Shyness (SHY), Disaffiliatedness (DSF)である。

Langwerden(2022).An Exploratory Study of MMPI-2-RF Personality and Psychopathology Profiles of Adults with Autism Spectrum Disorder without Intellectual DisabilityClin Neuropsychiatry. 2022 Oct; 19(5): 335–346.
google翻訳をもとに一部を修正

 カットオフ値以下(T=65以下)だけれど、IPP、SAV,SHY、DSFは高まる。すなわち、臨床上問題あるレベルではないにしても、社会的回避傾向は少しあるぞ、ということがわかります。
  MMPIでいうとASDについてはこれだけ、にみえます。ただそもそもASDと人格障害については研究されていて、一部、MMPIの研究も


(3)ASDとパーソナリティ障害の、レビュー

Rinaldi(2021)のレビューは包括的で、ASDの評価に使われている診断面接や、性格検査の尺度を評価しています。MMPIもでてくるけれど、(1)で引用されていたOzonoff(2005)の研究のみが対象になっています。だからこのレビュー,MMPIについてはなんも知見をもたないです。だけれども

レビューしたほとんどの研究で、ASDの成人の性格は、定型発達の対照群とは異なる、特定のプロファイルがあることをみいだしている。ビッグファイブの性格特性とTCIは、ASDの成人の性格を測定するために最も一般的に使用される。

Rinaldi,C.et al2021)Autism spectrum disorder and personality disorders: Comorbidity and differential diagnosis
World J Psychiatry. 2021 Dec 19; 11(12): 1366–1386.
Bing翻訳より一部修正

  おそらく性格検査ってなにかASDの特徴をみいだしているようです。ただ、今のところMMPIはちょっとイマイチ。このレビューによればビックファイブ性格検査(NEO-FFI)とかTCI(Temparament and Character Inventry,日本版もある)はよく研究されてるようですね。
 よし、ASDにはビックファイブ・・・・ってMMPIの話だったんですが。

6,まとめとおわりに 

 ASDとMMPIはあまり相性がよくないのかもしれません。あるいはASD者の対人関係、「コミュニケーション」や「対人相互作用」といったファクターを見出すには、質問紙のように、被験者の意識的選択・主観的体験に頼るものでは難しいのかもしれません。ASD者の「コミュニケーション」「対人相互作用」はもともとそなわった要素で、それはつまり意識の遡上で知的に処理することができる質問紙にはのらない、のかもしれません。それでも今までの研究でいうところの「人格障害」の一角に、その姿をみることができるかもしれません。
  
 一連のnoteは、自分のまなんできたことをまとめただけだけれども、MMPIや発達障害について学ぶ人の少しの刺激にでもなれば、とおもっています。

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