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【書評】「よくわかるMMPIハンドブック臨床編」~その①総論編

本ノートは「臨床現場で活かす!よくわかるMMPIハンドブック臨床編」(野呂浩史・荒川和歌子編集 日本臨床MMPI研究会監修 金剛出版 2022)の感想です。感想は二つに分けます。こちらは、全体的な感想。読んだことない人向けでもあります。

本書の位置づけ


  この本は「臨床現場で活かす!よくわかるMMPIハンドブック基礎編」(野呂浩史・荒川和歌子・井手正梧編集 日本臨床MMPI研究会監修 金剛出版 2018)の姉妹編となる著作で、「基礎編」がMMPIの使い方とか解釈の仕方を説くものであれば、こちらはケースブックです。双方そろえてみましょう。

ここはトレーニングの場所だ!

 
 この本、なにより”鍛え”られます。同じ著者のケースではなくて、様々な著者がケースを並べています。MMPIの切り取り方も様々。ある人が注目している尺度はある人は注目していません。使い方にも個性があります。そしてなにより生半可なMMPIの知識だと、中身があんまり入ってこないです。まあ、ロールシャッハだってそんなものですよね。「このケースは、C'反応が多くて、ハイラムダであり、なおかつ内向型のタイプの特徴があり系列分析上は云々」とか。用語がわからんともう呪文みたいで、わけわかんない。
 それでも本書はよみやすい工夫がなされています。各ケースの冒頭に要約がまとめてあるので、良いガイドです。MMPIを始めたばかりの人は、要約とプロフィールパタンには注目しましょう。細かい尺度のことはおいといてもざっくり理解していくこともできます。とりあえずそうすれば通読は可能。でもそれじゃあ、もったいない、というのが本書でしょう。
 ぼくは、ずいぶんとMMPIをつかってきているつもりで、とくに姉妹編「基礎編」だって結構つかっているほうです。それでもさくさくよめない。「ああこの尺度とここに注目したんだ。あれ?この尺度ってなんだ?」ってひっかかってきます。
 そう、だから鍛えられるんですよね。一個一個、あれこれってなんだ?って細かく理解しようって気張ると大変です。いちいち、あれは何だこれは何だ?と気になっちゃうものです。だから文章理解の咀嚼が疲れてしまう。でもそれをひとつづつ嚙み嚙みして読むのがこの本のだいご味。硬いスルメイカのごとしです。いずれ顎が発達してかむ力がまし、本の帯にあるように「マスター」を目指すことができるでしょう。ここはトレーニング会場、ですね。
 最も読み応えのあるにのは「症例検討会」。ライブ感がありますね、いきいきとしたそのやり取りの空気が感じられるようです。それぞれの切り取り方が、ヴィヴィッドに伝わってきます。

読む体験で、得られたもの 

 よいケースを聞くことは、かえって自分を見つめることになる、と僕は思います。一人一人の過程は、個別のストーリーは、合わせ鏡のように自分の姿を映し出します。
 そういった意味で、本書を見ながら体験したのは、”自分の個性と同じ切り取り方をしているケースだとするすると入ってくる”です。だからこそ自己認識が洗練されたように感じました。「するする」入ってきて自分の個性にあうもの、は自分の今までの見方がこれでよかったと安心することができます。重要な学び。でもするするはいってこなくて、むしろ「ごつごつ」違和感を感じて、理解に困難があったもの。そこから理解しようと考えたり調べたりすると、自分のすそ野が広れがれる気もします。これもまた重要な学びと感じます。単一著者のケース集だとこういうことはないのかもしれませんね。
 


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