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戦後・退役後PTSDに対する「神話」のもたらす効果

第1稿のコメント欄に挙げておいた文献は、帰還後の兵士や退役軍人のPTSDに対する、「神話」のもたらす効果について述べています。

2000年以上前のギリシア神話「アイアース」には、すでに現代と同様に帰還後の兵士たちを冒す激しい心的外傷(「トラウマ」はギリシア語で「傷」の意味)についての記述があります。そして、現代の兵士たちを癒やすのも、古代の神話を朗読し、古代の兵士たちの歌を歌い、「許し」の儀式に参加すること、そして詩を書いたり読んだりすることだと、文献の著者Michael Meadeは述べています。おそらくこの方法は古代においては、公式に帰還兵を迎え入れ、彼らの重荷を集合的に肩代わりする作業として、もっとうまく行われていたのだろう、と「神話リトリート」を行っているMichael Meadeは述べています。

Meadeは神話リトリートの目的を「兵士たちが戦友や、自己のパーソナリティの一部を残してきた『黄泉の国から彼らを導き出し、生者の世界に戻すこと」だと語っています。

これはまさしく、聖杯伝説の基本プロットとも共鳴しあう、重要な証言です。

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世界中のスピリチュアルな探求の基盤として伝わる秘教的な知識の伝統において、さまざまな時代にグラール(Holy Grail)の存在が語り継がれてきました。通常、それは人智を超えた力を持つ「聖杯」として語られることが多いのですが、単に表徴的なシンボルとしての描写であり、深く解釈されるべき余地を残しています。

秘教的な知識の伝統において、聖杯伝説の騎士たちは精神的知識の探求者を暗示しており、彼らは精神的進化の助けとなる存在としての神やグラールについて探求していたと解釈されます。

注)パウロ・コエーリョの自伝的小説「星の巡礼」において、テンプル騎士団の末裔らしき精神的探求者たちが、儀式において騎士の姿で登場する興味深い描写があります。余談ながら、この本の感想には「難解」「宗教的すぎる」という意見が多いようですが、この小説の骨格は「非宗教的スピリチュアリティの探究」であり、現代においてもその修練のシステムが古代から密かに伝えられていることを、実体験として報告している大変に貴重なものです。
この修行の旅で得られた主人公(=コエーリョ自身)の内的成長が、やがて「アルケミスト」の創作として結実することになります。
興味深いことに「星の巡礼」のストーリーも、
1.試験に失敗(内面的な「死」)
2.修行の旅(自己の内面の探究)
3.自己の再発見(新しい自己としての再誕生)
という、聖杯伝説と共通するプロットを持ちます。

グラールは、聖杯探求者たちをテストし、援助のためのヒントを与え、時には試練を与える存在です。もしもファルコが示唆したように現代におけるグラールの新しい形が「病気」なのだとしたら、人類は病気を忌避するのではなく、なぜ病気になるのか、どのように病気と相対するべきなのか、病気と向き合うことで人間が得るものとは何なのか、そういった視点が必要になってくると思われます。

そして、特定の「物語」が持つ力とは、内面的な危機において自己を見つめなおし、自分の人生において生きる意味や意義に活力を与え、新たな自分として生まれ変わらせることができる、そのように思われるのです。

それは単にプロットの構造によるものではなく、物語に内在する力がそうさせるのだと。

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ダマヌールの創設者でありスピリチュアルガイドであったファルコ(オベルト・アイラウディ)は、ダマヌールの人類の神殿の意義を「私たち人間は自分で思うよりももっともっと能力があり、ひとたびそこにアクセスする術がわかったなら、その隠された宝が誰の内にも見つけ出すことができるのだということを、人々に思い出させるため」だと語っていました。

そう理解すると、人類の神殿とグラールの関係も、おぼろげながら見えてくることと思います。


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